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【11作品】クズと吸血鬼と青い春  作者: あぱ山あぱ太朗
4章 吸血鬼がいればその天敵も存在する
20/20

4-6

「ふぅー食った食った」

 今日は珍しく替え玉をしてしまった。

「お腹いっぱいですぅ~」

 そんな俺に釣られてしまったのか、瑠愛も替え玉をしていた。ちっこい身体をしているのによく食うなと感心してしまう。

 さて、こんな幸せな気分で解散できたらいいのだが――

「ということで、衛藤さん! さっきの続きを聞かせてもらいますよ!」

「あぁ、ここで逃げたりはしない。すぐそこが俺の家だから、俺の家でもいいか?」

 その辺の公園でもいいのだが、少年少女がいる場所で話すには、ちと憚られるような内容なんでね。俺の気持ち的な問題なんだけど。

「へ、へ、変なことする気ですか!」

「いや、ガキに欲情せんて」

「ふん!」

「痛ってぇ!?」

 物凄い力でケツを蹴られる。つい、よろけてしまうくらいの威力があった。何かしら格闘技をやっている男子並みの力はあると思う。超痛い。

「次言ったら、本気でやりますからね」

「え、これで本気じゃないの?」

「わたしが一◯◯%の力で蹴ったら、衛藤さんは真っ二つだと思います」

 なにそれ、もはやギャグじゃん。衛藤/英吉にはなりたくない。

「それがヴァンパイアハンターの能力みたいな?」

「これがベースで他にも能力はありますよ。〈疑似魅了〉とかもそうですし」

 あんまり逆らわない方がいいやつだ、これ。

「そんな強いなら、俺が襲ったとしても返り討ちだよな……」

「そうでーす。衛藤さんはわたしが可愛くて、可愛くて堪らないと思いますが、ちゃんと我慢しないと大変なことになっちゃいますからねぇ?」

「だから、我慢するまでもなく――」

「するまでもなく?」

「なんでもありません」

 目に留まらぬ速さで上段蹴りのモーションを繰り返す。スパっ! スパっ! と空気が切り裂かれる音が幾度となく聞こえてくる。

 そりゃ怖気付きますよ。

「はぁー、やっぱり日本の男ってロリコンなんですねぇ」

 憎たらしい顔でクスクスと笑っている。

 日本男児、全員集結してくれ。皆でこいつのことボコボコにしようぜ。

「……覚えておけよ」

 今はこんな捨て台詞を吐くことしか出来ません。俺は無力だ。

「え~? 何か言いましたかぁ? もっと大きな声でお願いしまーす」

「な、何でもないです……。ほ、ほら! ってことで、ウチに行こうじゃないか!」

 粘り強く援軍の到着を待ちたいと思います。まさか誰も来ないってことないよね?

 日本の男が全員ロリコンのわけがあるまいし? ね、ねぇ?


「お茶とコーヒーどっちがいい?」

「お、オラン◯ーナで」

「ねーよ! 最近見ないし!」

 俺の部屋のラグマットの上に瑠愛がちょこんと座っている。

 何だかんだ言って異性の部屋に入るのには慣れていないみたいで、そわそわと落ち着きがない様子でややテンパっていた。

 せめて甘いものということで、アイスカフェオレにして提供する。

「え、フランス育ちのわたしにカフェ・オ・レですか? しかもアイスって。酷評される準備はいいですか?」

「嫌なら飲むな! なんか発音もむかつくし!」

 カフェオレの部分だけめっちゃフランス語だった。

 どうもカフェオレはフランス発祥の飲み物らしく(そもそもフランス語)、通常はホットで出されるものを指すらしい。そんなお国柄を嬉々と語っていたが、何だかんだ言って「暑い日本だとアイスの方がいいかもです」とグビグビ飲んでいた。

「意外と美味しかったと言っておきます。……じゃあ、聞かせてもらえますか?」

「地元で片っ端から女の子に手を出した理由、だよな」

 理由と言っていいのかは怪しいけどな。実際には楽しいと思ってやっていたことだし、言い訳みたいになってしまうのは御免だ。

 あくまで『きっかけ』になった出来事として話をしたい。

「シンプルにいえば親の不倫だな。フランスではそんな大事でもないだろ?」

 言葉にしてみればなんてこともない。

 気になってデータを調べたが、日本でも三~四割程度の夫婦が不倫をしたり、されたりしているんだとか。思った以上に多くてびっくりした。

「……恋愛やパートナー関係は日本より自由だとは思います。でも、結婚して子供がいる家庭ではやっぱり大きな出来事ですよ。わたし個人で言えば……いえ、多くのフランス人が同意してくれると思いますが、パートナーにされたら許せないって感じますよ」

「そう、なんだ」

 偏見があったのかもしれない。人種が違っても「嫌だ」と感じることには、そこまでの大差はないのかもな。

 もしそうなのだとしたら、俺にとっては救いになる。

「それで、その……どちらが?」

「どっちも」

 父親も母親も二人とも同じような時期に、たぶん現在進行形で不倫している。

 瑠愛は俺の回答に、少なからず驚いた様子だった。

「そ、それなら別れればいいのでは?」

「俺もそう思うけどね。簡単にはいかないみたいよ。子供もいるし、世間体とかさ。日本ってやっぱそういうの厳しいから」

 子供からすれば堪ったものじゃないけどな。

 いや、二人は二人で隠し通そうとはしていたんだと思う。俺が偶然にも知ってしまっただけなんだ。たぶん妹は知らないだろうし。


「それから足場が一気に無くなってさ。愛情とか友情とか、そういう人が人に向ける感情のすべてが薄っぺらくて、上っ面で、気持ち悪いものに見えてきちゃって」


 何食わぬ顔で「家族」を演じている両親が恐ろしかった。トイレで吐いたことも一度や二度ではない。

 だって、その『演者』に自分自身もなってしまったわけで。

 他人が何を考えているかは分からない。それでも家族だけは、分かり合うことができる最小単位だと思っていた。

 そこで気が付いてしまったのだ。家族も結局は『他人』であることに。

 信じられるものなんて最初からなかった。生まれてからずっと孤独だったのだと。

「どうして、そんな経験をした衛藤さんが色んな女の人に……?」

「繋がりが欲しかった」

「つながり……」

 今の俺には分かる。それがどれだけ幼稚で自分勝手な考え方なのか。

 行為に及んでいる時にだけ、他者と分かり合えるような気がしていた。相手の感情は本物で疑うべきものではないと。自分たちは心を通わせて同じものを見ているのだと。

 そんな夢物語を信じてしまっていた。

 何回も何回も何回も体を重ね合わせたところで、心の完全なる一致は不可能だ。

「しかも、質が悪いのはさ。俺は相手に『分かってほしい』だけで『分かろう』とはしていなかった。独善的で、独りよがりで、ただ不幸な自分に酔っているガキだった」

 それに気が付けたのは恥ずかしながら最近のことだ。

 自分と似ている孤独なやつが変わろうとしていて、そんな彼女に惹かれてしまっている自分がいて、そこでようやく他者を『分かりたい』と思えるようになった。

「……それが衛藤さんの孤独ですか」

「俺のっていうか、皆そうだと思うけどな。……いや、俺はそうだと嬉しい」

 大なり小なり全ての人間が一人で、孤独で、不可侵で、だからこそ自分とは違う存在を求めてしまうんだと、そんな風に俺は考えている。


「――――さてと、これで俺の恥ずかしい過去の話はおしまい」


 お互いの身の上話をした。完全な一致は不可能でも、心の一部は通じ合えるはずだ。

 その交渉・折衝こそが人間関係の基本ではないだろうか。

「現在の話をしよう。俺は今の自分がそんなに嫌いじゃないんだ。それは、一人? 一体? の吸血鬼との出会いがきっかけでさ」

「吸血鬼」

 その単語に瑠愛はすぐに反応した。やや同情的だった眼差しも消え去ってしまう。

 これはこれ、それはそれ、ってことなんだろうな。

「で、そいつの正体がクラスメイトの真中茉莉。本名は花火。瑠愛と同じように年齢詐称をしていて実際はニ十歳」

「なっ!?」

 まさかの発言に、彼女は目を丸くして驚いている。

「ど、どうしてそれをわたしに言うんですか! 大事な相手なんでしょう!?」

「なんで瑠愛が驚く必要があるんだ? これで花火さえ始末すれば任務完了だぞ?」

「そ、それはっ……!」

 ははは、その反応になるよな。やっぱり瑠愛と花火は似ているんだ。

「そこで一つ相談なんだが、今の発言を聞かなかったことにしてくれないか?」

「はぁ? な、なにを!」

「瑠愛が吸血鬼を始末しなきゃいけないのは分かった。だけど、その期間は定められていないんだろ? だったら、一年や二年掛かっても問題ないんじゃないか」

「何を言ってるんですか! それじゃあ、わたしの面子が!」

「でも、瑠愛は組織への帰属意識があまりない」

 信念や動機が強くあったなら、説得は難しかったと思う。だけど、彼女の記憶は四年分しかなくて、今いる組織にもなぁなぁで所属しているに過ぎない。

「そ、そうですけど!」

「見逃してくれって言ってるんじゃない。長めの猶予が欲しいんだ。それに、この提案は瑠愛にとっても悪いものではないと思うけど?」

「うっ……でも……」

 彼女も花火と同じで青春コンプレックスを持っている。まともに送れていな青い春を求めて求めて止まないのだ。

 最初からこの高校生活の時間を引き延ばしたいと思っていたのだろう。

 そうでなければ、所々で見せてきた甘さの説明がつかない。

 ――――よし、これが最後のトドメだ。

「これからも楽しいイベントが沢山あるんだぜ。体育祭に文化祭、あとは修学旅行か」

「へ、へぇ……」

「でも、このままだと瑠愛は参加できないぜ? すげーもったいない」

 これでどうだ。俺から提示できるのはこれくらいのものである。

 折り合いがつかないようなら、花火発案の駆け落ちプランに移行するしかない。


「うぅ……わ、分かりましたよ! 一年の猶予ってことで手を打ちましょう!」

「よし!」


 瑠愛は「ぐぬぬ」と数秒悩んだ後に、両手を挙げて降参のポーズをした。予想ではあるけど、彼女自身がこの結末を望んでいたように思う。

 やはり、何もかも上手く行きすぎだ。

 極端な案ではあるけど、花火を始末した後に「始末していない体」にして日本に居続けるという選択肢だって取ることはできるからな。

 彼女がその案に気が付いていないとは思えない。だから、これは彼女の優しさなのだ。

「衛藤さんって本当に悪い男の人ですね……!」

「俺に惚れるなよ?」

「バカじゃないですか! わたし、そんな恋愛体質じゃないです!」

 もちろん冗談だ。一応、俺には花火がいることになっているからな。

 ……花火? ちょっと待って、何か大事なことを忘れているような気がするぞ?

「でも、衛藤さん……じゃなくて、英吉さん!」

「ふぁ!?」

 一体これはどういうことでしょうか。

 何故かわたくし、金髪ロリ美少女に抱擁されているじゃありませんか。

「その、英吉さんの孤独のすべては分かりません。たぶん、わたしの孤独もきっと。だけど、英吉さんの話を聞いて、わたしはただこうしたいと思いました」

「瑠愛……」

 彼女の熱はやはり俺のものとは異なる。それでも、その異なる体温が「ここにいてもいい」と伝えてくれているような気がした。

 だから、俺は救われたような気持になれたんだと思う。

「これからその、よろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそ」

 それから会話はなかった。だけど、抱き合った状態をずっとキープしていた。

 互いの温度が心地よくて、なかなか離れることが出来なかったのだ。


「あ、あのあの……っ! お、お、お邪魔、し、しまーす…………は?」


 そんな男女二人が抱き合っているタイミングで、考えうる中で最悪の人物がゆっくりと扉を開けて部屋の中に入ってきた。

 瞬時に思考を回す。……まずは台所だ!

「せ、セーフ! とりあえず、落ち着いてくれ!」

 名残惜しさを感じながらも瑠愛との抱擁をすぐさまに止め、ダッシュで台所まで向かった。そこで包丁をなんとか確保し、流血沙汰を回避することに成功する。

「コロス!」

 忘れていたのは花火との約束だった。家に来るって話をしていたじゃないか。

 服装もよく見るとかなり気合が入っている。何なら気合が入り過ぎているくらいだ。

 オフショルダーのニットワンピース。色は黒でスカート丈はかなり短い。セクシーと言えばセクシーなんだけど、ここまでくるとエロより圧がすごかった。

 男って生き物は、意外とシンプルで可愛い系の服が嬉しかったりする。

 それに加えて香水の匂いも凄まじい。バニラの甘い香りが空間に漂いまくっていた。

「英吉さん、何ですか。このケバケバしい人」

「やめるんだ! ソレを刺激してはいけない!」

 この場は今や火薬庫だ。丁重に対処しなければ大爆発を起こす。


「オンナコロス……エイキチコロス……」


 息は荒く、目が血走っている。もはや化け物だ。

「花火、落ち着いてよく聞いてくれ。お前は誤解をしている」

「ゴカイ……?」

「あの抱擁は恋愛的なものではなく、どっちかというと友愛的なものなんだ!」

「ユーアイ……?」

 もう怖いよ。一体、俺はこいつのどこに惹かれたって言うんだ。

「え~! わたしは恋愛的な意味でも大丈夫ですけどねぇ~?」

「ばか、瑠愛! おまえ!」

 完全に分かってやっているだろ。明らかに目が笑っている。

 場が混乱するようなことをして楽しいか? 楽しいんだろうな、きっと!

「あはっ☆ 英吉、ちゃんと説明して?」

「怒りメーターが吹っ切れて、逆にマトモになった!?」

 ニコニコの笑顔になっていた。こっちのほうが余計に怖いんだけど。

「で、なんでフランス女がここにいるのかしら」

「その、成り行きといいますかね……」

「二人で内緒話をしてたんですよー。ねー英吉さん?」

「間違ってはないけど! 言い方があるだろ、言い方が!」

 頼むから余計なことを言わないでほしい。

「二人だけの秘密ですからね? ぜーったい、そこの吸血鬼には話しちゃダメですよー?」

「キキキ……二人だけの秘密、ねぇ?」

 人間の笑い方じゃない。誰か助けてください。

「と、とにかく花火! このヴァンパイアハンターから猶予をもらったぞ! 喜べ!」

「……はぁー、まぁそんな感じはしたけどね」

 花火もそこは察してくれているようだった。

 つまり、さっきまでの狂った態度は誇張表現だったわけだな。いや、演技だとしても奇行の数々にはドン引きだけど。

「じゃ、じゃあ! これにて一件落着だな!」

 なんかもう疲れてしまった。今日はぐっすり眠りたい。

「つ・ま・り! ここからあーしと英吉の長い夜が始まるわけね! ってことで、フランス女はさっさと国に帰りなさい!」

 どうやら寝かせてもらえないみたいです。

「嫌です! わたしも今日はここに泊まります!」

『は!?』

 待ってくれ。瑠愛が対抗心を燃やしてくる理由がちっとも分からない。

「わたしだけ仲間外れみたいで面白くないんですぅ! それに英吉さんと危険な吸血鬼を二人きりにするわけにはいきませんから!」

 わりと子供っぽい理由だった。可愛いな、おい。

「うるさいわね! 中学生のお子様はさっさと家に帰りなさいよ!」

「なっ!? 二十歳のおばさんこそ、早く寝ないと肌がカッサカサになりますよー?」

 年齢詐称コンビが互いの年齢のことで喧嘩を始めた。

 これ、どう収拾をつけようか……? 静観しているのが一番丸いか?


英吉さん! あーし(わたし)の年齢をこの子(この人)に教えたでしょ!』


 やばい、矛先がこっちに。

 どうする、何かこの場を収める解決策はないのか。


「そ、そうだ! せっかくだし夜通しトランプ大会なんてどうだろうか! なんか青春っぽくていいだろ!?」


 苦し紛れで言ってみたけどさすがにキツイか。

 いくら青い春に飢えている青春コンプレックスの二人でも――――


『え、最高!』


 なんか普通にアリみたいでした。単純すぎないか、この人たち。


「そうと決まれば、お酒を買いに行きましょ!」

「わたしは色んな日本のお菓子を食べてみたいです!」


 ……きっと、この二人も最終的には仲良くなってしまうんだろうな。

 ここにいる全員は似た者同士だから。

 生まれも育ちも思想も宗教も理想も夢も異なる俺たち。けど、だからこそ、僅かな共通点や類似点を見出して繋がっていけるのだと思う。

 俺たちは孤独ではあるけど、決して一人なんかではない。


 つまり、何が言いたいか。

 この後のトランプ大会が俺も結構楽しみだった。

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