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【11作品】クズと吸血鬼と青い春  作者: あぱ山あぱ太朗
1章 衛藤英吉は自他ともに認めるクズである
3/20

1-2

「よっしゃー放課後だー! デートだ!!」

 待ちに待った放課後。俺のアバンチュールが始まるぜ。授業中もずっとデートのことを考えていたせいで、リトル・英吉が一生懸命にテントを張っていた。

 すみませんね、キャンプが大好きな息子でして。アウトドアなんです。

「よくその声量で叫べるな、英吉……」

「英語の授業で言ってたじゃんか。日本人はもっと性に開放的になった方がいいって」

「何なんだよ、その最低教師シリーズ! お前の妄言で先生たちの株が爆下がりだよ!」

 放課後になっても士郎のツッコミは健在だった。

 だが、今は男同士で戯れている暇はない。バラ色の未来が俺を待っているからな。

「悪いな、士郎。今日で俺たちのコンビ『金の卵』は解散だ」

「自分らで『金の卵』とか言っちゃうコンビ痛すぎるわ! 解散して正解だよ!」

「略称はキンタマ」

「頼む、死んでくれ!」

 コイツともう漫才ができないって思うと泣けてくるぜ。悪いな、俺は愛に生きる。

「士郎も彼女とのイチャイチャバイトを満喫してくれ」

「よ、余計なお世話だ! 公私混同をするつもりはないからな!」

 お堅いねぇ。そこが士郎の魅力ではあるんだけどな。

「英吉先生! 今日は最後まで行くんすか!?」

「まー、流れ次第だなー」

 大輝は脱童貞を標榜していることもあり、ノウハウや必勝法を知りたがる。

 けどな、甘いぜ大輝。相手も人でありプレイヤーだからな。必勝パターンなどは存在しない。ケースバイケースだ。常にアドリブへの対応力が求められる。

 だからこそ気負わない方がいい。堂々としていることが肝要だ。

「……英吉。お前の恋愛観は否定しないが、相手が不登校明けの子だってのを忘れるなよ」

「士郎のそういうとこ好きだぜ、俺」

 一緒に馬鹿騒ぎする大輝のような友達も大切だし、間違った道を進もうとしていたら止めてくれる友達も大事だ。

「お、男を口説いてどうすんだよ!」

「照れるな照れるな」

「照れてない!」

 士郎は耳を真っ赤にしている。同性ながら可愛いやつだな。なんて微笑ましく士郎を眺めていたら、クラスメイトの八尾井さんからぬるっと生暖かい視線を感じた。

 今年になってからしばしばこういうことがある。

 本人に直接聞いたら「志村くんに優しくしてあげてください。たまには代島くんにも構ってあげて。ぐへへ」的なことを言っていた。

 メガネの奥が妖しく光っていて怖かったな。実害はないのでスルーしてるけど。

「なるほど、デート前に男を口説いて練習してるわけだな! めっちゃ勉強になるぜ!」

 大輝のやつは色々と勘違いしているが訂正するのも面倒くさい。放置で。

 八尾井さん悪い、大輝に構っている余裕はなさそうだ。

「さてと」

 それじゃあ一発かましてやりますか。経験を積んでもこの独特な緊張感は無くならないな。

 士郎の有難い忠告は頭の片隅に置いておき、真中さんの方に向かって歩き出した。

 

「真中さん、考え直すなら今のうちだよ……?」

 本日のデート相手の元に赴くと先客がいた。

 士郎の彼女・風香である。カップル揃って真中さんへの配慮が行き届いているな。

「おい、風香。人聞きが悪いぞー」

「え、衛藤くん……っ!」

 そんなあからさまに「しまった」って顔をしなくても。キレたりしないっての。風香なりの心遣いってことは理解できるからな。

「ったくよー、こんな優しい男がどこにいるよ?」

「た、確かに衛藤くんは意外と優しいし、気が利く方なんだけどさ……! その使い方に致命的な問題があるんじゃないかな!?」

「なるほどなぁ、さすが風香。それは言い得て妙だな」

 包丁は便利な道具だけど、使い方次第で人を害することも可能。みたいな話だよな。

 ふむふむ、委員長が言うことには含蓄がある。

「感心しなくていいから、心に響いてくれると私は嬉しいかな!」

「あぁ、分かったよ。しかと胸に刻んだぜ。真中さん、今日のデートは安心してね。全く下心がないって言えば嘘になるけど、俺は真中さんと純粋に仲良くなりたいんだ」

 真中さんを不安にさせないように優しく柔和な笑顔を浮かべる。

「さっそく使い方間違えてるよ!?」

 さすがは士郎の彼女だ。彼氏に似て、風香もナイスツッコミだった。

 でも、困ったな。この流れだと「打算の優しさ」みたいに思われてしまいそうだ。


「藤倉さんありがとう。でも、衛藤くんはいい人よ。ね、衛藤くん?」

「あ、あぁ……うん」


 真中さんがフォローしてくれた。助け舟を出してくれたってことだよな。

 何だろうこの違和感は。全てうまく進行しているのに、勝ち取っている感覚がないというか。ある特定の方向に誘導されているような気もする。

 ……考えすぎ、だよな。

「ま、真中さんがそう言うなら……。ごめんね、余計なお世話で」

「そう落ち込むな、風香。人は時に間違うこともある」

「ここで衛藤くんに励まされるのは、絶対に違うと思うんだ!」

 風香がプンスカと頬を膨らませている。いちいち反応が可愛らしいんだよな。

「あ――私も全然気にしてないよ。むしろ気遣ってくれて嬉しかった」

「それならよかった! 何かあったら気軽に声掛けてね!」

 うんうん、こういうのいいな。友情の芽生えってやつじゃん。我が子を見守る父親の如く、腕組みをしながら何度も頷いてしまう。

 風香が「衛藤くんはどういう立場なの」とジト目で睨んできたけど知らんぷりする。


「それじゃあ、真中さん! 共に心踊るアフタースクールを――――」

「まなかー、アンタはまだ帰れないぞー。一ヶ月近く不登校だった人間をホイと帰らせるわけにはいかんのだよ。アンタはこの後、面談」


 いよいよってタイミングで邪魔が入ってしまう。

「ちょ、七海ちゃん!?」

「中里先生だ。衛藤なー、盛りが付いた猿じゃないんだから少しは自重しろよー」

「お言葉ですが、男子高校生は全員『盛りが付いた猿』です!」

「そんな自信満々に言われてもなー」

 後ろから「え、もしかして士郎も……?」「お、俺は違うぞ……決して誰でもいいわけじゃなくて……(チラっ)」「そ、それって!」と風香と士郎のヒソヒソ話が聞こえてくる。

 おいそこ、イチャついてるんじゃないぞ。

 しれっと合流して、俺を出しにちちくり合うとか許せん。

「衛藤くん。申し訳ないんだけど、少し待ってもらってもいいかな?」

「オフコース。その辺で時間でも潰してるよ」

 諦める、そんな選択肢はない。

 一種の焦らしプレイだと思って楽しもうじゃないか。

「真中行くぞー」

「また後でね、衛藤くん」

「ほいよ、いってらっしゃーい」


   ***


 ――――なんて言って、送り出したのはよかったんだけどさ……。


「さすがに長くねーか!?」


 誰もいなくなった教室で声を上げた。

 時刻は十七時。来週には衣替え移行期間を控えている五月半ば。夏至も近い。おかげで太陽は元気に活動中だけど、気分は完全に夕方だよね。

 そろそろ二時間近く待っている計算だ。スマホゲームで時間を潰すのも限界である。

 これならバイト先で士郎と駄弁っていたほうが良かったんじゃないか。

「しっかし、どうしたものかー」

 真中さんと連絡先を交換するのを失念していた。

 先に帰るよ、と一報を入れることもできない。帰るにも帰りづらい状況なのだ。

 駅前のカフェで軽くお喋りでもする予定だったのだが、もうそんな時間でもないからなー。日を改めるのが互いの為じゃなかろうか。

「よし、あと一○分! 一○分して来なければ――」

「来なければ?」

「うわぁぁぁあああああああ!?」

 突然、耳元で声がした。

 驚きのあまり腰掛けていた机から転げ落ちそうになる。

「そんなに驚かなくても」

「ご、ごめん! 全然気づかなかった!」

 足音や気配が一切なかった。仮に彼女が凶器を持っていたら、何も分からないまま死ぬことになっていただろうな。そんなことはあり得ないんだけど。

「こっちこそごめん。かなり遅くなっちゃったね」

 当然、声を掛けてきたのは真中さんだった。

「大丈夫、大丈夫。意外とあっという間だったよ」

 呼吸を整えて真中さんと向き合う。二時間ぶりに見る彼女の姿。こんな僅かな時間で何かが変わるはずもないのに、どこか大人びた雰囲気を纏っている。

 教室には俺と彼女の二人きり。

 空間は開けているはずのに、えも言われぬ圧迫感があった。


「クスクス。帰ろうとしているように見えたけど?」


 唇の端を薄く、微かに、ふわりと上げて、真中さんは蠱惑的な表情で笑う。

 その瞬間、俺は幻に取り憑かれたように現実感を失った。紅紫色の蝶が煌めく鱗粉を撒き散らしながら揺蕩うように宙を游ぐ。

 胡蝶の夢なんてよく言ったものだ。夢か現か。一瞬、その境界が揺らいだ。

「そ、それは指摘しないでくれると助かるな」

 落ち着け、この空気に呑まれるな。誰もいない放課後の教室。この特殊なシチュエーションによって魅惑の魔法が彼女にかかっているのだ。

 相手は同い年の女子。それ以上でもそれ以下でもない。

「ふふっ。いいよ、許してあげる」

 魔法は解けるどころかその効力を強めているようだった。

「あ、あぁ……とにかくお疲れ。結構、絞られてたみたいじゃん?」

「そうね、疲れちゃった」

「どうっすかー。今日はもう遅いしやめとく? 親御さんも心配するんじゃない?」

 いや、そうじゃないだろ! 何を言ってるんだ、衛藤英吉!

 駆け引きのないシンプルな本音で喋ってしまった。俺も疲れているのかもしれない。モテ男モードの仮面が剥がれかかっている。

「……衛藤くんって意外と真面目な人?」

 魅惑の魔法が薄らいだような気がした。ここまで素で驚かれるとは思わなんだ。まぁ、今日の立ち振る舞いを考えたら無理もないんだけど。

「いやいや、そんなことないって! 俺は見ての通りちゃらんぽらんよ!」

 ブランディング的に『真面目』だと思われるのは良くない。

 遊んでそう、チャラい、と思われている方が相手にガチ感を与えないし、変に沼らせることもないからな。

 あと、単純に恥ずかしいだろ。こんな感じで根はしっかり者とかさ。

「…………やめてよね。罪悪感とか嫌だよ」

「ん、なんか言った?」

「ううん何でもない。あのさ、一つお願いがあるんだけどね」

「お願い?」

 何度か頭を振った後、真中さんがジッとこちらを見つめてくる。

 放課後、夕暮れ、誰もいない教室。これはもう完全に告白シーンなんだけど、残念ながらそんなフラグは立っていない。

「この後、衛藤くんの家に行ってもいい?」

「まじか」

 想像をはるかに超えてくる。条件反射で言葉を発していた。

 いや、待ってくれ。本当にどういうことよ。意味、分かって言っているのか? 

 俺は人畜無害な今時の草食系男子とは違うんだぜ?

「一応言っておくけど……俺って一人暮らし、だからね?」

 高校進学を機に上京してきた。

 出身は新潟県の新潟市。小中学校は新潟市内の学校に通っていた。

 親が開業医をやっていて、ぶっちゃけ金には困っていない家柄でしてね。

 長男が東京の高校に進学して一人暮らしをすることに、特に反対の声が上がることもありませんでした。この爛れた性生活も家に親兄妹がいないから成立している。

「知ってるよ。藤倉さんが教えてくれたし」

「な、風香のやつ余計なことを! てか、それが分かった上での提案なんだ?」

 じゃあ、そういうことでいいのかな。遠慮なんてする気はない。

 ここまで女の子が積極的にアピールしてくれているんだ。無碍にする方が失礼だろう。

 据え膳食わぬは男の恥。衛藤英吉の座右の銘である。

「うん」

「そっか、じゃあ行こうか」

 なんてクールに振る舞っているが、内心は――――


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 確定勝利演出きたああああああああ!! 

 うっひょおおおぉぉぉぉおおお!! SAY YEAH!! HOOOOOOOO!!

 

 って、感じだった。絵に描いたような有頂天である。

 なんで俺ってこんなモテちゃうの!? もう自分が怖いわ! 敗北が知りたいぜ。

 しかし、そうなるとゴムが必要だな。遊び人にもマナーがある。たぶん家にあった気がするけど、怖いからさりげなくコンビニで忍ばせておくか。

「よろしくね、衛藤くん」

 この時には彼女への違和感なんてすっかり消え去っていた。


 俺の城は東中野の学校から徒歩二◯分。最寄駅の西武新宿線・新井薬師前駅までは一◯分もかからない場所に位置している。

 下手に都会都会してなく住みやすい住宅街。

 近所にスーパーやドラッグストアもあって生活には困らない。少し歩けば飲食店が多い中野に出られるし、住む上で何一つ不都合はなかった。

 間取りは1Kで新潟の実家と比べたらとんでもなく狭いのだが、それでも十五畳の広さがあってバルコニーまで付いている。風呂とトイレもそれぞれゆとりがあって閉塞感もない。

 何よりも自分一人だけの空間というのが堪らないよね。

「なんか飲む?」

「お構いなく」

 そんな俺の城もとい部屋に、一人の美少女が足を踏み入れている。

 男の部屋に来たというのに慌てる様子もなく、落ち着き払った様子で真中さんはローテーブルの前に腰を下ろした。

 俺も自分のベッドの縁に座って、彼女とゆったり話すモードに切り替える。

「そのラグどうかな? ふわふわした手触りが気に入ってるんだよね」

 テーブルの下に敷かれたラグマット。シンプルなグレーで柄もないのだけど、手触りや座り心地には徹底してこだわった。

 いかに女の子にリラックスしてもらうかが肝心だからね。

 この部屋のこだわりを説明していったら枚挙にいとまがないが、とにかく共通のコンセプトは『女子ウケがいい』『安心感・清潔感がある』『絶妙にエロい』である。

 自分の趣味など一ミリも入ってない。女子を呼ぶことだけに特化した部屋になっている。

「衛藤くんらしい部屋だよね」

「あはは、それは褒められているのかなぁ」

 この子に言われるとちょっと皮肉っぽく聞こえる。

 お前の魂胆なんて見え見えだぞ、そう言われている気がしてならない。

「にしても、いきなり男の家に来るなんて勇気あるよね」

「ねぇ、衛藤くん」

「え?」

 いきなり本番ってわけにもいかないので、徐々にムードを作ろうと思っていた。

 しかし、真中さんはゆっくりと立ち上がり正面までやってくると、驚いている俺に構うことなく肩を強く押してきた。結果、ベッドへと押し倒されてしまったわけである。

 あれれ、なんか想定していたのと逆の展開になっているぞ。


「衛藤くん、死んでくれないかな」


 ようやく現実に、回想が追いついた。

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