裏か表か2
前回のあらすじ
ライムとスパークは夜の公園で色々と語り合ったが最終的に違う考えだとお互いに認識しいずれ敵になるだろうと思い、スパークはその場を後にした。そんなライムの元にスパークを追って来たという少女に声を掛けられて逆の道を教えたにもかかわらず、スパークの方に走って行った少女に驚き思わずライムも少女の後を追っていた。
真夜中の公園は、街灯の淡い光がぽつぽつと道を照らすだけで、周囲は深い闇に沈んでいる。風が木の葉を揺らす音だけが静かに響き、遠くの道路を走る車の音がか細く聞こえてくる。ライムは、全力で走ってきた荒い息遣いを響かせながら、公園の入り口に佇む二人に駆け寄った。少女はスパークに古い手配書のしわがれた紙を、街灯の光にかざして見せる。
「もじゃもじゃ頭、やっと見つけた。あっちこっち走り回って異世界もいっぱい歩いたけど、やっとその生活ともおさらばだ!あんたを倒して美味しいご飯を食べる!」と笑顔で意気込み構える。
スパークは頭を掻きながらも
「いや〜盛り上がってる所悪いけど戦う気はないよ?だって俺にメリットないしさ…そもそもその手配書って有効なのか?相当古い物だろ?今は賞金ないかもよ?」
スパークの口元に浮かぶ皮肉な笑みと、どこか諦めているかのような響きを持つ声が、静寂に響く。エコーリンクで手配書について調べながら、そのぼやき声はどこか虚ろだ。
「あ〜有効だわこれ…しつこいな懸賞金制度」
スパークがぼやいていると、少女の笑顔の奥にある、冷たい光を宿した瞳がスパークを捉える。低く、静かな声が威圧感を放った。
「ごちゃごちゃ言ってないでさ、捕まってね〜」
その言葉と同時に、少女は地面に散らばった落ち葉を舞い上げ、風のように素早くスパークに接近する。
スパークは少女の速さに驚いたが。
「そうそうやられないけどね、俺も」
スパークは銃を構え、躊躇なく引き金を引く。しかし、弾丸は少女を捉えたが、少女はそれを完全に見抜き、拳を放つと弾丸は「キンッ!」という甲高い金属音を立ててスパークの左肩に命中した。
「ぐはっ…」
スパークは出血した部分を押さえる。それでも向かってくる少女に対し、「くそ!まだ来るのか!」と接近戦を挑もうと鋭い蹴りを繰り出した。しかし、それを察知して回避行動を取ろうとする少女の動きに、スパークは本能的な危機感を抱く。彼は咄嗟に蹴りを止め、少女の冷たい計算が宿った瞳と視線が合うと、背中に悪寒が走った。
「危ない」
本能で危険と判断したスパークは、ブースターを噴射させ「ブォォォッ!」という爆音と共に一気に背後に飛び、再び銃を構えた。
「やるね〜あんた何者だよ?」
スパークは銃を構えたまま尋ねた。
「私はココアフロート。ただの賞金稼ぎだよ!」
体勢を立て直したココアフロートは、笑顔でそう答えた。
(このまま戦ってもこっちが不利か…今回は引くか)と、スパークは考えた。
「いや〜、弾丸を打ち返すなんて恐れ入ったよ〜。俺も本気を出さないとな〜」
そう言いながら、ポケットから煙玉を落とす。地面に叩きつけられた煙玉は瞬く間に白い煙幕を広げ、視界を遮った。その隙に、スパークは逃げる方向とは真逆に銃を撃ち、その銃声にまぎれて素早く離脱しようとする。しかし、煙幕を抜けた先に、なぜかココアがいた。ココアはスパークと同じ方向に飛んでおり、その姿が目の前にある。
「うわ!なんでお前もこっちにいるんだ?普通、音がした方に行くだろ?」
スパークが驚いて叫ぶと、ココアはけろりとした顔で笑った。
「えへへ、こっちから音がしたと思ったから飛んだんだけど、違ったかな?でも合ってたよね?目の前にいたし!」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ココアはスパークを殴り飛ばした。
吹き飛びながらもブースターで受け身を取り、辛うじて着地したスパークは、ココアを睨む。
「くっ…一筋縄ではいかない相手か?」
その間にも、ココアはスパークの方ではなく、別の方向を一瞬見ていた。
(まさかあいつ、方向音痴か?だったら試してみるか?)
スパークは一気にココアへと接近し、再び煙玉を落とす。煙が広がるのと同時に、逃げようと思っている方向に銃を撃った。そして素早く移動する。
スパークの狙い通り、ココアは銃声がした反対方向に飛んで行った。その光景を見届けると、スパークはブースターで素早く離脱する。
「よくわからない奴だが、接近戦だけは意地でも避けないとな…なんか嫌な予感しかしない」
動揺を誤魔化すように、彼は禁煙飴を口に咥え、煙を吐き出して平常心を保とうとした。街灯がまばらな夜道に、甘い香りの煙がほのかに漂う。
一方、ココアはスパークを見失っていたが、特に気にする様子はない。辺りをきょろきょろと見回すと、ライムに近付いた。
「ねえねえ!この辺で泊まれる所か、冒険者ギルドに連れてってくれないかな〜?私、無事に辿り着けないんだ〜。お腹空いてるのに冒険者ギルドに戻れないからご飯食べれてないし!あ、もちろんお礼はするよ。食事ご馳走してあげる!」
早口でまくし立てるココアに、ライムは驚きを隠せない。先ほどまで激しい戦闘を繰り広げていたとは思えないほどの変わり様だったからだ。
「ああ、冒険者ギルドから来たの?場所知ってるし、案内するよ。こっちだよ」
ライムが前を歩こうとすると、ココアは既に逆方向に歩いて行っていた。
「いやいや、そっちじゃないよ!」
ライムが慌ててココアの後ろを追いかける。その時、彼女のリュックからひらりと紙が落ちた。ライムがそれを拾い上げると、そこには見慣れた手配書の形式で、こう記載されていた。
(ココア・フロート 危険度S 懸賞金8億)
(えっ?この子も賞金首?)
ライムは驚きつつも、「あのさ、これ落ちたよ」と手渡す。
「ああ、ありがとう!これって失礼だと思わない?賞金稼ぎなのに懸賞金掛けられるとかさ!普通に協力してるのにさ!」
ココアはイラついた表情で手配書を受け取った。
「ああ、賞金首捕まえてても危険ってことじゃないの?それより、ギルドはそっちじゃないよ。こっちだよ」
「ああ、逆だったんだ!そうだ、迷わないように手を握っててよ」
そう言うと、ココアはライムの手を握った。しかし、その力の強さに、ライムは思わず「痛い痛い!」と叫ぶ。
「ああ、ごめん!私、怪力だったの忘れてた。じゃあ、これで!」
ココアは指一本を差し出した。ライムは痛みを堪えながらもその指を握る。
(さっきの戦闘もそうだけど、このままじゃ駄目だ。リトライを駆使してでも追いつかないと、妹どころじゃないよな。王を倒すのも夢のまた夢だ…もっと強くなりたい)
ライムは、静かに決意を固めながら歩みを進めて行く。公園を抜けて街の灯りが見え、段々と賑やかになっていった。
夜中の街を歩きながら、夜風が少しずつ冷たさを増していく。ライムは、隣を歩くココアに視線を向け、冗談めかした笑顔で自己紹介した。
「そういえば自己紹介してなかったよね?俺はライム・レヴイアス。鍛治屋で見習いしてるんだ。よろしくね」ライムの声は、砂利道を靴が踏む「ジャリッ、ジャリッ」という音に重なる。ココアは、ライムの言葉を聞くと、不思議そうに首を傾げた。
「うん?ああ、私はココア・フロート。一応賞金稼ぎだよ。
でもまともに賞金首に辿りついたことないけど......難しいよね、やっぱり。居場所とか隠してるからかな〜?ライムはどう思う?」
いきなりの呼び捨てに、ライムは一瞬言葉を失う。指摘しようと口を開きかけたが、ぐっとこらえて対抗するように呼び捨てで質問を返した。
「さっき見てて思ったけど、もしかして方向音痴なの?ココ
アは?」
ココアは、ライムの質問に一瞬考え込むようなそぶりを見せた。そして、歩きながら少し不満げな表情で答える。
「う~ん、どうだろ?道がまともに辿り着けないようにできてるんだよ!私に合わせてくれたら良いのに。そう思わない?あと初対面で呼び捨てはどうかと思うよ。フーちゃんとかココアちゃんとか、良い呼び方考えてよ?」
「ちゃんは良いのか?それよりそっちも呼び捨てにしてたじやん。だから俺も呼び捨てにしたんだよ!あと、道は人に合わせて変化しないよ」
ライムが呆れたように反論すると、ココアは心底不思議そうに首を傾げた。
「え?できないの?ちょっと見てて」そう言って、ココアは躊躇なく地面を「コン」と一突きした。その瞬間、足元のコンクリートに「バリバリッ」という鈍い音を立てながら亀裂が走り、砂埃を舞い上げながら崩れていく。
「え〜、道を変えるっていうか、粉々にしてるだけじゃん......」
ライムが呆然とした表情でつぶやく。周囲にいた人々は、突然の出来事に驚きの表情を浮かべ、エコーリンクを構えて現状を撮影していた。
ライムは急いでココアの腕を掴み、夜風が吹き抜ける中、人通りの少ない道を走り続けた。目的地のギルドが見えてくると、古びた木の扉を勢いよく開けて、その重厚な音と共にギルド内に飛び込んだ。
「ライムさ〜、なんで急に走るの?疲れるじゃん!ただでさえお腹空いてるのに、馬鹿じゃないの?」
ギルド内の喧騒に負けないくらい、ココアが厳しい口調でまくし立てる。
「いや、あの場にいたら捕まるだろうって思って焦ったんだよ!一応助けたし、冒険者ギルドにも着いたし、そこまで言わなくてもいいだろ?」
ライムが反論すると、ココアは不満げに口を尖らせた。
「それはありがとう。でもわかってないんだよ、私のこと。普通の人よりカロリー消費が激しいから、あっという間に動けなくなるんだよ。なのに走らすなんて自殺行為!でも善意からだってわかるし許してあげる。それよりこっち来て」
ココアは、立ち込める食事の匂いに導かれるように、迷うことなく食堂へ向かった。鉄鍋が擦れる音や、食材を炒める香ばしい匂いが漂ってくる。ライムもココアの後に続き、賑やかな食堂へと足を踏み入れた。
「一応助けてもらったし、なんでも頼んで」
ライムはメニューを受け取り、じっくりと目を向けた。
「ほとんど知らないから、おすすめセットにするよ。ココアさんは?」
ライムの言葉に、ココアは少し顔をしかめた。
「『さん』だと年上っぽくて嫌だな〜。やっぱり『ちゃん』がいいよ。考えておいてね」
そう言うと、ココアは食堂の店員に顔を向け、驚くべき注文をした。
「すみません、おすすめセットと全部ください!」
「全部!?」
ライムと店員の声がハモり、食堂内に響く。
「うん?お金はあるよ、大丈夫。ちゃんと奢っちゃうよ!早くしてくださいね、無駄に走らされたからお腹空きすぎて死にそうなんで」
ココアはそう言って、ライムの返事を待たずにさっさと空いている席に座った。待っている間、ライムは先ほどの出来事を思い出し、ココアに尋ねた。
「さっき地面を粉砕してたけど、どういう能力なの?」
ココアは面倒くさそうに、肘をつきながら答える。
「ああ、ただ私って人でも物でも呼吸の流れとかが読めるから、それを断ち切ってるだけだよ〜」
「いや、普通に凄いけど!どういうこと?」
ライムが身を乗り出して改めて尋ねると、ココアはテーブルに置かれたスプーンを指差した。
「例えばここにスプーンがあるでしょ?こいつのここを突くと……」
そう言って、スプーンの柄を軽く指で突くと、突いた場所からヒビが入り、砕け散った。その光景に、ライムは再び言葉を失う。
「ちゃんと鍛えとけばもう少しすごいんだけど、私サボり癖があってさ〜。飽きてやめちゃったんだよね〜暗殺拳を極めるの…だから中途半端なの……。」
と聞いて「えっ?暗殺拳?」と驚く。
さらにココアの説明が続いて「でも、道が私の邪魔をして目的地に着かないように立ちはだかってくるから、道を破壊しながら進んでいったら、自然と効率よく壊せるようになってね。集中すれば透視もできるようになったんだ。弱点を突くって感じで。ついでに腕力も上がったし、道のおかげで結果良い鍛錬になったよ!」
ココアはあっけらかんと笑い、まるで武勇伝のように語る。
「ああ……なんかすごいね……」
ライムは呆れつつも、内心では(方向音痴なのに、道が邪魔するって本気で思ってるんだ……)と引いていた。その時、食堂の店員が大量の料理を載せたワゴンを押し、次々と料理を運んできた。テーブルの上はあっという間に山のような料理で埋め尽くされる。
ライムはココアの前に置かれた様々な料理に目を丸くしつつ、自分の前に置かれたおすすめセットに視線を落とし、思わずガッカリした。
「異世界の食事、食べられると思ったのに、地元の料理じゃん!」
いつも食べてる料理の匂いが鼻をくすぐり、ライムは肩を落とす。
「文句言わないで食べなさい。ちゃんと感謝してね、料理と私に」
ココアはそう言うと、両手で豪快に料理を口に運び始めた。その異様な光景に、周囲の冒険者たちもライムもただただ唖然として、見る事しかできなかった。




