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六銅貨の死事人  作者: 紅月ヨルカ


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復讐者5

       前回のあらすじ

ミリアの配信でわかった死事人の偽物を仕留めるためレンド アカリ フィオラは出陣する。

一方ライムは決闘後という事と傷の痛みもあり出陣を辞退するしかしそんなライムの元にスパークが現れる。


ライムは横腹の痛みを堪えながらも、薄暗い夜の街をスパークと歩いていた。

「遊ばないか?」というスパークの軽薄な誘いに、ライムは呆れながらも、どこか落ち着かない気持ちで「ちょっと出たいと思ってたんだ」と答えていた。街の喧騒から逃れるように外に出た理由は、それだけではなかった。

「酷い怪我だな。良い医者を知ってるから紹介してやるよ」

その言葉に、ライムは思わず引き寄せられた。この痛みが引かなかったら、またリトライをしようかと考えていたからだ。正直なところ、リトライをしても痛みは残ってしまう。治せる医者がいるなら、それに越したことはない。そう思って、ついついスパークの甘い言葉に乗ってしまったのだ。

煌々とネオンが輝く商業エリアを進む。耳を劈くような電子音と、どこからか漂ってくる甘ったるい香水の匂いが、ライムの神経を逆撫でする。スパークは周囲をキョロキョロと見回しながら、眉をひそめた。

「おかしいな〜。確かにこの辺にいると思ったのにな〜。ごめんな、大丈夫か?」

スパークの心配そうな声に、ライムは揺れる視線を彼に合わせた。

「ああ…大丈夫だけど。本当に治せる医者がいるのか?」

ライムの不安そうな声に、スパークは少しだけイラついたように口元を歪めた。

「ああ、いるって。きっと、多分この辺に」

そう言って再びキョロキョロと首を回すと、ふと視界の隅に人の気配を感じた。

「あら〜?怪我人ですか?」

聞き馴染みのある、甘くて朗らかな声が響く。声のした方を見ると、白い白衣をまとったラグナが、柔らかな笑顔を浮かべてゆっくりと歩いてくる。その足音は、街の喧騒に紛れることなく、不自然なほど静かだった。

「ああ、そうなんだ。歩くだけでもキツいみたいなんだ。見てやってくれないか?もちろん、お礼はするからさ」

スパークがライムを指差してそう言うと、ラグナはにこりと微笑んで答えた。

「お礼ですか?じゃあ、前にくれた飴をください。もうなくなってしまったので」

ラグナの言葉に、スパークは驚いたように目を見開いた。

「えっ?もうなくなったの?結構煙がなくなるまで舐めたらいいのに。出なくなったら一気に飲み込むのがいいのにさ…。まあ、いいけどさ。いっぱいあるから!」

そう言って、スパークは無邪気に笑った。

ラグナはライムに近付くと、傷口に触れることなく、ただ手をかざす。すると、手のひらから淡い緑色の光が溢れ出し、ライムの体を優しく包み込んだ。じんわりと温かい光が傷の痛みを溶かしていくような感覚。裂けていた傷口が、まるで時間を巻き戻すかのように塞がっていくのがわかる。

「はい、もう大丈夫ですよ」

ラグナは元の笑顔に戻ると、スパークに手を差し出した。

「ああ、ありがとう。もちろんお礼は渡すよ〜。今回は2本渡しちゃう!」

スパークはそう言って、細長いペン型の禁煙飴を2本、ラグナの手に握らせた。

「ふふ、では失礼しますね。あなたに祝福あれ」

ラグナはそう言い残すと、来た時と同じように笑顔で去っていく。その姿が街の雑踏に消えていくまで、ライムは釘付けになっていた。

「えっ?祝福?なんか変な感じ…でも、傷は治ったからいいけど」

ライムが呆然と呟く隣で、スパークはラグナの後ろ姿を、何かを射抜くような鋭い目で睨んでいた。

「今回は回復だけか…」

その呟きは、ライムの耳には届かなかった。


暗い夜の帳が下りた中、レンドたちはアジトと思われる民家の前に立っていた。

煌々と光る窓からは、酒瓶がぶつかり合うような騒ぎ声と、下品な笑い声が聞こえてくる。家の周りにはゴミが散乱し、鼻を突くような生ゴミの匂いが漂っていた。

「ここなんだが、ただの家っぽいな?まあこんなもんか。一般人なんだし。全く隠れようって気が感じられないのがすごいな」

レンドが呆れたようにそう呟く。その言葉には、プロとして仕事に対する誇りを持つレンドの苛立ちが滲んでいた。

「どうでも良いよ!さっさと済まそうよ!撮影の準備もできてるよ!」

アカリが興奮した声で叫ぶ。彼女の目が、獲物を狙う獣のようにキラキラと輝いていた。

「今日は派手にやるよ。その方が良いでしょ?」

フィオラが、レンドたちとは違う、どこか冷たい笑みを浮かべて言った。

「じゃあ、死事の時間だ。行くぜ」

レンドがそう言うと、静かに庭に周り、影に溶け込んでいく。

アカリは玄関に立ち、ベルを連打で押した。チリン、チリン、と鳴り響く甲高い音は、家の中の喧騒を掻き消した。

すると、さっきまで騒いでいた声がピタリと止む。

「なんだ〜?うるせえぞ!」

ドカドカと階段を降りてくる、重くて乱暴な足音が聞こえてくる。

その音を聞きながら、アカリはロンリベアの小さなカメラを、録画モードに切り替えた。

男が乱暴にドアを開けようとした瞬間、アカリは手に持ったピコハンで、ドアごと男を殴りつけた。強烈な衝撃波がドアを粉々に砕き、男は衝撃に耐えきれず絶命した。

「ごめんね。別に顔には興味ないんだ〜」

アカリは無邪気にそう言うと、そのまま家の中に入っていく。

その瞬間、フィオラが物陰からブレーカーを落とした。家全体が突然の闇に包まれる。

「こんな家でも電力使ってるんだ…。生意気ね」

フィオラは冷たい声でそう呟くと、闇の中でも躊躇なく二階へ颯爽と登っていく。窓ガラスを割り、鋭い破片が床に散らばる音を立てて部屋に侵入した。

待ち構えていた男が、フィオラの姿を捉え、鉄パイプで殴りかかった。しかし、フィオラはそれを紙一重で避ける。次の瞬間、素早く口に種を入れた。

「く…何を入れた?」

男は吐き出そうと口に手を入れるが、フィオラは嘲笑うように言った。

「ああ、無駄よ。口に入った時点で水分を栄養として発芽するから」

男は耳を貸さず、口に手を入れて種を取り出そうとした。だが、次の瞬間、口の中からツタが飛び出し、それと同時にあらゆる場所の皮膚を突き破ってツタが絡みつき、全身を緑の植物が覆っていく。

「緑の牢獄ヴィーダント・プリズン。さようなら」

フィオラはそう言うと、ポケットからマッチを取り出し、静かに火を放った。マッチの火は瞬く間に植物人間に燃え移り、その炎は家全体を包み込んでいく。

レンドは庭から、闇に包まれた家の中に、音もなく侵入していた。五感を研ぎ澄まし、隠れている二人の気配を探す。

居間から、かすかな物音を感じたレンドは、六銅貨を適当な方向に投げた。六銅貨が床に転がる音が響く。

「そこか〜!」

ナイフを構えた男が音に反応した瞬間、レンドは素早く男の背後に回り、首筋を切り裂いた。

「どうだ?プロの殺しは?全然違うだろ、お遊びとは?」

レンドは勢いよく刀を抜き、男の返り血を払い落とした。その時、上から燃え移ってきた炎が、レンドの顔を赤く照らす。

「ちょっとまずいな。火の周りが早い」

レンドはそう呟くと、もう一人の男を探しにトイレの方へ向かう。

そこにアカリもやって来て、能天気な声で尋ねた。

「レンドさん、ちゃんと撮影できてる?」

レンドは苛立ちを隠さずに答える。

「ああ、一応カメラはあるが、名前を出すな!後でちゃんと編集しろよ!」

その時、トイレの中に隠れていた男が、恐怖に怯えながら命乞いを始めた。

「なんだ、あんたら本物か?ならやりすぎじゃないか?家は燃やすわ、一人ずつ確実に仕留めていくしよ…。なあ、金ならやるから許してくれ…。二度としないから…」

男の言葉を聞きながら、アカリはピコハンを構えてトイレの裏に回り込んだ。

レンドは次の瞬間ドアを真っ二つに斬り裂くと同時に、アカリが裏側から男を壁ごと衝撃波で吹き飛ばししレンドは素早く男を横切りで切り裂き真っ二つにして、壁は粉々に砕け散った。

「命乞いなんて無意味と思え」

レンドはそう言うと、アカリが開けた壁の穴から急いで外へ出た。

火災のサイレンが鳴り響き、野次馬が集まる中、レンドたちは物陰に隠れ、アカリが動画を編集し、公開した。

「これで死事人の名誉は守られたよ!偽物を成敗って動画を上げたしさ!」

アカリは満足げにそう言うと、動画の閲覧数をスマホで確認する。三人は、動画の再生回数がどんどん増えていくのを見て喜んだが、そのあと関連動画を見て驚愕した。

「何これ?」

「嘘でしょ?こんなことって…」

「冗談じゃねえぞ」

三人は口々に言った。偽物が出したと思われる動画が、画面を埋め尽くすほど大量にあったのだ。

「あいつらだけじゃねえのか?偽物は…」

レンドたちは、事の重大さにようやく気が付いた。


一方で冒険者ギルドの賑わう声が遠くから聞こえる中、ココアフロートは手にした星界図をじっと見つめていた。ギルドから漏れ出す喧騒は、酒に酔った男たちの下品な笑い声や、鋼鉄がぶつかり合うような金属音、そして香ばしい焼き肉の匂いが混ざり合っていて、異世界にやってきたばかりの彼女には、少しばかり刺激が強すぎるようだった。

「この異世界図でいえば、どっちに行けばいいんだ…?」

ぽつりと呟きながら、異世界の位置を示す星々の配置図に眉をひそめる。彼女の大きな瞳は、道に迷った子どものように不安そうに揺れていた。

ココアはギルドの扉を意を決して開け、キョロキョロと辺りを見回した。彼女の茶色のポニーテールは、忙しそうに行き交う人々の間で、右へ左へと揺れる。半袖の白いTシャツに青いチョッキ、赤いフレアスカートという、この世界では少し浮いて見えるような可愛らしい格好だ。スカートの下にはショートパンツを穿いているので、いざという時の動きにも配慮されている。足元は、使い古されたシンプルな茶色のスニーカーだった。

大きなリュックを背負い、その上には寝袋がくくりつけられている。彼女は、近くで談笑していた住民らしき女性に声をかけた。

「すみません、この辺でこういうモジャモジャ頭を見ませんでしたか?」

そう言って、彼女は女性にボロボロになった手配書を見せた。そこにはスパークスコーピオン、賞金10億ラピと書かれている。手配書に描かれた男のモジャモジャ頭は、何度見ても彼女の笑いを誘うような、どこか愛嬌のあるイラストだった。

「ああ、その人ならたまに見るよ〜。結構忙しいみたいだね。配信で見た時は相当な強さだったな〜。あなたもファンなの?」

女性は少し呆れたような、でもどこか面白そうにそう尋ねた。

すると、ココアはにこっと太陽のような笑顔を浮かべて、力強く答えた。

「いいえ!ただの賞金稼ぎです!」

その言葉に、女性は驚きと呆れの入り混じった顔をしていた。

ココアは畳み掛けるように、女性に星界図を見せる。

「あとこの異世界図で言うと、ここはどの辺りですか?」

真剣な顔で質問するココアに、女性はため息をついた。

「いや、それじゃこの世界の事すらわからないし。ちゃんとマップを買った方が良いですよ」

女性はそう言って、当たり障りのないアドバイスを残すと、そそくさとその場を立ち去っていった。

「う〜ん、やっぱりこれじゃだめか〜。でも、マップ買っても結局道に迷うし、同じなんだよな〜。とりあえず一旦冒険者ギルドに戻ってご飯食べていこう!」

ココアはそう言うと、目の前の冒険者ギルドを素通りして、来た道とは真逆の方向に走り出した。「あれ〜?こんなに遠かったっけ?まあいっかまっすぐ進めばいつか着くよね〜」

マイペースで呑気な事を言いながらココアはひたすらに走り続けた。

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