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鳥居の杜の  作者: WR-140
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杜の守り手

黒い着物に、黒い帯、黒い羽織。

その人がクロハヌシ、みたいね。

背が高くて痩せてるけど、背筋がピンと伸びてて、テレビ局で見たサクマってヒョロ長い人とは全然違う感じ。

違うって言えば、圧が凄いね。

ゲームの中ボスっていうかさ、迫力がハンパない。ドドーンって効果音、背負ってそう。

イケメンは間違いないね。でも何か怖い。

表情のせいかな、あんまり愛想のいいタイプじゃないのは確かみたい。

クロハヌシが私を見た時、何故か隠れたい気分になったくらいだ。

ってったってさぁ、空中じゃ隠れる場所もないよね。イチハは虫並みの大きさしかないし。

『それが例の娘か。』

と、クロハヌシが言った。外見と同じくらい無愛想で暗い、低い声だ。

やっぱ根暗だよーこの人。

それに、例のって?

何か嫌な言い方だよね。私には名前がありますけど。

「詮索無用だ、クロハヌシ。お前には関係なかろう。」

そうそう、その通り。

あー、でもさ、迫力負けし過ぎだね、イチハ。キーキー声でカッコつけてもねえ。

声だけじゃなくて、外見も完全に負けてるんだし。

イチハはさあ、残念なんだよね、色々と。

そう思ったとき。

クロハヌシがにやっと笑った。

『面白い娘だな。』

んん?え、まっ、まさかっ!

『無論聞こえている。』

クロハヌシはそう言った。澄ました顔で。

い、イチハさん?!マジ、ですか?

「…鳥居の杜の眷属だからな。」

な、なんなの、そ、そういうことはさ、言っといてくれなきゃだよイチハ!

いえあのクロハヌシさん、悪気はなくてですね、根暗そうだとか、無愛想だとか、単なる印象って言うか…

「やめとけナル。おまえ自分で墓穴を掘りまくってるぞ。」

『根暗に無愛想か。事実ではあるな。』

そう言って、クロハヌシは腕組みした。そのとき気付いたんだけどさ、着物、黒一色じゃなかったんだ。

変わり織り、っていうのかな。

光の当たり方によって、織り込まれた模様が浮き上がって見えるみたい。

羽織は、幅広の縦縞だ。で、着物なんだけど、裾には椿の花と葉が豪華に織り出されていた。どうなってるのかよくわからないけど凄く凝った感じ。こんな着物、見たことないよ。一見地味だけど、派手。

色みは全然ないのにね。椿の花の赤が見えるような気がして、ちょっと不思議。

なんかオシャレ。

『赤はあまり好きな色ではない。』

クロハヌシ、もといクロハヌシさんがポツリと呟いた。アレ、と思う間もなく、イチハが改まった口調でクロハヌシに問いかけた。

「ウツロはますます力をつけて来たな。」

『ああ。厄介だ。このままでは埒が開くまい。魔寄ろの辻のあれともども、どうにかする必要がある。』

「どうにか、か。」

『今更言うてもせんなきことだがイチハヌシよ、貴様に依代さえあればな。』

イチハヌシ?それに、まよろのつじ、さっき確かにそう聞こえた。

イチハは答えない。ただ黙って浮かんでいるだけ。

小さすぎて、黙ってじっとしてると見失いそうになる。

『まあ良い。それでは。』

そう言うと、クロハヌシの姿は突然かき消えた。

「俺たちも戻るぞ。」

あ、うん。


何が何だかさっぱり分からないまま、私とイチハは、最初に出会ったあの場所、稲荷の鳥居の前に戻っていた。

早速質問タイムだ。分からないことが多すぎるから。

イチハ。まよろのつじって何?

「魔が集う場所だな。クロハヌシは、そこへ通じる道を守る。」

イチハは、本当はイチハヌシって名前?

「いや、今はただのイチハだ。依代があった頃はイチハヌシと呼ばれていたが。」

依代って?

「俺たちみたいな存在が力を発揮するための道具というか、容れ物というか、まあそんなモノだな。」

クロハヌシは、依代が椿の木ってこと?じゃあ、イチハは?

「神社の由来は知ってるか?」

え?あー、おじいちゃんに聞いたのは、昔悪いヘビみたいな怪物が退治された時に、その尻尾から出て来たつるぎがまつられてる、とか何かそんな感じ?

「そうだ。そしてその劒がおれの依代だった。」

何か意外、って言うか、炎上しそうな発言ですねイチハさん。

だったって、どういうこと?なんで過去形かなあ?無くなっちゃったってこと?

だったら、ご神体がなくなったんでしょ?

ええっ?それ、大事件じゃない?

「そういうことだ。だからおれはただのイチハってことさ。」

宮司さんとか、何だっけ、神社庁だかの役所はなんで平然としてるの?

御神体がなくなったら、大変なんじゃ?

「形はあるさ。元々本殿にある劒は別物だからな。」


イチハによると、神社の本殿は今まで何度か火事で燃えたり、倒木に押し潰されたりしたんだそう。

今の本殿は江戸時代に出来たもので、納められたつるぎは最初からレプリカ。

じゃ、本物はどうなったの?

「盗まれた。」

はい?

「江戸時代に起きた火災のドサクサで盗難にあった。本物はその頃既に腐食して原型も定かでないほどボロボロだったから、火事でどうにかなったんだろう、くらいに思われていた。つまり人間は誰も気にしなかったな。」

そんなボロボロ、何で盗んだのかな?

「人間は気にしなかったが、おれたちのような守り手や、魔寄ろの辻から来るモノにとっては、あの劒は大きな存在だったんだ。だが、奪われた。火事場泥棒が何者だったかは分からない。人かそれ以外かすらも。だから、おれは劒の探索に出た。」

え?その、葉っぱの姿で?

「今は葉っぱを依代にしているが、場合によっては人の姿にもなれるさ。獣や鳥にもなれる。おれにはクロハヌシみたいな本来の姿がないから。」

よく分からない話。

憑依、とかそんなの?

「まあ、ザックリいえばそうだ。」

クロハヌシは、椿の精なんでしょ?

「ただのヤブツバキではないぞ。千年を経た椿。あれは元々、刑場に居た。」

刑場って…え?死刑を執行するところ?

「死刑だけではないが、メインはそうだな。刑場が移転したとき、クロハヌシはここに移植されたんだ。死者の追悼と祀りのためにな。」

あ…だから。

赤が嫌いって。

あの木の花は赤いのにね。

「繰り返し血を浴びただろうからな。」

イチハは淡々と答える。なんかぞっとしたのは、多分気のせいじゃない。

血飛沫が見えたように感じたから。

刑場の椿。

劒を依代にしたもの。

どちらも、血に深く関わってきたんだ。

ネットには、血生臭い画像がたくさんアップされてる。

見たくないのに、後から嫌な気分になるのがわかってて、それでもつい見てしまうことってあるけど。

でも、あれを見られるのって、結局自分には関わりないって思ってるからだね。

もし、血を流してるのが知ってる誰かなら?

地面に、モノみたいに転がってピクリともしないのが、家族なら?

絶対、見ていられない。


そう、あの時はどうしても見ていられなかったんだよ、お父さん。

次回もお楽しみいただけたら嬉しいです。

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