表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六銅貨の死事人  作者: 紅月ヨルカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/34

裏か表か5

漆黒の空の下、街灯の黄色い光がわずかに路地を照らしていた。爆発で燃えてる建物の上から焦げ臭い臭いも漂ってきていた。

この場所に満ちる重く張り詰めた静寂を一層際立たせる。

アカリが渾身の力を込めて攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、ロンリーベアのお尻に付いた小さな装置がけたたましい警告音と共に作動した。風を切るような「ヒュンッ」という音と共に飛び出したのは、アカリの身体をすっぽりと包み込む、無機質な金属製の網。その無慈悲な網に絡め取られたアカリは、能力を無効化された身体が鉛のように重くなるのを感じた。息苦しさに「あっ…!」と小さな悲鳴を漏らすも、網に阻まれ身動き一つ取れない。ロンリーベアは、いつもの愛らしいぬいぐるみとは裏腹に、その口元をニヤリと歪ませながら笑った。

「ごめんねアカリちゃん、傷付ける気はないからそのままおとなしくしといてくれ。おっと、能力無効化してるから騒いでも無駄だよ〜」

ニヤけた声とは裏腹に、その冷たい眼差しはレンドに向けられていた。

「考え直してくれましたか?大人しく捕まるか、死事人を辞めるか、決めてくれましたか?出来れば危害は加えたくないのですが?」

いつもの飄々とした態度とは違い、その真剣な眼差しは、レンドに有無を言わさぬ圧力をかけた。だが、レンドもまた、その鋭い眼光で応じる。

「そっちが仕掛けて来た事だろ?俺達はお前に喧嘩を仕掛けたつもりはないが?仲間の事も調べ尽くしたって感じか?…おう、小僧、その武器の準備しとけ。わかり合えると思うな!」

レンドは血管が浮き出たこめかみをひくつかせながら、鞘から刀を抜こうと「カチャリ」と音を立てる。しかし、スパークの方が一瞬早かった。

「残念です」

スパークはそう言うと、間髪入れずにレンドに蹴りを繰り出した。レンドは咄嗟に鞘で防ぐが、その衝撃に身体がぐらつく。

「やっぱり強いな。でも抜けますか?その刀?」

スパークは十手でレンドの鞘を何度も「カンッ、カンッ」と突き、鋭い金属音を響かせる。その隙に足払いを決め、レンドの体勢を崩した。

その一瞬をライムは見逃さなかった。リヴォルダガーを構え、スパークを狙い撃とうとする。だが、スパークは冷静にそれを回避した。

「こういう場面で銃を使うのはリスクが高い。レンドさんを盾にするかもしれないし、そうでなくても当たるかもしれない…。そういう事をちゃんと考えてから行動したほうがいいよ」

スパークは嘲笑うかのように冷静に言う。その言葉にライムは戸惑いを隠せない。

「そもそも今何が起きてるのか理解が追いつかないよ…。なんでここまでするの?」

ライムの問いに、スパークは表情一つ変えず、ただ冷たく言い放った。

「悪いね、仕事だから」

その言葉と同時に、スパークの銃が火を吹いた。空気を切り裂く「パンッ!」という乾いた銃声が響き渡る。ライムは避ける間もなく、その銃弾を頭部に受けた。熱く、焼けるような痛みが脳を貫き、意識が遠のいていく。鮮烈な赤色が、地面の上にじわじわと広がり、ライムの白い肌とのコントラストを際立たせた。鈍い「ドサッ」という音と共に、ライムはそのまま後ろに倒れ込む。

「小僧…!!」

レンドは時間が止まったかのように凍りつき、倒れたまま動かなくなったライムを見つめる。その瞳は、怒りと悲しみで揺れ動いていた。

「撃ってきたからお返しをしただけさ。しょうがないだろ、戦闘なんだからさ」

スパークはレンドの方に銃を向け、何事もなかったかのように平然と言い放った。夜の闇が、彼らの間に広がる冷たい空気を一層深くしていく。

頭部に走る激しい痛みと、目の前が真っ白になるような感覚。ライムの意識は深い闇へと沈んでいく。

(また、朝に戻るのか…こうならないように対策を練っておかないとな)

そんな思考が頭をよぎるが、ライムの意識は完全に途切れることはなかった。ふと目を開けると、ぼやけた視界にスパークと、地面に倒れているレンドの姿が見えた。

「悪いね、仕事だから」

耳に届いたその声を聞いた途端、脳が警報を鳴らす。激しい痛みに耐えながら、ライムは直感的に銃弾が来ると判断し、身体を捻って回避を試みた。同時に、愛用のリヴォルダガーのチャージ準備をしようとする。しかし、スパークはライムの動きを完全に読み切っていた。

「パンッ!」

乾いた銃声が夜の闇に響き、銃弾はリヴォルダガーの合体ギミック部分に的確に命中した。銃は使い物にならなくなり、ライムの行動は一気に制限される。

「悪いけどその武器の事は調査済みでね。あんな危ないもん使われたら死んじゃうじゃん?」

スパークは心底楽しそうに笑い、余裕の表情を見せる。その声が、網の中で身動きの取れないアカリの耳にも届いた。

「もうおしまいなのかな…?私達…」

アカリは絶望に打ちひしがれ、小さな声で呟いた。

スパークがレンドに手錠をかけようと屈んだ、その時だった。

「おい、一ついいか?」

レンドの口から出たのは、いつになく落ち着いた、冷たい声だった。

「刀が抜けないように細工しやがったな?」

スパークは少し驚いたように顔を上げ、すぐにいつもの冷酷な表情に戻る。

「ええ、今回はいかに事前に戦力を削るかに焦点を当ててまして」

スパークはそう言って、悪びれた様子もなく答えた。それを聞いたレンドは、不敵な笑みを浮かべる。

「その用心深さが仇になったな」

レンドが鞘を捨てた瞬間、錆びた刀が抜かれる。「カシャリ」という鈍い音が響き、それは一瞬でスパークから距離をとり、そして一気に接近した。レンドは刃を向けず、刀の峰をスパークの顔に叩きつける。鈍い音とともに、スパークは数メートル後方へ吹き飛ばされた。

「悪く思うな、さっきのお返しだ」

レンドの言葉と同時に、錆びた刀が一気に炎に包まれた。ぼうっと燃え盛る炎が、闇夜に鮮烈な橙色を描き出す。その熱気が、ライムの肌をチリチリと焼いた。

激しい頭の痛みと、壊れた武器に対する悔しさで身動きが取れずにいるライムに、レンドは冷たい視線を向けた。

「そこにいると燃やすかもしれないし、出来たら離れててくれるか?」

その言葉は、まるで他人事のように無感情だった。ライムは全身の力が抜けるような感覚に陥り、かろうじて絞り出した「ごめんなさい…」という声が夜の闇に吸い込まれていく。ライムは激しい痛みに耐えながら、頭を押さえてふらふらと路地裏を離れようとする。

しかし、次の瞬間、ライムの足元から冷たい氷がせり上がり、全身を凍りつかせた。

「!」

ライムが驚きに目を見開くと、何者かがライムの身体を持ち上げ、闇の中へと連れ去っていく。意識が再び薄れていく中、ライムの視界に映ったのは、燃え盛る刀を構えるレンドの背中と、凍てつくような冷気だった。

薄れゆく意識の中で、ライムは冷たい感覚に包まれていた。顔の部分だけが凍り付いていないことに気づくと、目の前には見知らぬ者が立っていた。

その者は、赤い鎧を着用して静かで威圧的な雰囲気を醸し出している。

「私は第三兵団の団長、アシュレイだ。お前たち死事人を討伐しに来たというのは建前で、一つ聞きたいことがある」

冷たい声にライムは戸惑い、かろうじて「何が知りたい…?」と尋ねた。

「ああ、素直だな。じゃあ一つだけ……家族のことは覚えているか?」

アシュレイの突然の問いに、ライムはキョトンとした。過去を探るも、鮮明な記憶は蘇らない。

「妹の事しかわからない。どこから来たかもわからない…ただ、妹といたことだけは覚えてる…」

ライムがそう答えると、アシュレイの目が鋭くなった。

「そうか。じゃあ、過去に戻ることはできるか?例えば、死んだ後とか?」

(まさか、リトライの事を知ってる…?一体何者なんだ…上手く考えられないけど、何か言わないと)

ライムの頭の中は混乱していた。警戒しながらも、「そんなことできるのか?みんな…」と、とぼけて答える。その瞬間、アシュレイは容赦なく氷の中でライムの首を切断した。

「まあ、隠してもこれでわかるさ」

アシュレイの笑い声が、ライムの途絶えゆく意識に響く。首の切断面からは熱い痛みが噴き出し、身体が急激に冷えていく。視界が暗転する……。

次にライムが意識を取り戻した時、再び全身は氷に包まれていた。しかし、先ほどとは違うのは、記憶が途切れていないことだった。

「うん、思った通りだ。能力の事は分かった。君の首を切ってしばらくすると歪みが発生して、全てが巻き戻った」

アシュレイの言葉に、ライムはただ驚くばかりだった。

「何を言ってるんだ…?」

ライムが震える声でそう言った時、アシュレイはライムの心臓を貫きながら言った。

「私も似たような能力があるから」

その言葉を聞きながら、ライムの意識は再び深い闇の中へと落ちていった。

激化する炎と銃の攻防

その頃、レンドとスパークの戦いは激しさを増していた。レンドの刀は燃え盛る炎を纏い、周囲の空気は熱気で揺らいでいる。レンドは炎を操りながら、迅雷のような速さでスパークに斬りかかった。

「ヒュッ!」

炎の刃が風を切り、スパークの顔を掠める。スパークはかろうじてそれを避けるが、レンドの攻撃はさらに加速した。

「チッ!」

もう避けきれないと判断したスパークは、咄嗟に十手の鉤で刀を受け止める。そして、その反動を利用してレンドを放り投げた。

「危ないな。今のはやられてたかも…」

焦りの表情でそう呟いた瞬間、レンドの炎の軌跡に沿って周囲の建物が音を立てて崩れ落ちていく。

「ドォン!」

砂埃が舞い上がり、スパークは呆然とそれを見つめた。

「ちゃんとコントロール出来てます?アカリちゃんに当たりますよ?」

皮肉を込めて尋ねるスパークに、レンドは何も言わずに再び迅速に移動を開始した。

「あ〜、それ辞めてくれませんかね〜。一方的でつまらないじゃないですか?」

スパークは苛立ちを隠せない。レンドの足元に向けて発砲するが、レンドはまるで煙のようにスッと消え、スパークの背後に現れる。スパークは素早く振り返り、十手で再び攻撃を受け止めた。しかし、今回は反動を少しだけ利用し、レンドの身体を上空に投げ飛ばす。

「チッ…」

スパークは銃を構えるが、撃つのを躊躇った。もし、この場でレンドを倒したら、取り返しのつかないことになるかもしれないと直感的に感じたのだ。ブースターを作動させ、空中のレンドに向けて思い切りジャンプ蹴りを放つ。

「ドガッ!」

重い衝撃音が響き、レンドの身体は遠くまで吹き飛ばされた。スパークは地面に降り立つと、その場に力なく座り込む。

「悪く思うなって言う方が無理だろうけど、こうでもしないと止めれないからさ、あんたの事は…」

スパークは荒い息を吐きながらそう呟いた。その時、炎で熱せられた十手が耐えきれず、メキメキと音を立てて半分に折れてしまった。

その頃アカリは路地裏の端の方の網の中で、目の前で繰り広げられる凄まじい戦闘をただ見つめていた。建物が崩れ、炎が燃え盛る中、不思議と自分には何の被害もないことに驚く。

(この網には、何か仕掛けがあるのかな?こんなに破壊されてるのに、私は無事なんて…。このまま動かない方が安全だったりする…?)

恐怖からか、逃げるという選択肢すら浮かばなかった。そもそも逃げ出す術もない。その時、崩れた建物の向こうから、甲高い声が響いてきた。

「やっと見つけた〜、モジャモジャ頭〜!さすが10億だね、やることが派手だ!おかげでここに来れたけどね〜。聞いてよ〜、ここに来るまでにさ、あっちこっち移動して、もう知らない所でさ、お腹は空いてなかったんだけどね、いっぱい食べたし。でもこのままじゃまずいなって思ってる時に、火の手が上がって建物が崩れるのが見えたから、もしかしたらと思って煙を頼りにここに辿り着いたんだ〜」

まるで止まらない機関車のように、早口で自分語りをまくし立てる声に、スパークは眉をひそめた。

「お前は確かココアフロートだっけか?今は来るな、お前の相手をしてる場合じゃないんだ!」

スパークが慌てて銃を向けるが、ココアはそれを聞いて嬉しそうに笑った。

「じゃあ、チャンスってことだね!」

ココアフロートは無邪気に言い放つと、スパークに近づいていく。その時、空からポツリ、ポツリと冷たい雨が降り始めた。

雨が告げる終焉

ライムは再び意識を取り戻したが、状況は変わっていなかった。冷たい氷に閉じ込められ、身動きは取れない。目の前には、アシュレイの冷酷な微笑み。

「まああれだね、君にとっては詰みって事だよ。死んでも助からない、生きてても助からない。どうする?降参する?多分しても処刑だけど」

アシュレイの言葉に、ライムは絶望した。

(もう逃げ場もないし、終わったな…)

その時、ポツリ、ポツリとライムの顔に雨が降りかかる。ライムの意識は霞み、冷たくなっていく。アシュレイは空を見上げ、薄く笑う。

「最近は雨がよく降るな。これも誰かの能力だったら面白くないか?」

アシュレイはそう言うと、持っていた長剣をライムの首に突きつけた。

「次は殺す前に凍らせて、二度と目覚めたかも分からないようにする。それが私なりのケジメだ。悪く思うな」

アシュレイの言葉に、ライムは顔を覆う氷の冷たさを感じた。そして心臓を一突きにされ、意識が完全に途絶えた。

しかし、次にライムが意識を取り戻した時、そこは世界の外側だった。目の前に広がるのは、歪みながらゆっくりと巻き戻っていく、不可思議な光景。それは、ライム自身が見つめてきた、何度も繰り返された世界の終わりであり、始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ