第23話多情仏心(たじょうぶっしん)
「私は神よ」
そう沙也加は言い放った。
「この石があれば私は神だわ、殺生石に、神を吸収させた。そうこれは夢想石、この世のあり方を変える石よ。全てはこの石を作るために私が仕組んだこと、魂を吸収させ、殺生石を活性化し、座敷荒らしの魂を吸収させるための。やっと手に入れた」
なんだと、今までの恐怖なんかは全部演技だったというのか。
「疑ってるわね、いいわ、私を殴ってみなさいよ」
俺は思い切り振りかぶって沙也加を殴った。確かに殴った感触があった、が、しかし殴り飛ばされたのは俺だった。
「あははは、何やってるのかしら、しかし殴ってみてとは言ったものの躊躇しないのね」
なんだいったい、なにが起きた。攻撃が、反射された?拳が俺に当たったわけじゃないから衝撃だけ反射されたのか。
「すべてを思いのままにしてやるわ」
俺は近くに有った本を投げつける。
沙也加に当たる瞬間本が消えて目の前に出てきて、俺の顔面に直撃する。
「無駄よ、この世の理を変えるの、私に危害は加えられないわ」
「なら、これはどお!」
シュリーの、両手が、光ってる
それが、指先に集約される。
嫌な予感がする、俺は慌てて宮本武蔵を召喚する
召喚と同時にシュリーの指先から光が放たれた、光は沙也加に向かってとんでいく。
が、沙也加に当たる直前にまたしても消えた。瞬間俺の目の前にひかりが現れた、ほんの少しだけ首をいなしてそれをよける。
武蔵の力がなかったら当たっていたはずだ、しかし避けた光はまたも消えて再度俺の目の前現れる。
さっきと、同じようにかわすが、幾度どなく繰り返される
このままではジリ貧だ、俺は武蔵の二刀をだすと光を切り捨てる。
「はは、そんなものまで出して、そんなに私を殺したいの?」沙也加には武蔵を降ろしたことが分かるようだ。
「殺したいわけなんかあるか、ほとんどお前のことは知らんし」
「そんなことないはず、みんなが私を見下してみんなが、私を憎んでいるわ」
こいつどれだけ歪んでるんだ、
「憎くむ?おれがなにをしたんだ」
「そうよ、何もしてないわでも、なんでなにもしてこないのよ、この世の男はみんな私のものだわ、私を見て何もしてこないなんて、それだけで罪なのよ」
まったくもう言ってることが、無茶苦茶だな。
「神と融合して精神がおかしくなってるんだわ」とシュリーが言う。本当にそうだろうか、正直わからないが。しかし、こう言い合ってる間向こうからは攻撃してこない。もしかしたら、攻撃を反射する能力なのか?
「今攻撃できないんじゃないかって思ったわね、そんなわけないじゃない、私は神、神って言ったでしょ」
そう言うと、指先から光を放ってくる、さっきシュリーが、使った技だ、さらに武蔵の刀も出してくる。太刀を振りかぶったかと思うと、大上段の構えから振り下ろしてきた。俺は太刀を左に受け流すと脇差をそのまま沙也加に向かって突き出す。
しかし沙也加の脇差が、それをからめとるように円を描き絡めとばす。
そのままの、勢いで、俺の脇腹をかすめる。武蔵の後の先が、読まれるとは。くそ、俺はわき腹を抑えながら沙也加を見る、
「これならば」
シュリーが、手のひらを、前に出すと、指から光の球が、飛んでいく、まるで、散弾だ、沙也加はこれも、同じ構えをすると、当たりそうな玉だけ、相殺した。
何発かは壁に当たって穴を開け、いくつかの棚の上においていたものが落ちてきた。
沙也加は、それらをよけもせず当たっても気にもしていない。
「そこのお姉さんは、人間じゃないのね、あなた私につく気はないかしら」
そういってシュリーに話しかけてくる。
神格と言う意味ではシュリーが圧倒的に上であることはわかっていないようだ。
シュリーがしてくる攻撃をかわせてるからなあ。
「このままじゃ駄目ね、そのほうがいいかも」
そういうとシュリーはいきなり俺にむかって両手を差し出して散弾を打ち出してきた。
「おい!いきなり何を」
ばっかやろう、くそ、ともかく必死で光の球をはじく。
「そうよね、そうそう人も神も、意地汚くて自分が大事なだけ、もっともっとやりあうがいいわ、 あはははは」
快楽にひたった笑いをあげている沙也加。こうなりゃ仕方ない、まずはシュリーを何とかしないと。俺は刀で光を弾きながら少しずつシュリーに近づいていく。やるしかないのか。
が次の瞬間突然口から血をはいて沙也加が倒れた。
見ると何発か俺がはじい球が体を貫通していた。
「な、なぜ」胸にあいた穴を押さえながら聞いてくる。
「理を変えるなんて本物の神だって大変なものなのよ?ぽっと出のあんたに早々できるもんじゃないと思ってたんだけどね、あなたのは自身に向けられた力を跳ね返す力だったんだよ、だからあなたに意識が向いてない流れ玉には、対応できなかったのよ」跳弾か。それにしたってひどくないか、いきなり俺に打ってきやがって。そのまま俺が死んだらどうするつもりだったんだ。そんな俺の思いを見透かしてか
「信じてたわ」とシュリーは一言だけ言った。
そうか、下手に意識が向くとはじかれる可能性があったのか。
「私死ぬの?」膝をついて沙也加はかすれるような声でいった。
「さあどうかしらね」
言ってるはしから沙也加の体が薄くなっている。これは
「理を変える力の、影響ね、最後はこの子自身の理が、なくなるの、世界から存在がなくなるの」
皆が彼女の存在を忘れるってことか、さすがにちょっとかわいそうだな。俺もシュリーに周囲の記憶を消されたときは結構こたえたからな。承認欲求の強い子なら尚のことだろう。これは神の最後と同じということか。シュリーも同じになるかもしれないのか。
「嫌。みんな私を忘れないで、私を一人にしないで、もう、無視されるのは嫌」
俺は彼女の手をとり話しかける。
「大丈夫、忘れないよ、なにがあっても。だから安心して、眠ったらいいよ」
沙也加は、うっすらと笑みを浮かべると、嘘がへたね、でもありがとうね。といってきえていった。結局のところ俺は彼女の人生はなにも知らない。どういったことに悩んで苦しんでいたかのかも。彼女の思いは純粋に「一人でいたくない」というものだっただろう。SNSなどが発達した現在。本当に一人じゃないとはだれもが言い切れるのだろうか。
なんとも後味のわるい幕引きだ、何とか救えなかったんだろうか、
「それは難しいんじゃない」とシュリー
「ところで、殺生石はどこに行ったのかしら」
当たりを見渡すが見当たらない。彼女が呑み込んだから一緒に消えたのだろうか。
なんにしても一高校生が知りえる情報ではなかったはずだ。彼女に知識を与えた者がいるのだろう、球の件もあるが今回も何一つ収穫がないままだった。
あと結果的にはシュリーの攻撃が有効だったということだよな。
妖異には何もできなかったんじゃないのか?
今回の件は分からないことだらけだ。元凶も結局あのぬいぐるみなのか球なのか石なのか。すべてを知っているはずの沙也加は何も語らないままこの世から消え去った。
多情仏心
感受性が高く気が多い性格ではあるが、人の情けをわきまえ薄情ではいられない性質




