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鳥居の杜の  作者: WR-140
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あんまりじゃない、イチハさん?

人の悪意について、珍しく真面目に考えながら、呪詛の塊だってイチハがいう、黒っぽいナニカが飛んでくのを眺めてた。

それは私たちと同じく固いものを突き抜けて移動できるみたいだ。

壁に当たると吸い込まれるように姿が見えなくなる。

そのまままっすぐ透過していくんだろう。

番組制作会社の人らしい2人は、まだなんだかんだと話してる。

背の低い方のオガタってオジサンが、ヒョロっとしたサクマって人を思いとどまらせようとするんだけど、全然効果なし。

てか、本気で止めてない気もするね。

マクラエイギョウがどうとか、違約金の上限がとか、株主総会が荒れたら、とか、私にはわからない話が飛び交っていた。

マクラエイギョウって何、ってイチハに聞いたけど、子供は知らなくていいって。

なんかあんまりいいことじゃないらしいのはわかった。

他にもわかったことがあった。

スキャンダルを起こした俳優って、男性だと何となく思ってたけど、女性だったね。

それに私でも知ってる名前だったから、ちょっとびっくりした。

鳥羽りお。

アイドル出身で、優しそうないいカンジの、綺麗な人。CMとかにもよく出てる。

その人がフリンしてて、相手の奥さんに訴えられそうだなんて!?

しかも、制作会社のオジサンたちの話によれば、プリン相手はその人だけじゃなくってドラマのプロデューサーとか、スポンサーの偉い人とか…あ!まさか、マクラエイギョウって、そういうことなの、イチハ?

「まだ知らなくていいぞ、ロクでもない。大人になったら嫌でも知る羽目になることは多いからな。」

少しうんざりした口調だね。

ふーん、そういう意味なんだ、やっぱり。

大人ってヤダね。そういうのキモすぎる。

「大人も子供も人間には違いないだろ。ちょっとした嘘だとか、不正とかがバレたときの影響が大きくなってしまう分、大人は割が合わないとも言える。」

それは、そうかもね。

あーあ、結構イイ感じのタレントさんだって思ってたのにな。ちょっとガッカリ。

だけど大人ってさ、子供より自由じゃない?親とか先生とかにアレコレ言われないもん。

ウチだってさ、おじいちゃんはお母さんにあんまブツブツ言わないのに、私にはすっごくうるさいんだ。お母さんとおじいちゃんは本当の親子なんだけど、お母さんが子供の頃はおじいちゃん、チョー口うるさかったらしいんだけどね。

「それは、お前が心配だからじゃないのか。実際危なっかしいよな。」


なんて話してる横で、背の低い方のオジサンはケータイでどこかに電話してた。

「根負けしたのか、ヤケになったのか。」

イチハがそんな風に言うけど、つまりはパパラッチを紹介する気になったってことだよね。

鳥羽りおの、悪いウワサだかスキャンダルだかを更に広めようとしてるんだ。

なんかイヤな感じですね、イチハさん。

私の推しと同じ事務所のタレントさんなのにさ。

「推し?ああ、コンビニの雑誌で見たな。あそこにいる奴だろ。」

え?

あそこって、ど、どこに?

「5メートルばかり先の角だ。あ、コラ、勝手に動くと危ないぞ!」


!!!!

い、居たっ!

ウッソー!

お、大橋修斗だあーっ!

「お前のボキャブラリーって貧困もイイとこだな、ナル。」

イチハのスンとしたコメントも、あんまし耳に入ってこなかったね。

だって!

大橋修斗だよ?修斗さまって言うべき?

イチハが言った通り、オジサンたちのちょっと先の曲がり角の先に、その人はいた。

あーん尊い!

写真や動画でしか見たことなかったけどさ、ホンモノは断然素敵♡

この顔が実在してたなんて、奇跡すぎ!

佐久間先輩なんかとは、やっぱ次元がちがうイケメンぶりだよ。

パンピーと違うとこを数えたらキリがない感じね。

第一にオーラが違う!芸能人オーラって、凄すぎるよー!

反対に共通することって何かある?

あるわけないよね!修斗さまをあんなヘンタイ盗撮画像マニアと比べられるわけないじゃん!

あー、来てよかったよぉ、イチハさん。


「共通項って言うなら、まあどっちも近寄らない方が良さそうではあるな。」

はあっ⁉︎何言ってんの?!

「落ちつけってコトバも言い飽きたな。全くお前って奴は。」

何よっ!何なのよその呆れ返ったって調子は?

この感動に水さすつもりなの?

こんなサイコーの出会いに?

あんまりじゃない、イチハさん。


葉っぱのイチハは、少し黙ってた。

何か考え込んでるのか、聞き耳を立てていたのか。

「聞いてみろ、ナル。」

淡々としたいつもの口調だ。

聞く?

修斗さまを?


曲がり角の壁にもたれるようにして、修斗様が目の前に居る。ま、まぶしい!

やだほんと後光が射してるみたい!

「そいつ、こんなとこに隠れて何をやってるんだろうな。」

はあ?

か、隠れてだなんて!

でも、あれ?言われてみれば…


確かに、ちょっと不自然なんだよね。

曲がり角の壁に背中で張り付くようにして立ってるなんてさ。

しげしげ見たら、まるであのオジサンたちの会話を隠れて盗み聞きでもしてるみたいな…

で、見ちゃったんだよね、私。

修斗さまが、うっすら笑ってるのを。

その顔、何かヤだ…。

ドキっとした時、コトバが聞こえた。

コンビニの時みたいに、鮮明に。

『上手くいきそうだな。』

はい?

何が?

そして、修斗さまの唇の端が更にすこし上がった。

笑顔だけど、この顔は、好きじゃないよ。

『あんな女、さっさと消えちまえばイイんだ。鳥羽りお、あのクソ女。』

…はい?聞き違い、じゃなさそう。

『土台あんな弱小事務所、リソースも限られてるってのに、りおなんかに肩入れする余裕がどこにあったんだ?りおに営業の仕方を教えてやったのは俺だぜ?まあ、まさかそれで人気が出るとは誤算だったが。』


い、イチハ、営業ってまさかつまり?

「ああ。そういうことらしいな。さっきから聞こえてたんだが、この男、自分の売り出しに事務所が全力を傾けるようにするため、鳥羽りおというタレントを潰そうと画策したようだ。まず彼女を誘惑して、自分の言いなりになったところで、局の偉いさんだとかスポンサーだとかに枕営業を仕掛けさせる。彼女が男どもに弄ばれた結果芸能界からフェードアウトするよう仕向けたんだろうが、逆効果だったようだ。それで、今度は事務所ごと潰そうとして、営業相手の奥さんに告げ口したってことだな。

自分は、大手の事務所に移籍を決めてからとは、若いのにやり手ではある。」


や、やり手ってさ、イチハ、そういう言い方ないよね!?

騙して、悪いことさせて、それから突き落とそうってことだよね?

クズじゃん、完全に!

「こういう世界なんだろうさ。芸能界に限ったことじゃない。その鳥羽何とかって子もろくでなしに引っかかったのが不運だが、本来は周りの大人がもっと気をつけるべきだろうさ。それに、唆かされたにしても、仕出かしたのは本人だ。」


正論ってヤツだよね。

だけど、何でこんなに腹が立つんだろ。

鳥羽りおは、確かに悪いことをしたのかもしれないけどさ、こんなふうに引きずり下ろされて、その後どうなっちゃうんだろ?

なんかザワザワする。

知りたくなかったよ、こんなの。

ああもう、最悪!

憧れてたんだ、ほんとに。

タレントったってさ、人間だってこと。

わかってるよそんなの。

でも、夢見るくらいイイじゃない?

それでちょっと幸せ気分になったり、元気になれたりするならさ。

推し活って、そういうことだよね。


そんなこと考えてたら、突然イチハが。

「帰るぞ。」

え?

何で突然?あっ!!

それからしばらくは、何が起こったかわからなかった。

私に身体はない。

なんだけど、意識だかなんだか、とにかく今の私の存在全部が、ぐいって

引っ張られたのね。

どうやってそんなことが出来たのかはさっぱりわからないけど、引っ張ったのはイチハだって分かってた。

ちっぽけな虫くらいの大きさの葉っぱなのにね。

やっとイチハに尋ねたのは、しばらく経ってからだった。

何故こんなに急に?

「緊急事態だ。」


イチハはそれだけしか答えてくれなかった。それに、私をグイグイ引っ張る感じもずっと続いたんだ。

どこかを飛んではいるんだろうけど、景色なんか全然見えない。

基本真っ暗な中、下や横、時には周り全部に輝く光の筋が見えるだけ。

多分、とんでもないスピードなんだろうとは思ったけど、実感はあまりなかった。

だって、飛んでるなら普通、風とか感じるはずなんだけど、そういうカンジは全くないんだ。

空気抵抗ゼロ。

ただ引っ張られて移動してるだけ。

で、気がついたら、戻って来てた、みたい。

みたいって言うのは、移動が終わった場所のせいだ。

私たちは、何もない空中に浮かんでた。

夜景は東京とは比べられないほど殺風景だけど、それでも信号や車、ビルの灯りは見えている。

真下に黒々と見えている帯みたいな場所が参道なんだろうな、と何気なく見下ろしたその時、私は異変に気付いた。

次回もお楽しみに。

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