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鳥居の杜の  作者: WR-140
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テレビ局ですよイチハさん。

今度の移動は、少し長かった。

最初はイチハを追いかけてスタートしたんだけど、スピードがどんどん速くなっていって、ただもう、見失わないのに必死で。

どんなところをどう飛んだんだか、全然覚えてない。

気がついたら、わあここ、何!?

大きな町。夜だけど、人がいっぱいだよ。

すっごく明るい。

大きなビル。沢山の車。ざわめき。

イチハにここがどこなのか聞こうとしたら、それが目に入った。

見慣れたロゴ。テレビで見たことのある、特徴のあるビル。

こんなに大きいとは思わなかった。

これってテレビ局、だよね。

大きなガラスドアと、あれは警備の人かな、制服の人たちが何人かいる。

それに、出待ちっていうの?

正面のドアからは少し離れた場所から、出入り口を見つめてる一団の人たち。

何人かずつ固まっている。

みんな若いのかな、ってよく見たら、結構歳が行った人も混じってた。

なんか突拍子もなく目立つ服の人もいれば、フツーにそのへん歩いてるような人もいる。

なんか、凄くカワイイ高校の制服着てるのに髪の毛ピンクとか、黒いけどとんでもなくなが〜いツインテールとかさ。

アレ、地毛のわけないよね絶対。

メイクとか流行の服なんかははよくわからないけど、外見バラバラなのに、なんかみんな似たような感じに見えますね、イチハさん。

何でかなあ?んーと、表情のせいかもね。

「多分そうだろう。」

やっぱ淡々としてるね。そんなんで人生楽しいの、イチハ?

「余計なお世話だ。おまえははしゃぎ過ぎじゃないか?」

えー、そんなことないよ!

だって、初めて来たもん、こんな時間に、こんなとこ。

きっとみんなこうなるって。私くらいの歳だったらさあ、これでフツー。

「まあ、それは置いとけ。さて、人が多い場所では、ノイズの種類が違ってくるんだ。それと、油断すると、危険なことがある。」

危険?なんで?

「話すときに、はた迷惑なほど声の大きい人もいれば、耳をすませても聞き取れない声の人もいるよな。」

ああ、うん、それで?

「おれたちは、耳で聞いてるわけじゃないんだが、意識の中に勝手に飛び込んでくるほど大きい声の人間がいる反面、必死になっても聞こえない声の持ち主もいる。まあどっちも人間とは限らないが。」

んん?何か意味深な感じですねイチハさん?

「別に大したことじゃないさ。単なる事実ってやつな。まあそれでだ、声が小さいと人が多い場所じゃ焦点が合いにくい。それは分かるな?」

あー、うん。それが?

「反対に大声なら、否応なく聞こえてしまう。だが、そんな声の持ち主は往々にして少し…ヤバいことがある。」

はい?どうヤバいわけ?

「おれたちが聞いてるのは、精神のツイートとでもいうべきもんだ。その〝声〟がデカいってことは、ただ考えが単純てことじゃなくて、信念が非常に強固とか、その信念が、はたから見たら妄想に限りなく近いとか、まあどこか普通とは違うって場合が多い。後は何かの理由で感情が暴走した時とか、何か良くないモノの影響下にある時とかだが…ん?」

どしたの、イチハ。

「いや…付いてこい。見た方が早い。」


私はイチハに付いて、建物に向かった。

ガラスと鉄とコンクリートとかなんだけど、何もかもが、凄くきらきらしてる!

さすがテレビ局だよね。

私たちはそのキラキラした外壁をあっさりと通り抜けた。

あれ?ここ何かフツーすぎない?

学校みたいな殺風景な廊下と壁に、フツーのドア。

「当たり前だろ。スタジオ内とかは派手だろうけど、それ以外は機能が優先される。放送しない場所に投資したって仕方ないからな。」

はいはい。

大人の事情ってことね。

でもさあ、飾り一つないなんて、これじゃ学校みたいでガッカリ。ひとけもないし。

「この辺りは機材置き場とかビデオ編集とか、裏方関係みたいだな。ロビーや楽屋はもう少し華やかなんだろうが。」

えー、そっち見たい。

テレビ局ですよ、イチハさん。

「こういう場所はな、人間のいろいろな想いを吸い寄せる。神社の界隈は比較的穏やかな場所と言えるが、ここはそうじゃない。」

何で?夜だけど照明は点いてるし、人もいっぱい居そうだよ?

「だからだ。憧れや欲望は強い想いを産むが、それは良いモノとは限らないんだ。」


ここか、と呟いて、イチハは私を振り向いた。

って言っても、イチハには顔がない。

葉っぱの表側を私に向けたってことなんだけどね。

「いいか。入ったら大きな声を出すな。」

え?何かちょっと真剣な感じですね。

わかった。わかりました、イチハ先生。

「冗談ごとじゃない。」

そう言って、イチハはあるドアに向き直った。Cー5003 、ドアのプレートにはそう書いてある。他のドアと何も変わらないように見えるけど…。

あれ、でも何だろうこの感じ?

ザワッとする。

何かちょっと…黒いような、ザワザワねっとりした質感の何かだ。変なの。

「行くぞ。」

あ。

反射的にイチハについてドアを抜けた。

そこは、会議室みたいな造りの部屋だ。

四方は壁で、窓はなく、ホワイトボードと長机、椅子が整然と置かれていた。

誰もいない。

最初そう思ったけど、ソイツはいた。

何だろうこの感じって?

例えばさ、部屋の隅をふと見た時に、アレがうじゃっと固まってたら、たぶんこんな感じかな?

アレって何かって?

アレって言えばアレしかないでしょ?

イニシャルはG、絶対口に出したくないあの名前の、6本足の、長いヒクヒク動く触角で、ムダにツヤツヤ黒光りしたアレ!

あいつが数十匹、わさわさ固まってるのを突然目にしたみたいな感覚だった。

声だすな、ってイチハは言ったけどさ、声なんて元々出ないさ。口も喉もないもん。

仮に有ったとしてもよ、声なんか出せなかったと思う。

おぞましすぎるんだよ。

実際に見たのは、部屋の隅にわだかまる、何だか黒っぽいモヤのようなカタマリだった。

決してGじゃないよ。

ないんだけど、それを見た時私は完全に固まっていた。

初めて目にするモノなのに、なんでこんなに衝撃を受けるのか、謎だ。

「アレをあまり注視するな。少し視線をずらせろ。」

ハッとした。

うんアレは悪いモノだ。

なのに、まるで吸い寄せられるみたいに見てしまう!

そうすると、もっと見えて…!

アレが私を見ようとしてる?!

「大丈夫。アレはおれたちに手出しできない。だが、あまりマジマジ見ちゃいけない。見たら、アイツもこっちを見る。あまり愉快な体験ではないだろう。さあ、この部屋から出るぞ。」

私は急いでイチハについて部屋を出た。

身体があったら、息をすることも忘れてだかもしれない。

とにかく、気味の悪い体験だった。

部屋から出る直前、私は見てしまった。

あの塊、得体の知れない黒い丸いモノには、目があったんだ。

目だけじゃなかった。

鼻も、口も、耳まで。

アレは…首。

人の首だった。


お付き合い頂きありがとうございます。

次回もよろしく。

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