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鳥居の杜の  作者: WR-140
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みかげやの井戸

何があってもやっぱり朝は来るんだ。

マシロサマたちが帰ったあと、私は足が震えてきて、すぐには動けなくなった。

もう危ないことはないってわかってるはずなのに、体がいうことをきかない。

フラッシュバックとかっての、こういう感じなのかも、って思った。

何にしても、お母さんにはケガとかなくってほんと、良かった。

私の震えが収まって、30分くらいしてからお母さんは目を覚ましたんだけど、何も覚えてなかったみたい。

疲れて、知らないうちに寝落ちしたんだと思ってた。

隣のおじさんが訪ねて来たことも全然覚えてなかったみたい。

もちろん、椿さんやマシロサマのことも。

「私、ずいぶん疲れてたのねえ。」

だってさ。のんきでいいよ。


お父さんのファイル、早く続きを見たいとは思ってたけど、一旦閉じちゃったから、次開くのには椿さんが必要だよね。

学校が終わったら、椿さんを呼べないか試してみようって、そんなこと考えてた昼休み、花梨がやってきた。

ん? なんだろ、花梨の表情が変だ。

ま、まさか花梨のフリしたアレとかじゃないよね?

「ナル〜、見たぁ?」

深刻っぽい上目遣い。

あ、コレは花梨に間違いなさそう。

「どしたの、花梨?」

「修斗さまだよー。逮捕されたって。」

「はい?」

花梨が言う修斗さまって、あの大橋修斗だよね?テレビ局で見たあのクズ野郎!

あー、思い出したら腹たってきた!

あの顔、好きだったのにさ、ほんっとショックだった。あそこまで見事なクズだったなんてね。

でも、アレが逮捕されたって?

逮捕じゃなくて訴えられそうになってたのはたしか、アイツが潰そうとしてた鳥羽りおじゃない?

フリンして、相手の奥さんに訴えられそうだって話だったはずだ。

それで、ドラマが降板になったら、大変なことになるってテレビ局に居たおじさんたちが話してたっけ?

なぜに大橋修斗が逮捕されたんだろ。

「落ち着きなよ花梨。なんで逮捕されたの?」

「名誉毀損。威力業務妨害。それに、薬物使用と恐喝。」

花梨はスラスラと言ってのけた。

うん、この子こうみえて、検察官志望だったっけ。とにかくアタマいいんだ。私じゃ検察官と警察官の違いもよくわかんない。

「テレビて騒がれてるのはまだ恐喝だけだけどさあ、ネットじゃもうほかのも炎上してる。」って、ナミダ目。

「それって、具体的になにをやらかしたワケ?」

「薬物は、コカイン使用。恐喝はさ、不倫ネタで大手企業の常務取締役を強請ったって。」

んん?不倫ネタ?

「その恐喝って、鳥羽りおに関係が?」

花梨の目が大きく見開かれた。

まつ毛長いよね、昔から。

「何だ、知ってたんだ、ナル。」

「知らない。ただ、ウワサで、鳥羽りおが不倫でドラマ降板かもって聞いたから。」

これはウソじゃない。

「あ、そんなウワサがあったんだ。うん、たぶんその件だよ。でもさ、それ事実無根だったんだって。」

「どゆこと?」

「りおちゃん、その常務取締役って人の実の姪でね、まあそれは事務所とかには隠してたらしいんだけどさ。事務所の先輩だった修斗さまが、りおちゃんに枕営業しろってしつこかったらしいよ。あ、ナル、枕営業ってわかる?」

あー。アレか。

「知ってる。」

「えっ、意外。ナルなのに知ってるんだ。どこで聞いたの?」

テレビ局ですけどね。ナルなのにって何だよ花梨、

「なんかおじさんたちが話してた。」

「あー、そっかあ!おじさんてそういうの好きそうだもんね。でさ、りおちゃん、枕営業をけしかけられて困ったから、最初から実のおじさんに相談してたんだって。事務所の先輩のいうことだから、無下にはできないって。」


花梨情報によると。

常務取締役のおじさんは、相手にするなって言ってたらしいけど、鳥羽りおと一緒にホテルのレストランに行ったりしてた。

伯父と姪の関係だし、前から可愛がってたから、まあ、普通だよね。

2人でいるところを写真に撮られてたけど、そんなワケだから問題はない。けど、大橋修斗はこともあろうにそれをネタにして、自分をCMに起用しなければネットにばら撒く、って、常務取締役おじさんを脅したらしい。

って、どんだけバカなんだ、大橋修斗!

あんたなんかに、一瞬でも憧れてた私の時間を返して欲しいよ。

結局、被害届が出されて、余罪も出て来て今に至る。

「てか、花梨、ほんっとクズじゃん、大橋修斗って。」

名前言うのも汚らわしいわ。

「そうか。そうだよねナル。信じられないけど確かにクズなんだ…。」

「人って、見かけによらないよね…。」

花梨と同時にため息をついた。

アイドルなんてどうせ別の世界の人なんだけどさ、やっぱり夢を見ていたいじゃない。

できたら知りたくなかったって、また思っちゃったね。テレビ局で大橋修斗の正体を知った時のショックが蘇ったから。


「あ、それじゃあ鳥羽りおは枕営業はしてなかったんだ?」

「しないでしょ。努力家だし、ルックスはやや地味系だけど、優しそうで感じいいもん。」

地味系って…、まあそれはそうかも。

化粧品のCMに出てるような、びっくりするほどキレイなモデルさんと比べたらね。

でもやっぱり芸能人だもん、私たちとは全然違うよ。

ふう。

で、最初から相談してたってことは、鳥羽りおは大橋修斗を信用してなかったんだろうね。いい気味。

大橋修斗は、鳥羽りおを完全にバカにしてたもん。

でも実は彼女の方が1枚上手だったってこと。ちょっとスカっとしたかも。

ほんとに人って、外見だけじゃわかんないもんだよね。


「あ、それよりさナル。知ってる、みかげやのこと?」

「ん?どうしたの?」

「お店、閉めるらしいよ。」

「えっ?な、なんで?」

びっくりした。いや、でも仕方ないか。だって経営してるのは、おじいちゃんくらいの歳のひとたちだもん。

70代かな。

跡継ぎも居ないわけだし、いつ閉めてもおかしくはないんだから。

「もうトシだもんね…。」

「それもあるんだろうけど、井戸が枯れかけてるからたって。ウチのお母さんが言ってた。」

「井戸?それ、お菓子になんか関係あるの?」

花梨は頷いた。

「和菓子に水は大事なんだって。特にみかげやはさあ、餡子はお店で作ってるから、水が直接味に影響するもんね。」

「そうなんだ…。」

水かあ。

井戸が枯れたらどうしようもないよね。

水道水じゃ、あの味は出ないってことみたいだ。

だから、お店を閉めるわけね。

残念だし、寂しい。マシロサマだって、また買いに来るかもって…。

ん?あれ、なんか…?

「ねえ花梨、井戸水って、地下水だよね?」

「はあ?当たり前。」

当たり前はわかってる。そうじゃなくて。

「井戸水、枯れないかも。」

「え?何言ってんの?だってさ、あのあたりの井戸ってどこも水位、下がって来てるじゃない。みんなつながってるもん。」

「うん。だったらたぶんだけど、地下の水位、上がってくるんじゃないかな?」

マシロサマに聞いてみたい。

椿さんたちのために、マシロサマ、水を呼んだんだよね。

境内の池の水位は見てないけど、椿さんが充分に潤うほどの水を呼んだのなら、鳥居の杜周辺はまた豊かな水脈を得たんじゃないかな。

うん、たぶんそうだ。

「ナル?何ニヤニヤしてるの?」

頭は大丈夫かと言いたそうな花梨の表情だけど、私は気にしない。

きっと大丈夫。

そうだ、帰ったら椿さんに聞いてみよう。

みかげやの井戸のこと。




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