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異世界の無法者4

アリスの無念を晴らすため、ライムの心臓は憎しみでドクドクと脈打っていた。視界の端を過ぎ去る景色はもはや認識できず、ただルシアンを追うことだけが、今は彼の全てやった。ホバーバイクのエンジンが耳をつんざくような轟音を立て、まるで獣の咆哮のように王都の夜空を切り裂いていく。もう少しで街のゲートを抜けられる――そう思った、その時やった。

「キィィィィィン!」

甲高い摩擦音と共に、ライムの目の前にフィオラの姿が飛び出してきた。咄嗟にハンドルを右へと切る。タイヤが地面をギリギリと擦り上げ、アスファルトの焦げ付く匂いが鼻腔をくすぐった。かろうじてフィオラをかわしたものの、避けきれずに**「ドォォォンッ!」**という鈍い音を立てて近くの壁に激突してしまう。衝撃で体が大きく揺さぶられ、ライムは痛みに呻きながらバイクから転がり落ちた。

「痛ってぇ〜……!」

全身を打ち付けた痛みに顔を歪めながら、彼はやや語気を強めて叫んだ。

「なんで飛び出すんだ!?危ないじゃないか!」

しかし、フィオラは路肩に座り込むライムを冷たい目で見下ろし、平然と落ち着いたトーンで言い放った。

「あんたも勝手に行こうとしてたじゃない。依頼は個人プレーじゃダメよ。チームで動かないと」

その言葉と、氷のように冷たい瞳に、ライムはゾッとした。背筋を這い上がる悪寒を感じつつも、彼は絞り出すように言った。

「ごめん……目の前であの子が死んで……もう行くしかないって……早く行かなきゃ逃げられると思って……!」

ライムの言葉に、フィオラの表情に微かな変化が生まれたように見えた。彼女はバイクへと視線を移すと、**「あら、よく見たら良いものに乗ってるのね?私も乗せてくれるかしら?」**と、急に柔らかい声で尋ねた。

フィオラがバイクを起こしホバーバイクの後ろにすっとまたがったのを見て、ライムは(考えが読めないな…)と困惑した。全身の痛みを必死に堪え、彼は再びバイクの前方に跨り、エンジンを再起動させる。

「ブォォン!」

エンジン音が低く唸り始めた時、フィオラがライムの背中にピタリと寄りかかり、抱きつくような体勢になった。ライムは、彼女の柔らかな温もりと甘い植物の香りを感じ、思わず頬が緩んだ。

「ああ、さっきのことだけど。早く行かないと逃げられるわよ」

フィオラの言葉に促され、ライムは嬉しさを感じながらも、再び憎しみを心に宿し、王都のゲート目指してバイクを加速させた。

同時刻、上空――

アカリは、ロンリーベアからブースターを噴射させ、ヒューンという風切り音を立てながら夜空を駆けていた。眼下には、宝石を散りばめたかのような王都の灯りが広がり、遠くには黒々と広がる草原が見える。彼女の目的はただ一つ、レンドを探すことだった。

中央区から少し離れた場所を、背筋を伸ばして歩いているレンドの姿を見つけると、アカリは**「見〜つけた!」と楽しげに叫んだ。そのまま背後からレンドを「ギュッ!」**と抱きしめ、轟音と共に一気に上空へと高度を上げていく。

予想外のことにレンドは体を硬直させ、驚きながらも説教を始めた。

「うわっ!やっぱりアカリか!急になんだ!?正面から来るとか事前に連絡するとか手段はあっただろ!?なんのためにこのエコーリンクを渡してきたんだ!?」

アカリは、レンドの抗議をまるで聞いていないかのように、屈託のない笑顔で答えた。

「うん?エコーリンクはミリアさんの配信を見てもらうために決まってんじゃん!一人でも多く見たほうが喜ぶだろうし、それに登録したら励みになるみたいだよ?」

レンドは呆れたように大きなため息をついた。

「いやお前な〜……こういうのは『今から行くね〜』とかの連絡手段としてだな、使うべきもので……配信を見るためだけの道具じゃねえよ……」

しかし、アカリはどこ吹く風で、**「うるさいな〜!」**と笑いながら、レンドに彼の刀を差し出した。

「はい、レンドさんの刀だよ」

刀を受け取ると、レンドの顔から呆れの色が消え、真剣な表情へと変わった。彼は刀の柄を握りしめ、低く尋ねた。

「もう始まってるのか……?」

アカリは一度は**「今は配信やってないよ〜」**と茶目っ気たっぷりに笑ったが、レンドが本気のトーンだと分かると、慌てて真顔になった。

「冗談だよ!今、ライムくんが向かってるよ!フィオラさんがゲートに向かって、たぶん時間との勝負って言うから、急いで支度したんだよ……ぶっつけ本番って苦手なんだけどね〜」

苦笑いを浮かべるアカリ。上空から下を見ると、夜の帳が降りた草原がどこまでも広がっていた。遠く前方には、まるで蛍の群れのように無数のライトの光が蠢いているのが見える。

「おう、あそこだ。できるだけ急げ!もうすぐゲートだ。潜られたら最後、二度と仕留めれない。貰った金貨もなしだ!」

レンドの焦った声に、アカリは**「じゃあもっと飛ばすよ〜!」**と元気よく応え、激しい追い風の中をさらにスピードを上げて追いかけて行く。無数のライトの少し後ろに、もう一つのライトが見えた――ライムも追いついて来ていた。

「ブオォォォン!」

ルシアンのホバーバイクのエンジン音が遠ざかっていく中、ライムは加速を続け、ついに敵の一団に追いつきかけていた。夜風が頬を強く打ち付け、エンジンの熱気が体温を奪っていく。ライムは、腰からリヴォルダガーを抜き放ち、その冷たい金属の感触を確かめる。

狙うは最後尾の一人。しかし、高速で移動しながらの射撃は想像以上に難しい。一発、二発と、放たれた弾丸は虚しく夜の闇に吸い込まれていく。ライムは呼吸を整え、三度目の狙いを定めた。**「バンッ!」という乾いた銃声が響き渡り、ようやく弾丸が敵のバイクのタイヤを直撃した。「ギギギギッ!」と耳障りな金属音が響き、バイクはバランスを崩して横転。砂埃を巻き上げながら、そのライダーは「ギャアアア!」**と悲鳴を上げて地面に叩きつけられた。

ライムは内心で小さくガッツポーズをしたものの、そのすぐ後ろから聞こえてきたフィオラの「まだまだね」と言う冷静な声に、喜びはしぼんでいった。


その時、頭上から**「ヒュオォォォン!」と風を切る音が響き渡り、アカリがロンリーベアで上空から降りてきた。彼女はライムのホバーバイクの真上を飛ぶと、「こら〜無駄撃ちするな〜!あと忘れ物〜!」**と叫んだ。

アカリはそう言うと、ロンリーベアにぶら下がっていたレンドは、持っていた黒いロープ状のフードを、ライムの頭に「スポンッ」と被せた。フードの先が目元まで覆い、ライムの顔は見えなくなった。

「そういうのはちゃんと持っててね大事だから!あとマガジンも入ってるからね。切り替えができるなら切り替えて。じゃあ先に行くよ!」

アカリは呆れたような声でそう言うと、再び**「ブォォン!」**と勢いよく高度を上げ、先頭を行くルシアン目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。

その様子をバックミラー越しに見たルシアンは、焦燥に顔を歪ませた。

「なんだ、あいつら!?」

そう叫びながら、彼は振り返って手当たり次第に銃を乱射し始めた。残り三発の弾丸でさらに一人を仕留め、ぐんぐんとルシアンとの距離を詰めていく。

その時、フィオラがライムの背中から手を伸ばした。

「ライムくん、武器貸して」

ライムは、言われるがままにリヴォルダガーをフィオラに渡した。すると、フィオラは慣れた手つきでマガジンを外し、瞬時に別のマガジンへと付け替える。**「カチャリ」**と小気味良い音が響き、グリップを回すと、リヴォルダガーをライムに手渡した。

その銃を受け取ると、左前にいる取り巻きの一人の**胸付近を狙い澄まし、「パンッ!」と乾いた音を立てて撃ち抜いた。弾丸を食らったライダーは悲鳴も上げられず、バイクごと「ガシャァン!」**と激しい音を立てて転倒した。

「残り5人とあいつか!」

ライムの声が響く。レンドは加速してルシアンたちにぐんぐんと近づいていくアカリに指示を出した。

「おいアカリ、もう少し前に飛んだら、手を離してくれ!」

「うん、わかった!」

アカリはそう答えると、さらに加速する。**「ダダダダダッ!」と、ルシアンが乱射するマシンガンの弾丸がロンリーベアの周囲を掠めていくのを巧みにかわし、レンドを落下させた。レンドは空中で「シュン!」と音を立てて刀を抜き放ち、そのまま着地すると同時に、向かってくる取り巻き三人のうち二人を「ザンッ、ザンッ!」**と素早く斬り捨てた。鮮血が夜空に舞い、バイクが激しい音を立てて転がっていく。

アカリは残りの一人をロンリーベアのガトリングで狙い澄ます。**「ドドドドドドドッ!」という轟音と共に無数の弾丸が放たれ、ライダーは悲鳴すら上げられずに撃ち抜かれた。あたりは、激しい銃声と光、そして血と鉄の匂いで満ち溢れていた。レンドは、後方から向かってくる二体に備えようと構え直したその時、背後から急に「ブオン!」**と、空気を切り裂くような鋭い音が聞こえた。

レンドは咄嗟に後ろへと下がる。そこにいたのは、ビームサーベルを持った黒ずくめの男だった。ルシアンの声が、夜の闇に響き渡った。

「へっ、こんなことがあっても良いように用心棒を雇ってて良かったぜ!かなりの大金を支払ったけどな!まあ、契約金以上の活躍はしてくれよ!俺さえ逃げれればそれで良いんだからよ!」

ルシアンはそう言い放ち、ゲート目掛けて猛スピードで突き進んでいった。

「ちっ、物騒な剣を持ってるじゃね~か。異世界っていうのは、そういうのが流行ってるのかい?」

レンドは、ギラリと光るビームサーベルを構えた黒ずくめの男を前に、重心を低くして居合いの構えをとった。漆黒の夜空の下、王都の明かりが遠くで瞬いている。冷たい夜風がレンドの頬を撫で、土埃の匂いが微かに鼻腔をくすぐった。

一方、アカリは一気にルシアンを仕留めようと、ロンリーベアのブースターを最大噴射させて距離を詰めていた。ヒューン、ヒューンと空を切り裂く轟音が、夜の静寂を破る。すると、突然、夜空を切り裂く無数の光がアカリを襲った。それは、まるで流星群のように、しかし明らかに敵意を持って彼女に迫る。

咄嗟にロンリーベアのシールドを最大展開し、火花を散らしながら光を防ぐ。ガキン!ガンッ!と、まるで金属がぶつかり合うような甲高い音が響き、アカリの腕に重い衝撃が伝わった。その影響でブースターがヴゥゥン…とゆっくりと停止していき、アカリは砂埃を巻き上げながら地面に着地した。アスファルトの焦げ付く匂いが、あたりに漂う。

着地する間もなく、さらに無数の光の筋がアカリを襲って来る。シールドで身を守りながら、アカリは相手の姿を捉えた。そこに立っていたのは、全身黒ずくめで、燃えるような赤いロングヘアーの女性。両手に漆黒のビームガンを二丁持ち、冷たい目でアカリを見据えていた。

「お嬢ちゃん、変わったぬいぐるみを持ってるのね。私にくれないかな?もちろんダメなら殺してでも奪ってあげる!」

女はぞっとするほど甘ったるい声で言い放つと、銃口をアカリに向けた。カチリ、という引き金の音が夜に響く。

「はぁ?渡すわけないでしょ?死ぬのはお前だよ!」

アカリは不敵な笑みを浮かべると、再びブースターをグォォォンッ!と噴射させ、一気に女との距離を詰めながらガトリングガンを**ドドドドドドドッ!**と乱射した。耳をつんざくような銃声が夜空に響き渡り、火薬の匂いが辺りに充満する。

女もすかさず青白いシールドをギィン!と展開して守りを固めつつ、ビームを撃ち返してくる。しかし、ブースターで猛加速したアカリは、ロンリーベアの頭部の重そうなハンマー部分を前方に突き出し、女のシールドをガシャァン!と粉砕した。シールドの破片が夜空に散らばる。そのままゴァッ!と、アカリはロンリーベアの頭部を女の顔面に叩きつけた。女の顔はグチャリと音を立てて陥没し、**ドバァァッ!**と生温かい血が夜の闇に噴射され、女は断末魔の叫びすら上げられずに宙を舞って吹き飛んで行った。

「逃げれば死ななかったのに」

アカリは、どこか気の抜けた声で呟くと、ゆっくりと地面に着地した。ロンリーベアの金属が熱を帯び、微かに焦げたような匂いがする。

「もう限界みたいだし、あとはライムくんに任せるよ」

そう言うと、アカリは転がるように倒れている女が持っていたビームガンを手に取って、物珍しそうに細かく見始めた。その表情には、戦闘後の疲労と好奇心が入り混じっていた。

一方、レンドは居合いの構えのまま、黒ずくめの男の振り回すビームサーベルをただひたすらに避けていた。ヒュン、ヒュン、と空気を切り裂く剣の音が、レンドの耳元を掠める。

(スピードは大したことねえ…でも、受けると刀が折れる)

レンドは、ビームサーベルから発せられる熱気を肌で感じながら、冷静に状況を分析していた。

「どうした、おっさん!逃げてたらその内スタミナ切れで死ぬぜ?ほらほら、**良いもんぶら下げてんだから切ってこいよ!**まあ、できっこないよな?ビームサーベルに当たれば折れて、あんたもしまいだ!あひゃひゃひゃひゃ!」

男は、嘲るような笑い声を上げながら、赤い光を放つビームサーベルを大きく振り回し、レンドを挑発する。男の放つ、下品な汗の匂いがレンドの鼻を衝いた。

「ああ、そうだな。逃げてばかりだと疲れちまう歳だからな…おめえが嫌な奴で良かったよ」

レンドは、男の挑発に静かに応じると、さっきよりもゆっくりとした動きでビームサーベルをかわしていく。その動きは、まるで舞を踊るかのようだ。

「なんだ、てめえ!さっきよりも随分と引きつけるじゃねえか!疲れたのか?俺は余裕だけどな~!」

男は、レンドの動きの変化に気づかず、ますます得意げにビームサーベルを振り回している。その時、フッとレンドの姿が夜の闇に溶けるように消えた。

「どこだ!?」

男が焦りの声を上げた瞬間、レンドは男の下から一気に斬り上げた。その動きは、雷鳴のように速く、音もなく、まさに神速の一閃だった。

「いつの間…」

男が言葉を発しようとした瞬間、グシャリと鈍い音が響き、男の顔がズレて、**ドバァァッ!**と大量の血しぶきが夜空に噴き出した。男は悲鳴も上げられず、真っ二つに斬られてドサリと地面に倒れた。血の生臭い匂いが、辺りに広がる。

レンドは、カチャリと小気味良い音を立てて、刀をゆっくりと鞘に納めた。

「いくら良い武器を持ってても、使う奴が未熟じゃ剣も可哀想だ…」

レンドは静かに呟くと、倒れた男のビームサーベルを手に取った。その赤い光が、レンドの表情を照らす。そして、そのままライムの方を向いて、**(さっさと仕留めろ、小僧)**と心の中で呟きながら、アカリの方へと歩いて行った。

ライムは残りの弾薬を使い、前を走っていた最後の1人を乾いた銃声と共に撃ち抜いた。弾丸を食らったライダーは悲鳴を上げる間もなく、バイクごと砂埃を巻き上げて転倒する。遠くで、レンドとアカリが手を振っているのが見えた。しかし、前を見たライムは、焦燥に顔を歪ませていた。

(どう頑張っても追いつけない…どうしたらいいんだ…?)

ホバーバイクのエンジン音が耳の奥で轟いている。風が頬を強く打ち付け、絶望にも似た感情がライムの胸を締め付けた。その思いを見透かしたかのように、フィオラの声が冷たく響いた。

「本当にしょうがないわね…今から私が言うことをよく聞いてね。相手がまっすぐ走ってる限り、あんたもまっすぐ走って。もしズレたら、あんたもズレて一直線になるように走りなさい。わかったわね?」

フィオラの声音には、有無を言わさないような強い圧が込められていた。背中に触れる彼女の体温とは裏腹に、まるで氷のような冷たさを感じ、ライムは思わず身震いする。

「はい…」

全身を打ち付けた痛みを堪えつつも、ライムは素直に応じた。

その頃、ルシアンはゲートが近づく焦燥感に駆られていた。

「くそ!なんなんだあいつら…**化け物か!**用心棒もやられてるしよ…ちっ、**使えねぇ〜!**まあいいや、もうゲートは近いし、**俺の勝ちだよ!**もう二度と会うことはねえぞ、ば〜か!」

ルシアンは、荒い息を吐きながら悪態をつき、手にしたロケットランチャーを肩に担いだ。金属の冷たい感触が、彼の掌に伝わる。

「おめえら、これ結構高かったんだけどよ〜!一発お見舞いしてやるよ〜!別に死ななくても良い!ただビビってくれればよ〜!」

ルシアンは下卑た笑みを浮かべ、**バンッ!と引き金を引いた。甲高い発射音が夜空に響き渡り、ロケット弾はゴォォッ!**と尾を引いて、勢い良くライムに向かって飛んでくる。

ロケット弾はライムのすぐ横で着弾し、**ドォォォンッ!**という耳をつんざくような爆音と共に、熱い爆風がバイクを激しく揺さぶった。砂埃と煙が視界を完全に覆い、一瞬で辺りは何も見えなくなった。焦げ付くような硫黄の匂いが鼻腔を強く刺激する。

しかし、フィオラは冷静だった。煙の中で、どこからともなく銀色のジョーロと、磨かれた片眼鏡を取り出すと、いきなり足元の土から無数のツタがニョロニョロと現れ、ジョーロや片眼鏡に絡みつきながら、生命を得たかのように蠢き始めた。ツタが絡み合うギュッ、ギュッという微かな音が、爆音の残響の中で聞こえる。

ライムは驚いて、後ろに振り向き。

「な、何かツタとか見えるけど!?」

フィオラは、そんなライムを一瞥し、冷たく「うるさい」とだけ言い放った。ツタが絡み合い、ジョーロと片眼鏡と植物が奇妙に混ざり合って、まるで生き物のように形を変えていく。見る見るうちに、それは一本の洗練されたスナイパーライフルへと変貌を遂げた。フィオラは、掌から取り出した小さな種をそのライフルに装填する。カチャリ、と小気味良い音が響いた。

「種は一個あれば良い…」

フィオラはそう呟くと、煙で前方がほとんど見えない中、ライムの肩に銃身をピタリと置き、一気に引き金を引いた。パンッ!という乾いた銃声が夜の闇に響き渡る。放たれた種は、まるで意思を持っているかのように、かなりのスピードで煙の中を一直線に突き進み、ゲート前のルシアンの左の肩にプツンと音を立てて命中した。

ルシアンは一瞬、肩に感じたチクッとした痛みに眉をひそめる。

「なんだ?ちょっとチクってしただけか…じゃあなあ、ば、よ〜!はははははは!」

ルシアンは勝利を確信したかのように笑いながら、ゲートの中に消えようとした。その瞬間、ゲート内部で彼の体内で異変が起こる。

ルシアンの肩に命中した種は、体内の血液を猛烈な勢いで吸い上げながら、急速に発芽した。彼の全身にミチミチッ、ゴキゴキッ!という骨が砕けるような不気味な音を立てて、無数の根が張り巡らされていく。口からは、ブチブチッと音を立てて緑色の茎が伸び出し、見る間に真っ赤な蕾が飛び出した。それは、まるで彼の苦悶を嘲笑うかのように、美しく、しかし禍々しい真紅の薔薇の花を咲かせた。ルシアンの体は、その薔薇に完全に飲み込まれるようにして、ゲートの中に消えて行った。

爆煙が晴れ、夜風が吹き抜ける。ライムはホバーバイクをゲート前で止めた。あたりには、まだ微かに硫黄の匂いが残っている。

「結局逃しちゃったか…報復に来るかな?」

ライムが思わず口走ると、フィオラが彼の頭をポンッと叩いた。その仕草は、どこか諦めたような、しかし諭すような優しさを含んでいた。

「何を見てたの?赤い薔薇の花が咲いたでしょ?もう死んでるわよ…」

フィオラは、こともなげに言い放つと、スナイパーライフルになっていた植物を、サラサラと音を立てながら種に戻していく。そして、ジョーロと片眼鏡も元の形に戻り、彼女の手に収まった。

ライムは、恐怖に顔を引き攣らせながらも、絞り出すように尋ねた。

「あの、フィオラさん…今のは?前も見たことあったけど…全然意味がわからなくて…」

フィオラは、ふっと薄い笑みを浮かべた。その表情は、どこか満足げに見えた。

「今回は頑張ってくれたし、教えてあげる…私、植物を操る能力を持ってるの…魔道具を使ってね」

ライムは、驚きに目を見開いた。

「えっと、もしかしてルドルフが使ってたようなもの?」

フィオラの唇の端が、微かに上がる。彼女は黙って頷いた。

「そうよ。ちなみにアカリも能力者で、ロンリーベアが武器庫なのもその影響よ…そんなことより、戻りましょう。もちろん送ってくれるよね?帰りも胸を当ててサービスしてあげる」

フィオラはライムの背中に再びピタリと密着し、柔らかな温もりと甘い香りがライムを包み込む。しかし、その甘い誘惑は、ライムにとって嬉しさよりも、言い知れない恐怖の感情がまさっていた。

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