表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/34

沈黙の追跡者2

【前回のおさらい】

火事屋の看板娘アカリ、大勝利! ミリアさんの記憶に刻まれる!

だがその陰で、ミリアグッズを持った人が次々と……?

ぬいぐるみと血の匂いが、街を静かに染めていく――。



タカオとレンド、そして兵士たちは、次の現場である住宅街の路地裏付近を目指し急いでいた。アスファルトの路面は相変わらずひんやりと冷たく、街灯の光が途切れ途切れに足元を照らす。彼らの足音が、静まり返った住宅街にカツン、カツンと乾いた音を響かせた。どこからか、遠吠えのような犬の鳴き声が聞こえ、不吉な予感を煽る。

道の途中、狭い路地の入り口で、彼らの足が止まった。そこには、互いに寄り添うように倒れたカップルの遺体があった。血だまりが、月明かりをわずかに反射して、不気味な光沢を放っている。あたりには、先ほどよりも濃厚な鉄と、生ぬるい土の匂いが混じり合っていた。

タカオは、その光景を前にしても、表情一つ変えずに冷静だった。まるで、そこに転がっているのが人形であるかのように、無関心な視線で遺体を見下ろす。

「あら? 今度は二人一緒なのね」

タカオの声は、夜の闇に妙に呑気に響いた。その口調からは、目の前の惨状に対する動揺や悲しみは微塵も感じられない。

レンドや他の兵士たちは、カップルの遺体と、先ほどの通り魔事件との関連性を必死に調べていた。兵士の一人が、眉間に深い皺を刻み、無線で焦った声で報告している。レンドは、遺体の状態を注意深く観察するうちに、ある共通点に気づいた。彼の瞳が、鋭く光る。

「おい、見てみろ!」

レンドの声は、普段よりも一段と低く、緊迫していた。

「またミリアのぬいぐるみだ……しかも綺麗で、触れてもいない……。タカオさん、やはり先ほどの通り魔と同一犯です。おそらく、このぬいぐるみが事件の鍵を握っています」

レンドは、カップルのカバンにそれぞれ付けられた、真新しいミリアのぬいぐるみを指差した。ぬいぐるみの柔らかな布地は、血の染み一つなく、無邪気な笑顔を浮かべている。その異様な清潔さが、かえって周囲の惨劇と不気味な対比をなしていた。

タカオは、レンドの言葉を聞くと、首を傾げた。

「あら? どの子が鍵を持ってるの?」

そう言って、カップルのカバンに付けられた二つのぬいぐるみを、交互にじっと見比べた。その顔には、相変わらず悪びれる様子もない。

レンドは、タカオのその反応に、心底呆れたようなため息をついた。彼の口からは、もう言葉を尽くす気力も失せていた。

「いや、そうじゃなくてですね……このぬいぐるみが、犯人を見つけるためのヒントになってる気がするんです」

レンドは、ほとんど独り言のように呟いた。しかし、タカオはそれを聞き逃さなかった。

「普段ボーッとしてるだけのあなたの意見なんて、当てにはなりませんよ〜。信頼を勝ち取りたかったら、普段から努力をしなさい!」

タカオは、にこやかな笑顔のまま、容赦なく言い放った。その言葉の刃は、レンドの胸に突き刺さる。レンドは、もう何を言っても無駄だと悟り、タカオに反論することは諦めた。彼は、再び遺体の傷口に視線を落とし、冷たい指先でそっと触れた。その感触から、彼は確信を得た。

「犯人は近いな……おそらく、教会を目指してる……」

レンドは、誰に聞かせるでもなく、ボソッと呟いた。彼の目は、闇の先に続く教会の方向を、まっすぐに見据えていた。

ライムが販売所にたどり着いた時、夜の帳は既に降り、街路灯がぼんやりと周囲を照らし始めていた。販売所の前には、大量の荷物を抱え、エコーリンクに向かって興奮気味に喋り散らす男の姿があった。彼の声は、熱気を帯びて夜空に響く。

「は~い!大人気のミリアグッズを買い占めてみたぜ!どうかな〜?財力があればこのぐらい余裕で〜す。このグッズを買えなかった人ざまぁ!欲しかったら俺をフォローしてくれたら仕方ないから高値で売ってやるよ〜、ははは!別にこんなのに興味はないしな〜。じゃあお前らからの連絡待ってるぜ~!」

男の視線がふいにライムを捉えた。その目には、挑戦的な光が宿っている。

「チッ、見てんじゃね〜よ。欲しかったらフォローしてから出直しな」

男は吐き捨てるように言い放つと、重い荷物を揺らしながら通りの奥へと走り去っていった。その背中は、街路灯の光を浴びて、やけに大きく見えた。

(なんだ?全部一人で買ったのか?一つぐらい譲ってもらわないとアカリに怒られる……追いかけてお願いしてみよう)

ライムは、男が残した熱気と、アカリの怒りを想像しながら、彼の後を追った。アスファルトに響く自分の足音だけが、静かな夜に響く。

絶叫と散乱するグッズ

しばらく追っていると、突然、夜の静寂を切り裂くような甲高い絶叫が聞こえてきた。その声は、恐怖と苦痛に満ちており、ライムの背筋をぞっとさせた。ライムは心臓が高鳴るのを感じながら、急いで声の元へと向かった。

たどり着いたのは、細い路地裏だった。そこには、先ほどの男が、夜闇に溶け込むように横たわっていた。首からは夥しい血が流れ出し、地面に暗いシミを作っている。その肌は鉛のように白く、目を見開いたまま、明らかに死んでいた。鼻腔を刺激する鉄の匂いが、あたりに充満している。

彼の周りには、色とりどりのミリアグッズが、まるで撒き散らされたように散乱していた。可愛らしいキャラクターのぬいぐるみ、キラキラと輝くキーホルダー、そしてまだ画面がついたままのエコーリンクが、男の傍らに力なく落ちている。ライムがミリアのぬいぐるみに手を伸ばし、その柔らかい感触を確かめたその瞬間だった。

「そこの男、動かないで!」

鋭い声が、背後から響いた。タカオの声だ。ライムが振り向くと、数名の兵士たちが彼を取り囲んでいた。彼らの武装が、街路灯の光を鈍く反射している。

ライムは、突然の出来事に戸惑い、呆然と立ち尽くした。タカオは、誇らしげな顔で口角を吊り上げている。

「ついに捕まえたわ!通り魔事件もこれで終わりね。もちろん私の手柄よ。あら?ムラサメさんが言うには凄腕の剣士みたいなことを言ってたけど、やっぱり見当違いね。可愛い子だったじゃない?」

タカオは嬉しそうに、まるで獲物でも捕らえたかのように笑う。

「ちょっと待ってください!彼は犯人じゃありませんよ!あまりにも早すぎる!」

焦ったレンドが、タカオの前に駆け寄ってきた。彼の息遣いは荒く、額にはうっすらと汗がにじんでいる。

「あら?手柄を取られて嫉妬してるの?悪いけど現行犯でしょ?」

タカオは勝ち誇った顔で言い放つが、レンドは冷静に反論する。

「ですから違います!彼は今ミリアのぬいぐるみを持っています。犯人なら持たないはずです。それに絶叫を聞いた時、遺体付近に彼はいませんでしたし、犯人じゃありませんよ!」

レンドの言葉に、タカオは不満げな顔で彼を睨みつけた。しかし、やがてその視線は、遺体の近くに落ちているエコーリンクへと移る。

「それだけじゃ証拠が弱いですね。他に何かあればねぇ?」

タカオは、まるで自分では触りたくないかのように、エコーリンクを指差しながら、横に立つムラサメに声をかけた。

「ムラサメさん!あれを見ればわかりますかね?わかるんなら早く見せなさい!」

(自分で操作すればいいのに)

レンドは心の中で呟きながらも、困惑して

「すみません、私もこういうのは不得意で、ああ!小僧、こいつの再生はできるか?」

レンドは、ためらいがちにエコーリンクをライムに渡した。ライムは、夜の闇に浮かび上がるエコーリンクの画面を見つめ、「やってみます」と答えると、慣れた手つきで録画を停止し、再生を始めた。指が画面を滑る音だけが、奇妙に大きく聞こえる。

「ほら~!彼が犯人よ!慣れた手つきで再生してる!」

タカオが歓声を上げるが、レンドは冷静にツッコミを入れる。

「いえ、彼が犯人ならそもそも再生しませんよ。自分の犯行が写ってるかもしれないし」

タカオはぐぬぬとレンドを睨み付けたが、やがて渋々といった様子で頷いた。

「それもそうね。そもそも彼の持ち物じゃないし」

無理矢理納得したタカオの視線の先で、エコーリンクの動画が再生されていく。

影と青い鎧

動画は、男がぶつぶつと独り言を呟く場面から始まった。彼の声は、どこか高揚している。

「これでフォローも増えて儲けれたら一気にトップ配信者だな。借金してでも買い占めて正解だったぜ。金持ちアピールも人気になる道だ」

男が画面に向かって得意げに語り続けていると、突然、画面いっぱいに大きな影が現れた。その影は、男の姿を完全に覆い隠すほど大きく、不気味な存在感を放っている。男の声に、焦りの色が混じる。

「うわっ!なんだこのグッズは!フォローした奴にしか売らね〜ぞ!チッ、いくら兵士でも俺のルールは守ってもらうぜ……」

男がそう言い終わるか否かの瞬間、画面の隅に素早くきらめく刃が映り込んだ。その刃は、瞬く間に男の首元を切り裂いた。

「うがあぁぁ!!?」

甲高い絶叫が、エコーリンクから響き渡る。画面は、飛び散る血飛沫で一瞬、真っ赤に染まった。視界が塞がれ、何も見えなくなったが、やがて血の赤みが引くと、画面の下部に、青い鎧の足元が映し出された。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

リズミカルな足音が、遠ざかっていくのがはっきりと聞こえた。その足音は、闇の中にゆっくりと吸い込まれていくようだった。

映像が終わり、画面にはまだ男の顔が映し出されたままだった。タカオはそれをじっと見つめながら、疑問に思ったことを口に出した。

「この人、録画してるの知らずに独り言言ってるのか? それとも、分かってて喋ってるのか?」

その声は、薄暗い路地裏に響き、どこか困惑しているように聞こえた。路地裏の空気は、血の生臭さがまだ微かに残っていて、少し肌寒かった。

レンドはそんなタカオの問いに、冷静に答える。彼の声には一切の動揺が見られない。

「どっちでもいいですけど、とりあえず青い鎧を着た者が犯人です」

レンドは、落ちているエコーリンクには目もくれず、すでに次の行動を考えているようだった。

「いえ、それもおかしいでしょう?」

タカオは焦ったように声を上げた。彼の声は、先ほどまでの自信とは裏腹に、少しだけ震えているように聞こえた。

「だって青い鎧は本隊の一角の象徴ですよ?。犯人は第二兵団の誰かってことになりますよ?」

タカオはそう言いながら、眉間に深いしわを寄せた。彼の顔には、この状況が自分の手柄にならないことへの不満がはっきりと見て取れた。

「本隊の誰かを犯人にしたいなら、ムラサメさんが報告書を作成して、第三兵団の隊長の元に持って行ってください。私はこういう面倒事はごめんですからね!」

そう言い放つと、タカオはくるりと踵を返し、その場を離れようとした。彼の黒い制服が、風を受けて軽くはためいた。

「待ってください!」

レンドは慌ててタカオの前に回り込んだ。彼の声には、タカオを引き留めようとする必死さがにじみ出ている。

「とりあえず一度教会に行ってみませんか? 犯人は確実にミリアさんを狙っています。ミリアさんといえば、この国でも重要な神官ですよ? 助けたとなれば、タカオさんは大出世間違いなし。本隊所属か、切れる頭脳で一気に大臣もあり得ますよ!」

レンドの言葉には、心にもないお世辞が多分に含まれていた。しかし、その言葉はタカオの耳には心地よく響いたようだ。タカオの表情は、みるみるうちに晴れやかになり、誇らしげな顔に戻っていく。彼の口元には、再び得意げな笑みが浮かんでいた。

「ムラサメさん! ミリアさんを助けに行きますよ!」

タカオは高らかに宣言すると、先陣を切って路地裏を走り出した。彼の足音が、アスファルトを力強く蹴る。その背中を追いかけるように、兵士たちも足早に続いた。彼らの鎧が、カチャカチャと軽い音を立てる。

レンドは、タカオたちの後ろ姿を見送りながら、「すぐ行きます〜!」と声を上げた。しかし、その声はどこか投げやりで、彼はライムの方に視線を向けた。

「小僧、気持ちはわかる。必要な分は持って行け。報告書に一体一体ぬいぐるみのこととか書くの面倒なんだ…アカリに頼まれたんだろ? 持って行ってくれよ? 頼むぞ。じゃあな!」

そう言うと、レンドはライムの肩を軽く叩き、自分も教会へと向かって走り出した。彼の足音は、兵士たちとは違う、どこか軽快なリズムを刻んでいる。

ライムはレンドの後ろ姿を見送った後、散乱したミリアグッズの中から、血のついていないぬいぐるみを二つ手に取った。ぬいぐるみの柔らかい感触が、彼の指先をくすぐる。

「ありがとう…でも、気になるよな」

ライムは、誰にともなくそう呟いた。彼の心には、ただアカリへの土産を手に入れるだけではない、漠然とした不安と、事件への好奇心が募っていた。彼は、手に持ったぬいぐるみをぎゅっと握りしめ、レンドたちが向かった教会へと、足早に後を追った。アスファルトに残された血痕が、月明かりの下で鈍く光っていた。

教会の中は、ミリアが主催するサロンオフ会の会場となっていて、ほのかな花の香りと、人々の話し声が混じり合う、和やかな雰囲気に包まれていた。窓の外はすでに闇に包まれ、磨かれた床は、わずかに差し込む街灯の光を反射して、淡く輝いている。

そんな中、ミリアはいつもより胸元と足元を強調したシスター服に身を包み、足取りも軽やかに会場へと向かっていた。彼女の足元からは、ヒールのカツカツという心地よい音が響く。

(ふふふ、今日もいっぱい来てくれてるよね。招待状は送ってるし)

ミリアは心の中でそう呟きながら、上機嫌で歩いていく。その時、彼女の背後から、ザッザッザッザと、まるで誰かが行進しているかのような重く規則的な足音が聞こえてきた。その音は、床板を僅かに震わせるほど響き、近づいてくるにつれて、周囲の空気が少しだけ重くなったように感じられた。

ミリアは足音に気づいて振り返った。そこに立っていたのは、全身を青い鎧で覆われた大男だった。彼の鎧は、教会の暗闇の中で、わずかな光を受けて鈍く光っている。

「あら? その兜は副団長さん? 護衛はいいですし、今日はリスナーさんと交流する日なので、副団長さんは兵士さんの日に来てください…ね?♡」

ミリアはにこやかな笑顔でそう言ったが、大男は何も答えない。ただゆっくりと、ザッザッザッザという足音を響かせながら、ミリアに近づいてくる。その一歩一歩が、まるで地面を圧し潰すかのように重く、威圧的だった。

そして、男はいきなりミリアの服を剥ぎ取ろうとした。鎧の手袋が、シスター服の生地にガサガサと触れる音が、静かな空間に不気味に響いた。

ミリアは驚いて、「ちょっと! いくらなんでも大胆すぎ! 誰か来ちゃったらどうするの? お願いだからやめて?」と声を上げた。彼女の声は、焦りからか少し裏返っている。男は構わずミリアの服を脱がそうとし続けた。その時、レンドたちが青い鎧の男に近づいてくるのが見えたが、それより先にライムが動いた。

パンッ!

ライムが放ったリヴォルダガーの銃声が、教会内に鋭く響き渡った。硝煙の匂いが、一瞬鼻を刺激する。弾丸は正確に鎧に命中したが、**カチン!**と乾いた音を立てて弾かれた。男は、一瞬動きを止め、その視線をライムの方へ向けた。兜の隙間から見えた、わずかな目の光が、冷たくライムを捉える。

その一瞬の隙に、ミリアはライムの方に走り出し、彼の胸に飛び込んだ。彼女の身体は小刻みに震えていて、その温かさがライムの腕に伝わってくる。

「ありがとう……すごく怖かった」

ミリアはライムを見上げ、上目遣いで言った。その瞳には、恐怖と安堵の入り混じった光が宿っていた。ライムは内心ドキドキしながらも、ミリアの背中を優しくさすりながら言った。

「もう大丈夫ですよ!」

その瞬間、青い鎧の大男から、重苦しいほどの圧が放たれた。それは、まるで目に見えない壁が迫ってくるような感覚で、周囲の空気が一気に張り詰める。その圧力に、レンドたちは思わず一歩、二歩と後ずさりした。床が微かにきしみ、兵士たちの足元が揺れる。

(なんて圧だ……)

レンドは内心でそう思った。その時、遠くの方からタカオの焦った声が聞こえてきた。

「ムラサメさん! 何をしてるんですか? 兜をよく見なさい! 副団長ですよ! 早く下がりなさい! 早く!」

タカオの声は、教会内に響き渡る。その声に反応するように、副団長は再びザッザッザッザと、まるで定められた道を歩くかのように、ライムの方へとゆっくりと近づいてきた。その足音は、闇夜の静けさの中で、逃げ道を塞ぐかのように重く、確実にライムとミリアに迫る。

ライムはミリアを守るように後ずさりしながら、手に持ったリヴォルダガーから次々と弾を撃ち込んでいく。しかし、放たれる弾丸は全て、**カンッ、カンッ!**という金属音を立てて、副団長の鎧に弾かれた。その度に、暗闇の中でわずかな火花が散る。

「やっぱり駄目か……とりあえず逃げよう」

ライムはそう呟くと、ミリアの手を掴んだ。その瞬間、副団長は背中からハルバートと大盾を素早く取り出した。金属が擦れるジャキッという音が響き、彼の全身からさらに重々しい威圧感が放たれる。そして、迷うことなくライムたちに向かって突撃してきた。

ライムはミリアを庇うように前に出て、ハルバートの一撃をギリギリでかわした。夜の空気を切り裂くようなヒュンッという音が耳元を通り過ぎる。しかし、次の瞬間、副団長の大盾がライムの身体に激しくぶつかった。**ドォン!**という鈍い衝撃音と共に、ライムの身体は宙に浮き、そのまま壁まで吹き飛ばされてしまう。背中が壁に叩きつけられ、**ゴツン!**と衝撃が走った。

副団長がさらに追撃しようと踏み込んだその時、レンドと兵士たちがその前に立ちはだかった。彼らの顔には、緊張と恐怖が入り混じった表情が、薄闇の中でうっすらと浮かび上がっている。

「いくら副団長とはいえ、一般人に危害を加えるのは良くないですよ。一回冷静になりましょう?」

レンドは声を荒げずにそう言ったが、その言葉には懇願のような響きがあった。その間にも、兵士に起こされたライムと、心配そうにライムの手を握るミリアの様子が副団長の目に入った。その瞬間、副団長から放たれる威圧感はさらに増し、空気が凍り付くような冷たさが広がった。レンドも兵士たちも、その場に立ちすくみ、体中の毛穴が開くような悪寒が走り、身体が小刻みに震えだした。

(武者震いならいいがな……ただただ恐怖でしかない……)

レンドは、額に冷たい汗をかきながら、心の中でそう呟いた。

「小僧、ミリアさんを連れて神殿に行け! さすがに神殿には手を出さないだろうから! 俺もできるだけ足止めするからさ」

レンドはそう言うと、持っていた長剣を構えた。彼の手に握られた剣の柄が、汗で滑る感覚があった。兵士たちもまた、震える手で長剣と盾を構えた。彼らの表情には、恐怖と、それでも立ち向かおうとする覚悟が入り混じっていた。

ライムとミリアは、「ありがとう」と声を揃えると、暗闇の中を神殿の方角へ向かって走り出した。彼らの足音が、教会の床にタンタンと響き渡る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ