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鳥居の杜の  作者: WR-140
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世界って、面白い

で。

お母さんにお父さんの遺言を伝えた。

自分が死んだら伝えて欲しいって、お父さんがそう言ってたって。

お母さん、「そう。」とだけ。

考えてみたら、私にあんなファイル残したお父さんが、お母さんに何も残して行かなかったはずなくてさ。

後で知った。実際に、お母さん宛の遺言ファイルがあったって。

お父さん、お母さんが、自分に依存し過ぎてるって、心配してたもんね、

だから、〝生きろ〟ってメッセージは既に一度、伝わってたみたい。

あの動画、実はお父さんが死んだかなり後に録画されてたんだ。だからお母さんに実物は見せなかったんだけど、お母さんにしてみたら、自分宛ての遺言と同じ言葉が、最初から用意されてたって解釈したみたいね。

しばらくして、お母さん、ため息を一つ。

私の方は見ないで、ポツリと言った。

「用心深い人だったわ。いつも、数手先をみてたって言うか。」

「そう、なんだ…。」

確かに。そういう人だったよね。でも、それは言えない。

「時々、どこを見てるかわからないことがあった。何を見てるかもね。何を…考えてるかも。」

「そう…。」

そうだろうね。お父さんは、お母さんに全部を説明することは出来なかっただろうって思うよ。

見えなくて、聞こえない人に伝えられることは、きっと限られてる。

どんなに信じていても、どんなに愛し合ったとしても、それは同じことなんだろう。

よく、人はどうせ1人なんだって言う。

生まれた時から死ぬまで、ずっと。

そんなことわかってても、やっぱりどっかで期待しちゃうよ。友達なら、家族なら、って。

なぜこの人が考えてることがわからないんだろう、なぜわかってくれないんだろうとか、もどかしく思うことはある。

お母さんにしてみたら、そんな中である日突然、1人取り残されてしまったんだ。

今はわからないけど、いつか分かる、理解できるかもって思ってた人が永遠にいなくなってしまった。

だから、お母さんは、どうしようもなく自分を責めてしまってたんだ…。

そんなの意味のないことだって、わかってだはずなのに。

外の世界には目を閉じて、耳も塞いで、そんな風に生きて来たんだよね。

でも、もうそれはおしまいにしなきゃいけないと思うよ。

それがお父さんからのメッセージ。

お母さんだって、きっとわかってるはずだと思いたい。もう、自分を自由にしなきゃいけない時だってことはね。


それから数日経って、おじいちゃんが退院してきた。リハビリの先生は困ってただろうけど、おじいちゃんは頑固なだけに努力はする人だから、経過はまずまずだったみたいね。車椅子生活にはならなくて済んだから、まあ良かったかな?

おじいちゃん、病院に来たマシロサマのことばっか話してくるの、やめて欲しいな。

そりゃ、マシロサマ美人だけどさ。

おじいちゃん曰く、ご本家さまとそのお使いであるましろさまについては、深く詮索してはならないって戒めがあるんだって。

なのに、だよ。

それは、1000年以上にわたって、鷹塔の家に伝えられて来た決め事。

代々の当主だけが言い伝えてきた秘密でもあるんだってさ。

だから、お母さんは、ご本家さまやましろさまについては知らない。

おじいちゃんは、僅かながら見ることができる人で、私もそうだからって言ってた。

だから、ましろさまはお母さんでなく、私の前に現れたんだって。

まあ、間違いでもないかな?

私は、あれから〝転移〟することはなくなったけど、何でかな、時々人の声が聞こえるようになったみたい。

心の声、がね。

それに、時々、京都や東京で見た不思議なモノを見ることがあるんだ。

おじいちゃんによれば、鷹塔のご先祖には〝聞き耳〟と〝心眼〟の異能があったんだとか。

「ましろさまにお会いしたなら、ナル、お前には当主の資格があるということだ。」

だってさ。何でそうなるかな?

伝統とかって、ワケわかんないね。


佐久間先輩から呼び止められた時は、ちょっと気まずかったなー。

あんなこと、言っちゃったし。

ほら、あのイケナイ趣味のこと。

「あれから考えてみたんだが、鷹塔ナル。」

なーんて、マジな顔で切り出されて。

ヘンタイってわかってるけど、ちょっとドキドキした。

てか、なんでフルネーム呼び?

ヘンタイ男は、他人をフルネーム呼びしがちだとか、そーゆーわけわかんない習性でもあるんだろうか?

「何ですか、先輩?」

「あの、画像のことなんだ。考えてみれば、相手の意思というものを無視してたんじゃないかと。」

「あー、そりゃそうでしょうね。」

今更かい!

盗撮されて喜ぶ人は、絶対いないとは言い切れないけどさ、まあレアだろうし。

てか、そんなこと最初から分かり切ってんじゃん?

何を言いたいのかね、この人。

「気付いたんだ。自分が罪なことを、人に迷惑をかけるような真似をしそうになってたことに。」

は?

そんなマジな顔で言われても。内容が内容ですからね。

「気付かせてくれて、ありがとう。助かった。それだけ、君に言いたくて。」

「あ…はい。良かったです。」

佐久間先輩は、ひどく真面目な顔で頷いて、片手を上げた。

あ、爽やか笑顔。

「じゃあ。」

「はい。どうも。」

何だったんだ?

私はボーっと先輩の後ろ姿を見送った。

あんなキリっとした顔で言われてもなー。

てか、携帯の盗撮動画、本当に消したんだろうな?

まあ、私には関係ないけど。


「ナル。どうしたんだ、ボーっとして?」

「あ、椿さん。」

そうだった。今日は椿さんと、ブログのネタ取材にみかげやに行く約束してたんだよね。

椿さん、カミサマになってからはどんどん力をつけたみたいで、今では実体化するのもカンタンらしい。

今日はラフな格好で、長い髪は後ろで束ねられてる。モデルさんみたい。

おじいちゃんとお母さんには、お父さんの友達ってことにしてるんだ。嘘じゃないし、そう言っとけば変な心配させないで済むからね。

ウェブデザイナーの椿 玄羽さんは、最近東京からこっちへ引っ越して来たってことになってる。

あ、ウェブデザイナーってのは、ほんとらしくて、ブログよりそっちの方が収入多いから、本業だよね。

千年椿って名前でやってたらしいけど、今後は椿玄羽って名乗るって。

お母さんは、椿さんに会って最初は戸惑ったみたいだった。

まあ当たり前か。

お父さん、生前は椿さんの話なんかしてないはずだから。

その辺りは椿さんが何とかうまく言ったみたい。

おじいちゃんは、何かを感じたみたいで、椿さんと上手く話を合わせてくれてたしさ。

私は私で、椿さんに教わらないといけないことは沢山ある。

以前、イチハから幾らかは教わってたけど、〝転移〟してない状態でも、〝見ること〟〝聞くこと〟には、危険が伴うんだ。

相手の〝声〟が大きいと、精神に良くない影響があるし、テレビ局の生首みたいなやつよりずっと危険は奴を〝見る〟時、相手もこっちを〝見る〟んだって。

最悪の場合、相手に引きずられて、取り込まれてしまいかねないらしい。

椿さんが居れば大丈夫だけど、1人でも危険を避ける方法を身につけないと。

となると、やり方を教えてくれのは、椿さんしかいないじゃない。

おじいちゃんの力はごく弱くって、気配を感じる程度に近いらしいからね。

それでも、椿さんが人間じゃないことは最初からわかったみたい。

ところが不思議なことによ、マシロサマについては普通の人間だと思ってるみたいなのよね、最初から今までずっと。

「ああ。それはな、ましろさまの神格が非常に高いからだ。」

「え?意味わかんないんですけど?」

「あのお体は、有機物で構成された実体だから生身の生物だ。精神は今言った通り高い神格だから、逆に弱い感能力では感知できない。君はましろさまの神格を感知出来ないだろう?」

「そうですね。」

マシロサマが壁抜けするところとか見てなけりゃ、きっと人間だと思ってたはず。

「君よりずっと感能力が低いおじいさんが感じられるはずはないだろう。」

なるほど。

まあこんな感じで、私は何も知らないんだなと思う。椿さんにとっての常識は、私にはわからないことだらけなんだろう。

反対に、椿さんは1000年以上生きてて、ネットまで人間以上に使いこなすけど、人間の感覚に疎いところは多々ありそうだ。

味覚とかファッションセンスは良さげだけどね。


みかげやの前まで来たら、暖簾の向こうで店の引き戸が開いた。

木の枠が、ガラガラって音を立てる。

誰か出てきた。

え、ウソ?すっごい綺麗な子!

歳は高1くらいか、もうちょい上かな?

ノーメイクだけど、そもそもメイクの必要がなさそうな人っているんだね。

美少女って言うの?サラサラの長い髪が色白の頬に揺れて、長いまつ毛に縁取られた切れ長の大きな目は、小さな顔と比べて比率がおかしすぎる。

こんな顔、現実にあるの?

でも…どっかで見たような?

「あ、ごめんなさい。」

綺麗な声。優しくて軽やかな。

とにかく思わず見惚れてしまう容姿だ。

人生って、不公平だよね…。

美少女の後ろから、もう1人。

みかげやの袋を提げてる。

こっちは男の子だ。小学生?明るい茶髪は、染めてるんじゃなく地毛だね。顔立ちと肌の色は白人だし。

なかなか整った顔だけど、連れの美少女に比べたら平凡な感じですね。

「行くよ、コータロー。」

「はーい。」

こ、コータロー?

この顔で?あ、ハーフとかかな。

東洋系の血はカケラもなさそうだけど。

2人を見送って、ふと椿さんを見たら、何だか真剣な顔。

「どうかした、椿さん?」

「神馬だ。」

「新芽?何の?」

「あの少年。あれは一角の神馬だよ。」

しんめ…ああ、神馬?

え、でも、一角の神馬って。

「ユニコーン、みたいな?」

「それだ。」

男の子にしか見えないけど?

私には何のことやらだよ。でも、椿さんが言うならそうなんだろうね。

ユニコーン?

めっちゃレアじゃん!

「こらナル、どこへ行く?」

男の子を追いかけようとしたら、後ろからガッチリと襟首を掴まれた。

「離してよ!」

「追いかけるつもりならやめておけ。神馬は危険な存在だ。特にアレはな。」

「え!だって、女の子と一緒だったし。」

「女の子、ではない。あの女性は恐らく、神馬の契約者だろう。契約者以外には危険な神獣は多い。無闇に近付いてはいけない存在について、君はもっと学ぶべきだ。」

「そうなんだ…。」


本当、わかんないことがいっぱいだ。

自分が何も知らないってことを知るたび、不安になるよ。

でもさ。


だから世界は、面白いんだよね、きっと。


最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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