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鳥居の杜の  作者: WR-140
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見ること、聞くこと②

聞くのにレクチャーっている?

普通に音は聞こえてるんだけど?

視点の移動は、確かにちょっとむずかしいところがあったけどさ、視点がかわったら自動で音も聞こえる気がする。

「聞くのは、何も音波だけじゃない。」

あ、なんかまたややこしいこと?

「違う。心の声って言葉知ってるだろう?それを聞く方法だ。」

え?

誰かが考えてることがわかるってこと?

そんなこと出来る?

「全部じゃない。いま一番気に掛かっていることが聞こえるが、チャンネルを合わせるのが結構難しいんだ。とにかくいろんな雑音が入る。ラジオの手動チューニングみたいな感じかな。」

そんなのやったことないし。

「だろうな、今時の中学生は。まあ、習うより慣れろだ。まずはその少年に集中してみろ。」

あー!佐久間先輩♡

サイコーに素敵だよね、どっから見ても。

なんか、立ってるだけでコンビニの景色までエモいよー。

「ビジュアルはどうでもいい。今は聞くんだ。」

でも、先輩なんも喋ってないよ?

何を聞くわけ?


佐久間先輩は、雑誌のスタンドの前で携帯をいじってた。一人きりで、店内には他にあまりお客さんはいない。先輩の手元はよく見えないけど、あれは写真かなあ。なんかのサイト?メールとかじゃなさそうだね。

気になったから、視点移動して携帯の画面を覗きこんだ。

!!!

びっくりだ。何、コレ!?

身体があったらきっと、うわっとか、叫んじゃってたかもしれない。だって!

ボー然としてたらイチハの声がした。

「盗撮画像って奴だろう。」

そんなのわかってるってば!

女性の、スカートの中を撮った動画なんて、それ以外あるかーいっ!

だ、だけどだけどなんなのこのっ、この!

か、仮にも佐久間先輩だよ?そんな…。

「こら、落ち着け。裏切られた気分は分かるが。」

イチハはこんな時も淡々としてた。

裏切られたとか、そんなことより、コレって犯罪だよ!

「そうだな。これは誰かと共有してるファイルだなあ。同好の士がいるのか。」

同好の士って!

何それ?サイテーだよ!

「趣味は人それぞれだ。だが、これはあまりいただけない。被写体が同意したとは思えないからな。」

ど、同意なんかあるわけないじゃん!

こんな動画、晒されたりしたら!

「ほう、ロングショットと、顔のアップまで撮っているか。なかなか腕のいい盗撮者だな。」


イチハの無神経なコメントに、呆れ返ったその時だった。どこからか、声が聞こえて来たのは。

最初は、ザーザーと雨の音みたいなノイズごしで、何を言ってるかまでは聞き取れなかったけど、聞き覚えある声だってことはわかった。

耳を澄ますのとはちょっと違う感じで、ノイズの向こうに焦点を合わせてみる。

『これは収穫だ。』

ギョッとするほどはっきり聞こえた。

なんかさ、すっごくアツい口調で。

間違いなく佐久間先輩の声。まるで耳元で喋ってるみたいにはっきりしてるけど、先輩の口は動いていない。

『この三角形の各辺の調和。顔もスタイルも最高じゃないか。これは傑作だ。拡散する価値がある。』

ちょっと!?ちょっとちょっとぉおおっ!

何言ってんだ、コイツ!?三角形?

か、拡散って?正気か??

完全に犯罪じゃん、それ。

「おお、聞こえたのか。コツは掴めたようだな、ナル?」

それどころじゃないっ!

佐久間先輩が、こんなひとだなんて!

なんか凄くショックだよー。

知りたくなかった…です、イチハさん。

「こういうこともあるさ。そう落ち込むな。どうせそう親しい間柄でもなかったんだろ。」

だって。

本当に憧れてたんだよ。学校で先輩の顔が見れたら、それだけでちょっと幸せ気分になれたんだから。

そういう存在って、必要だと思わないの、イチハは?

「よくわからんな。近付かない方がいい相手だとわかって、かえって良かったじゃないか。」

それはそうかも知れないけど、このさき先輩を見かけたりしたら、とっても嫌〜な気分になりそうだ。

幸せ気分じゃなくてさ。

差し引きマイナス、赤字確定。

何か、すっごく損したみたいな気がする。

これって誰が悪いのかな…。

「他人の人格は変えられないさ。まあ、おまえも見る目がなかったってことだな。」

うう…。

グウの音もでない感じだけど、イチハって優しくないよね。

キーキーした声で言われたら、腹立つ前になんか脱力しちゃうし。

正論ってさ、誰も幸せにしないよね。

しかも葉っぱだし。

「なんた?八つ当たりか、ナル?」

そ、そんなんじゃないもんっ!

でも、先輩のココロの声はもう聞きたくないよ。ねえ、こっから離れよう、イチハ。

あー、でも、人ってほんとわかんない。

「ま、こんなこともあるさ。」

確かにね。あ、でもさ、みんながみんなこんな◯◯ヤローじゃないよ、きっと。

「下品だぞ、ナル。せめて排泄物男とか、いや、それも却って下品か。」

何言ってんのよっ!


身体があったら、その場に座り込んでたかもしれない。

イチハってデリカシーがないだけじゃなく、どっかズレてるんだ。

とにかくこれ以上先輩の声は聞きたくなかった。

耳がケガれるってもんでしょ、全く。

その時、私の目に飛び込んできたのは、雑誌の表紙から笑いかけてくる、あの人の顔だった。

キレイな色白の頬が、ほんのりピンクだ。

少し細めた目が、長いまつ毛の下からキラキラした光線でも発してるみたい!

んー、尊い

さすが芸能人は違うよね。佐久間先輩がいくらイケメンったって、ギョーカイの人には敵う訳ないじゃん。

そう!

同じ憧れに生きるんなら、やっぱこっちでしょ、こっち!

「あん?誰だそのこっちって?」

大橋修斗クン!

「だから、誰、それ?」

えー?!知らないの、イチハ?そこの表紙のひとだよ!

すっごい人気なんだからもう。モデル出身だけど、ドラマに映画でしょ、SNSでしょ、バラエティでしょ、CMも、それに声優もやって、歌だって。

「俳優ってことか。」

ま、まあざっくり言えばね。

もう、佐久間先輩は忘れる。

どうせなら修斗クンだよー。

「顔が良きゃ何でも良いのかよ、ナル?」

芸能人だからさ、顔合わせることなんか一生ないしね。

ガッカリすることもないと思うんだ。

「俳優だろうが、人間には違いないだろう。そこの少年と何が違う?」

21歳で、大人だしさ、それに芸能人ってスキャンダルはダメだろうし。

「21?何だまだガキじゃないか。」

私よりは大人だもん。

「大人、ねえ。」

イチハは、雑誌に近づいて、しげしげと表紙を眺めてた。

どうやら先輩にはイチハが見えてないみたい。

「よし。行くぞ。」

行く?どこへ?

「ついてこい。しっかりとな。」

はい?あ、ち、ちょっと!


説明一つなかった。

だけど、ぜったい置いていかれるわけにはいかない。

それで私はイチハを追いかけて、ぐんぐんスピードを上げたわけなんだけど。


次回も宜しくお願いします。

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