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美しい薔薇には棘がある

「あーし、吸血鬼なんだよね」

 そう言って、妖しく笑う彼女をただ見上げている。

 まさかこの俺が女の子に押し倒されることになるとは思わなかった。いつもとは立場が逆だ。ベッドの上ではマウントポジションを取ることが多いんだけどな。

「吸血鬼ってなんかの比喩?」

「だったら良かったのにね」

 獲物を捕らえた肉食動物の様相。舌舐めずりをして、目を爛々とさせている。その瞳は真紅に染まっていて、吸血鬼という発言もきっと冗談ではないんだろうな。

 淫靡な情景に下半身が熱を持っていくのが分かる。これに反応しないのは無理だ。

 命の危機に瀕した時、性欲が高まるってのは事実なのかもしれない。そんなことを悠長に考えられるくらいには、今のこの状況を正しく認識できていなかった。

「悪いけど、衛藤くんには死んでもらう」

「できれば死にたくはないな」

「ごめん、無理」

 にべもない。交渉失敗だ。

「手厳しい。あーあー、死因は出血死かぁ。数ある死に方でも結構嫌だな」

「大丈夫。あーし、他人の血は吸わないから」

「あれ、そうなの? てっきり血を吸うのかと思ってたけど」

 吸血鬼といえばそういうイメージがあったんだけどな。

「……ねぇ、無駄話はこれくらいにしない? もう衛藤くんに何を話しても意味ないから」

 ここにきて彼女は悲しそうな顔をする。幽かに孤独の匂いがした。

 そうか、きっと彼女も――――もう、どうしようもないか。


「ごめんね」

 

 まさかゴールデンウィーク明け早々にこんな目に遭うなんて。

 いつもの軽薄さが裏目に出てしまった。

 もし今朝に戻ることが出来たなら、俺の運命は変わるのだろうか。

 いや、きっと俺の行動は変わらないな。

 だから、仮定をしたって意味はない。それは重々分かっているのだけれど、あらためて今日一日の出来事を振り返ってみることにした。

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