復讐者4
前回のあらすじ
アリシアとの決戦に臨んだライムは彼女の異変に気付きながらも必死に戦い動けなくなったアリシアの魂の声を聞いたライムは「クライ・死す・ブレイド」ととどめを刺し全てを背負う覚悟を決めていた。
その様子をそれぞれの思想で見ていたスパークとラグナは不穏な空気を出しながらもその場を後にし
ライム達もその場を急いで去っていた。
ライムとアカリは、サンクレーン邸から逃れるように走り、中央部までどうにか辿り着いた。ライムは疲労と痛みで口を閉ざしたまま、鍛冶屋へ向かってゆっくりと歩き始める。その隣で、アカリはライムの顔を覗き込みながら言った。
「ライムくん、アリシアさんが体調不良じゃなかったら、負けてたと思うよ。正直、あんなに具合が悪いなら決闘は後日にすれば良かったのにね。そうは言っても、アリシアさんのプライドが許さなかったのかな」
しかし、ライムは無言で歩き続けるばかりだ。アカリは少しむくれた表情で、言葉を続ける。
「もう〜、ちょっとは話を聞いてよ。慰めようと思ってるのに、これじゃどうすることもできないじゃん!」
アカリの声が、夕暮れの空気の中に静かに響く。ライムはふと立ち止まり、ゆっくりと口を開いた。
「…じゃあ、黙っててほしい。あれは体調不良じゃない。毒を盛られていたような感じだったんだ。アリシアを憎んでる人に、食べ物か何かに毒を入れられてたのかも」
ライムの声は、疲労で掠れてはいたが、確かな重みがあった。アカリは首を傾げて、不思議そうに尋ねる。
「だったら、やっぱり後日で良かったじゃん。毒を抜いてさ、改めて決闘とか。じゃないと、ライムくんもモヤモヤするでしょ? ちゃんとした決着じゃないしさ」
しかし、ライムは静かに首を横に振る。
「多分、アリシアさんは毒じゃなくて、決闘で死にたかったんだと思う。後日にできないくらい、もう毒が回ってたのかもしれない。そんなこと、こっちが勝手に言えることじゃない。…ただ、俺は『クライ・死す・ブレイド』って、あえて言ってアリシアさんの死も悲しみも背負うって決めたんだ…」
ライムの瞳に、夕焼けの色が反射してきらめいた。その横顔には、疲労の色とは違う、固い覚悟が滲んでいる。アカリは納得したように、ポンと手を叩いた。
「あ〜、だから銃弾撃ったのに『ブレイド』って言ったんだ〜! なんでダガーで刺したんじゃないのにブレイドって言ったのか分からなかったんだ〜。背負うってことだったんだ〜! 納得したらもういいや、さっさと帰ろう〜!」
そう言ってアカリは、軽やかに駆け出していく。ライムは、そんなアカリの姿にやれやれという表情を浮かべた後、再び夕焼け空を見つめた。空には、薄紫とオレンジが混じり合い、どこかもの悲しい美しさがあった。
すると、駆け出したはずのアカリが、エコーリンクを持って道の真ん中に立ち止まっていた。街灯が灯り始め、夕暮れが夜の帳に変わっていく。通行人が、アカリを避けるように行き交っている。
「そんな所で止まったら邪魔になるって。もう少し横に避けてないと」
ライムはアカリの肩に手を置き、そう言った。アカリは我に返ったように、慌てて振り返る。
「あ…ごめん…。でもさ…これ、ミリアさんの配信なんだけど…」
アカリが画面を差し出すと、そこには信じられない光景が映し出されていた。
映像を見ると、昼間の住宅街が映し出されていて徐々に民家に近づいていく様子が映されていた。民家に着くと、四人組の顔を隠した男たちがドアを力任せに壊し、中へ侵入していた。
「あなた達、なんですか!?」
「兵士を呼ぶぞ!なんだ急に!」
突然の侵入者に驚きながらも、夫婦は通報しようと焦っていた。男たちの一人が、へらへらとした軽い口調で話す。
「あー、ごめんね。俺たち『死事人なんだ〜依頼を受けて成敗しに来ましたー。つまり俺たちが正義ってことー。何をしたか、自分の胸に聞いてみたらー?」
男はヘラヘラと笑いながら、目の前の夫婦を見下ろす。すると、別の男が冷静に尋ねた。
「で、実際何したんだ?」
「はぁ?ちゃんと依頼は見とけっつったろ? いいか、ゴミの分別を何回注意してもできてなかったそうだ」
依頼内容を読み上げる男に、仲間の一人が呆れたように言う。
「へぇ〜、そんなの俺もしないけどな。それで成敗されるのか、気の毒にな…。まあ、依頼なら仕方ないな」
そう言って、その男も手にした鉄パイプを構えた。他のメンバーも、ナイフや鈍器を手に、夫婦を囲む。
「さてと、じゃあ成敗しますねー」
男の一人が、六枚の銅貨を投げつけ、妻の頭を力任せに殴り飛ばす。血が飛び散り、妻は悲鳴を上げる間もなく倒れ込む。その後、他の仲間たちが、倒れた妻を滅多打ちにしていく。夫は、妻をかばおうとしながらも、物陰に隠れ、震える手で兵士に通報しようと携帯を取り出した。
「もしもし…今、死事人を名乗る四人組に襲われてまして…」
その瞬間、背後から無邪気な声が聞こえた。
「見〜つけた!」
夫は振り返る間もなく、背中をナイフで深く刺された。大量の血が溢れ出し、夫は床に崩れ落ちる。
「おい、ちゃんと映してるか?これで人気になったら、それだけで食っていけるぞ〜。ほら、顔も映してさ」
倒れ伏した夫を何度も刺しながら、男は笑い声をあげる。映像を撮っていた男が、困惑したように尋ねた。
「ちゃんと撮ってるけど、奥さんだけじゃなかったか? 依頼は。旦那は書かれてなかっただろ? いいのか、これ?」
「仕方ないだろ、一緒にいるのが悪いんだ! 死事人の掟で姿を見られたら殺すってあっただろ? 多分」
男は焦ったようにそう言い訳をする。別の仲間が、冷静に言った。
「それより成敗は完了したし、金目の物を取ってさっさと帰るか?」
そう言って男たちは、適当に家の中を物色し、家を後にする。その時、仲間の一人が床に落ちた銅貨に気づき、声をあげた。
「もったいないし、これももらって行こう」
そう言って男は、六枚あった銅貨のうち、五枚をポケットに入れ、残りの一枚は無造作に床に残して行った。
ミリアの配信を見ていたライムとアカリは、その信じられない光景にただただ言葉を失っていた。
ミリアは配信画面を操作し、動画を閉じる。彼女の顔が神妙なものに変わると
「今見たのは、最近噂で人気になってる『死事人』と呼ばれる集団の映像です。所々修正はされていますが、修正前はもっと生々しい感じでした…。私も噂で聞いたことはあったけど、こんな人たちとは思わなかったな〜。悪を成敗するってイメージだったし。リスナーさんからも様々な意見が出てるね〜。『政府は何やってるんだ』とか、『兵士は対策しないのか』とか。言いたいことはわかるけど〜、実は対策はすでにしててね。死事人を捕まえる専門の兵士を用意してま〜す♡ 強さは私が保証するし、すぐに死事人たちは捕まると思うよ。楽しみにしててね♪」
そう言って、ミリアはさらにコメントを読み上げていく。
「話で聴いたことある死事人さんと違う感じするし、偽物だと思います。ちゃんと調べてから捕まえてって伝えてください!」
「こんなの本物じゃない!本物はこんなことしない!絶対に見つけ出してやる!」
偽物説を唱えるコメントが、怒涛の勢いで流れていく。ミリアは流れるコメントを眺めながら、にこやかに言った。
「はいはい、みんな落ち着いて。本物でも偽物でも、この人たちは捕まえるから待っててね。それじゃ、今後のスケジュールを言っていくね〜」
その言葉を聞いたところで、アカリはふっと息をつき、配信を切った。画面が真っ暗になり、静寂が訪れる。
「本物でも偽物でも関係ないって感じだったね…。私達って、最近は確かにおかしかったもんね…。私、顔出してるしフィオラさんも出してるし、まずいかもね。死事人に鉄槌をってなったらさ…」
アカリは不安そうに呟き、俯いた。ライムは、そんなアカリの肩にそっと手を置く。その掌から伝わる温かさに、アカリは少しだけ安堵した。
「大丈夫だって。みんな分かってくれるって。偽物がやってるってさ」
ライムは横腹を押さえながら、そう言って鍛冶屋の重い扉を押し開けた。油と鉄の匂いが鼻をくすぐる。そこには、レンドとフィオラが待っていた。
「ああ、みんな!今日ライムくんの決闘だったのに、どうして来なかったの?」
アカリは偽物の件を隠し、普段通りの明るい声で話しかける。しかし、レンドは呆れたような表情で、アカリ達を見て。
「ああ?配信見たろ? あの事件のこととか、奇妙なミイラの変死事件とか調べてて、それどころじゃなかったんだよ」
フィオラも悲しげな表情で、小さく頷いた。
「ごめんなさいね。私もあの偽物の動画が人気になったせいで、顔出ししてた私も仲間と思われてさ…。花屋に『人殺し』とか、いろんな悪口を書いた紙を貼られたり、動画に撮られてたり、散々でさ…。外にも出られなかったのよ…」
フィオラは、掠れた声でそう言った。彼女の目元には、うっすらとクマができており、疲労の色が濃かった。
「まあ、俺が追っ払ったからフィオラも一緒に来れたんだけどな。俺にも罵声を浴びせやがったよ、あいつら…。『兵士はちゃんと仕事しろ』ってさ…。まあ、今回は依頼関係なしにちゃんとしようとは思ってるけどな…。お前達も手伝ってくれるか?」
レンドが鋭い眼差しで、アカリとライムを見渡す。アカリは、レンドの言葉に目を輝かせた。
「それって、犯人がわかってるってこと?」
「どうやらそうらしいよ。誰かは知らないけど、リークがあったのよ。『最近、急に金使いが荒いのがいる』ってね。それが四人組らしいし、その可能性は高いのかなって思ってる」
フィオラの言葉に、アカリは興奮したように頷いた。しかし、ライムは横腹を強く押さえながら、辛そうな顔で言った。
「ごめん…俺はちょっと遠慮したい…。疲れちゃってさ…」
レンドはそんなライムを一瞥し、フッと鼻で笑った。
「おお、小僧が出るまでもねぇよ。あの決闘もな、配信に上がってたみたいで見させてもらったよ。フィオラが言うには、アリシアは毒に苦しんでて、とてもじゃないけど動けるような体に見えなかったってさ。なあ、フィオラ?」
フィオラは静かに頷き、ライムに視線を向けた。
「ええ、そうね。いくら魔導力を持ってたとしても、あの状態であそこまでレイピアを振るうのは異常ね。よっぽどプライドと気迫がすごかったのね…。あと、毒も扱う私から言わせてもらうと、あれはただの毒じゃないよ。独特な感じね。即効性はないけど、継続的にじわじわと削る感じ。神経毒って感じかな? 指先とか、まともに動かなかったはずよ、本当なら…」
フィオラは、アリシアを思い出すように、しんみりとした表情になった。アカリは、そんなフィオラに尋ねた。
「アリシアさんのこと知ってるの?」
「貴族でもまともな人がいるんだって感じだったよ、彼女はね」
フィオラの言葉に、レンドも静かに頷く。
「ああ、そうだな。見下してる様に見えても、ちゃんと気配りとかしてたしな…。残念だよ。俺は別に、小僧が殺したとは思ってねぇぞ。あれは本人の『毒じゃなく、決闘で死にたい』っていう思いを汲んだから撃ったんだろ? 俺はそう見たよ」
レンドの優しい声に、ライムは強くリヴォルダガーを握りしめた。その掌には、汗が滲んでいる。
「声も出せないはずなのに、『殺して』って聞こえたんだ。だから俺も撃った。彼女の命を背負う覚悟を持って」
ライムの声は震えていたが、その瞳には強い光が宿っていた。レンドは、その言葉を聞いて満足したように笑った。
「ああ、小僧はいいや。相手は雑魚だしな。フィオラとアカリは来るんだろ? 派手にやってやろうぜ!」
レンドは、そう言うとマフラーで顔を隠し、刀を手に取った。
「私も今回は顔を隠すよ…。いや、逆に出した方がいいか。偽物の成敗を、本物がするところを見せないとね」
フィオラもそう言って、レンドに続こうとする。アカリも、ピコハンだけを握りしめ、ライムに振り向いた。
「ライムくん、ちょっと行ってくるね。ゆっくりしてていいから。勇姿を見ててね、配信でさ!」
アカリは、そう言って駆け足で二人の後を追った。ライムは、誰もいなくなった鍛冶屋に一人取り残され、呟いた。
「俺は、それでも…今日は動きたくない…」
その時、鍛冶屋のドアがコンコン、とノックされた。ライムは、忘れ物でもしたのか、やっぱり俺も来いって言いたいのか、と少し不機嫌になり、ドアに向かって叫んだ。
「今日は行かないって!悪いけど!」
ライムがドアを開けると、そこにはスパークが顔を覗かせていた。
「よっ! 良かったらちょっと遊ばないか? 楽しいぞ〜」
スパークは、不気味なほど楽しそうな笑顔を浮かべて、ライムを見つめた。




