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六銅貨の死事人  作者: 紅月ヨルカ


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裏か表か3

前回のあらすじ


ココアとスパークの戦闘の後、方向音痴のココアを冒険者ギルドに連れて行くことになったライムだったが、道中でココアの強さと能力を見せられて驚く。


さらに冒険者ギルドの食堂での食事も、大食いで豪快で、ただただ驚かされてばかりのライムであった。



一方で、レンドは死事人としての依頼を終え、暗い街外れを一人で歩いていた。


人気のない通りはひっそりと静まり返り、ひび割れた地面の隙間から生えた雑草が、かすかに吹く風に揺れていた。


遠くには煌々と光る街のネオンが見えるが、この場所はまるで時間が止まったかのように、冷たい空気に包まれている。


乾いた土埃と、錆びた鉄の匂いが鼻をつく。



そこに、軽薄な笑い声とともに二人組の男がエコーリンクのカメラを向けながら近づいてくる。


彼らの目が光を反射して、まるでハイエナのように見えた。



「ちょっとおじさんさ?似てるよねぇ?死事人のメンバーに?」


馴れ馴れしい声が、耳障りな甲高い音で響く。


レンドは彼らの下卑た笑い声に眉をひそめ、懐に差した刀にそっと手を添える。


「死事人かどうかは別にしても、兵士の俺にそんな口をきいてもいいのか?すぐに捕まえれるぞ?」


一応の脅しをかけるが、刀も軽く構える。



男たちはその威嚇を嘲笑うように、さらに笑い声を大きくした。


「兵士がそんな態度で良いのぉ?すぐ死事人に依頼されて仕留められちゃうよぉ?」



男たちの言葉が、レンドの過去の記憶を刺激する。


「まぁ、俺らがその死事人なんだけどねぇ。ってわけで、おっさん覚悟しろよ!」



その瞬間、男達の背後から、怒りをはらんだ男の声が響いた。


「そうか。お前らが死事人か。じゃあ覚悟しろよ。今、俺、気が立ってるからさ!」


スパークだ。


男達が振り向くと、一人の男の顔面に上段蹴りが叩き込まれる。


鈍い音が響き、男の鼻が折れるのが見えた。


吹き飛ばされた男が地面に転がり、呻く。


スパークはそのまま右手で素早く腹と顎にパンチを食らわせ、男を気絶させた。


「この程度で死事人?しょうもないな」


スパークは吐き捨てるように笑った。



もう一人の男は恐怖に顔を歪ませ、懐からナイフを取り出す。


ナイフの刃が街灯の光を反射して、ギラリと光る。


「あーあ、武器出しちゃった。出したら殺されても文句言うなよ。まあ、死んだら言えないけどな!」


スパークは笑いながら、腰から十手を取り出す。


カチッと金属がぶつかる音が響き、十手が素早くナイフを絡め取る。


そのまま三回突き、ナイフは宙に浮いた。


左手で取ろうとするが、激しい痛みが肩に走り、「うっ…」と声が漏れ、ナイフは地面に落ちてしまう。



「なんだ?落としやがって。よくわからないけど立場が逆転したな」


男はチャンスと思い、ナイフを拾おうとする。


その隙を見逃さず、レンドは鞘から刀を抜き、背後から一突きにする。


「一応、正当防衛ってことで勘弁してくれや、兄ちゃん」


もう一人の男も目を覚まし、逃げようとする。


スパークは素早く銃を取り出し、引き金に指をかける。


パンッという乾いた銃声が夜の闇に響き渡り、男は地面に崩れ落ちた。



「まぁ、同じ正当防衛なら一人も二人も変わらないでしょ?レンドさん」


スパークは笑った。


「ははは。相変わらず読めないな、スパークさんは」


レンドもそれに続いて笑った。


レンドは笑い終わると、スパークの左肩を気にして尋ねた。

「それより左肩はどうした? 怪我してるのか?」

声は先ほどの戦闘の興奮とは打って変わり、静かで落ち着いていた。


スパークは小さく笑って肩をすくめる。

「ちょっとした不注意です。気にしないでください。それより――レンドさんのほうこそ大丈夫ですか?」

スパークの目が鋭くなる。「さっきのエコーリンク、配信中でしたよ。顔が映ってるかもしれません」


レンドは特に気にする様子もなく、白い息を吐いた。

「映ってても悪いのは向こうだろ」


スパークは呆れたようにため息をつく。

「その認識、甘いですよ。隙あらば兵士を叩きたい奴は山ほどいる。死事人に似てる兵士なんて、格好の餌食です。悪意ある切り取りだけで、立派な民間人殺しになりますよ」


「お前が先に仕掛けただろ? 俺は守っただけだ」

レンドの声に苛立ちが混じる。


「でも結果は同じです」スパークの言葉は冷たかった。

そして一歩踏み出し、真っ直ぐにレンドを見据える。

「それより――教えてください。あんた、本当に死事人なんですか? あの太刀筋、本物の配信と同じでした」


沈黙。

レンドの表情が険しくなる。

「本物だったらどうする? 捕えるか? 専任だったな、お前は」


「正直、複雑です」スパークは目を伏せた。

「でも一つ聞きたい。かつて第一線の部隊にいたあんたが、なぜ今は治安局の下っ端なんです? この十年、何があったんですか?」


その問いに、レンドの心が揺れる。

刀が静かに鞘から抜かれ、スパークの首元に突きつけられた。ほぼ同時にスパークの銃口がレンドを狙う。互いの瞳が冷たくぶつかり合った。


「人には触れちゃいけねぇ部分がある」レンドの声は低い。

「……だが教えてやる。妻子を王に殺された。その時点で、出世も栄誉も捨てた。命も捨てようとしたが……できなかった。だから裏で動くために兵士の身分を利用してる。国がやらねぇから俺がやる――それが死事人だ」


「それが本心ですか?」スパークの銃口は揺れない。

「俺にとってあんたは憧れでした。今の王に思うところがあるのも同じ。でも、一般人からしたら本物だろうが偽物だろうが関係ない。死事人は恐怖そのものなんです」


「じゃあどうしろってんだ!」レンドの声が荒れる。

「兵士を辞めても死にきれず……それでも国の腐敗をただすために、力を隠して戻った。俺のやり方はそんなに間違ってるのか!」


二人の間に重い沈黙が落ちる。


やがてスパークが口を開いた。

「今の死事人は間違ってると思います。だから――辞める気はありませんか?」


「目的を果たしたらな」レンドの瞳が燃えるように光る。

「偽物の件が片付いたら、きれいに辞めてやる」


「……その日が来るんですか?」


次の瞬間、レンドの刀が赤々と炎をまとう。

「わかってるんだよ、そんなことは!」

炎が闇を裂き、スパークに斬りかかる。


だがスパークは軽やかにかわし、足を引っ掛けた。レンドは受け身を取りながらも地面に倒れ込み、土埃を浴びる。


「ほら、足元を掬われましたね。交渉は失敗――残念です」

スパークは銃を収め、禁煙飴を咥える。甘い匂いを残して、闇へと去っていった。


レンドは土の冷たさを感じながら、立ち上がろうとはしなかった。

怒りか、後悔か――胸の奥で渦巻くものに、自分でも答えられなかった。


一方で、朝日が昇り始めた頃、ココアはようやく食事を終えた。

暖かな朝の光が、窓ガラスを通して店内に差し込み、テーブルの木目を浮かび上がらせている。店の中は、焼きたてのパンと、淹れたてのコーヒーの香ばしい匂いで満ちていた。


ライムは、あまりの食事の量に、眠気も忘れてただただ見ていた。

「本当にすごいな、ココアは。もうお腹いっぱい?」と、驚きと感心が入り混じった笑顔で尋ねる。


ココアは少し苛立ったようにフォークを皿に置くと、カチャリと小さな音が響いた。

「まだ食べれるけど、早く食べ終われって雰囲気出されてたから、もう食べない。本当はおかわりできるけどね」

そう言って、壁に掛けられた木製のメニュー表に目をやる。


ライムは呆れながらも、どこかホッとしていた。

「じゃあ、ごちそうさまでした。本当に支払いは大丈夫?」と心配そうに尋ねる。


「支払いは大丈夫、賞金稼ぎだしね〜」ココアは、周囲の視線を感じながらも楽しそうに笑った。

「それより、気づいてる?周りの冒険者たちに、私たち見られてるんだよ〜?」


ライムははっと我に返り、周囲を見渡す。

確かに、食事を終えた冒険者たちが、こちらに視線を向けている。


「これだけ食べたら、見られて当たり前だと思うけど」と、ライムは正直に答えた。


「違う違う。私って賞金首でもあるから、狙われてるんだよ〜」ココアは、ちょっと自慢げに目を細めて言う。


「えっ?そうなの?」ライムが改めて周りを見ると、先ほどの好奇の視線とは違う、殺気にも似たオーラが冒険者たちから放たれていた。

彼らの手は武器に添えられ、今にも襲いかかってきそうな緊張感が張り詰めている。


「まあ、実力差あるし無理だろうけどね、彼らじゃ」ココアは、そんな殺気に気づきながらも余裕そうに笑った。


「みんな強そうだけどね…」ライムが呟くと、ココアは急に立ち上がった。椅子が床を擦る音がした。

「もう今から寝るから帰る。また会えたら会おうね、じゃあバイバイ」そう言って、急に突き放すようにライムに手を振る。


「急になんなんだよ…まあ、食事ありがとう、おやすみ〜」ライムは戸惑いながらも手を振り、冒険者ギルドを後にした。


ココアはライムの姿が見えなくなるまで見送ると、それまでの朗らかな表情から一変、鋭い目つきになった。

「それで、誰から倒されたいの?」ココアは笑顔のまま、冒険者たちに問いかける。

彼女の言葉には、獲物を前にした捕食者のような静かな威圧感が滲んでいた。


その頃、スパークはフィオラに近づこうと、月下の花屋の前に来ていた。

しっとりとした空気が漂う中、店の前には朝露に濡れた花々が並び、甘く爽やかな香りが彼の鼻をくすぐる。


「配信でも顔は隠さない、よっぽどの自信か、ただの馬鹿か。見させてもらうよ〜」スパークは心の中で呟くと、唇の端を吊り上げた。

レンドとの一件で、まだ心に棘が残っていた。その棘を抜くように、彼はゆっくりと月下の花屋の前に歩み寄っていく。

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