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鳥居の杜の  作者: WR-140
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見ること、聞くこと①

「聞くってのも、少しコツがいる。」


澄ました顔(?)で、イチハがそう言った時、私はかなりキレてた。

見ることのレクチャーで、幾つもの世界を見たけど、中にはテレビとかではそのまま放送できないようなところもあったんだ。

瓦礫の町。

というか、こんなになる前は普通の町だったんだろうな、と思われる場所には、何人か人が倒れていた。人だけじゃなかった。

大きな茶色い犬もいた。飼い主なんだろうか、小学生くらいの男の子と折り重なるように倒れていた。

何があったのかはわからない。地震とか、戦争とか、そういうことなんだろうけど。

見渡す限り無事な建物はなかった。

あの石灯籠みたいに砕けてしまったコンクリートの建物や、焼けこげた骨組みだけの木造の家。

倒れた人たちが生きてるか死んでるかはわかんない。

でも、見渡す限り動くものは、ない。

イチハはずっと淡々としてた。

何を見ても動じるってことがなくて、どこまでも他人事。

まあ、イチハは人間ですらないし、他人事には違いない。そりゃそうでしょうけど。

でもね、私は思わず目を逸らしたくなったよ。だって見ちゃったらそれだけで現実って認める気がして。

戦争とか災害って、教科書には出てくるし、テレビやネットにも動画が上がってるけど、どこか他人事みたいなところがあった。

わざわざそんな動画とか、選んで見ないしね。

身体もない今の状態だけど、いま見たのは確かに私なんだ。

見るってそういうことかって思った。

上手く言えないけど、誰かが切り取ってきた現実じゃなく、まんまの出来事を見たってことだよね。

なんでそうなったかなんて説明は書いてないし、見ず知らずの人なのは確かだけど。

やっぱり平静でなんていられない。だからなんだろ、こうね、見たものを消化するっていうかさ、納得するっていうかそういう時間があってもいいじゃない?

飲み込めないものを無理矢理飲もうとしたら、気持ち悪て吐きそうになる。

体なんてないけど。

「落ちつけって、ナル。おれたちに出来るのは見ることと聞くことだけだ。相手からは見えてないし、聞こえてない。いわば幽霊みたいなモンだ。お互い干渉することは出来ないって教えただろう?」

聞いたよ。だけどあんなのって。


「戦争、だろうな。地面に爆弾で抉られたみたいな穴があった。驚くことじゃないだろう。いまこの世界でも戦争や紛争で破壊されている場所は多い。この国だって80年前は何十万人か死んだ。」


80年前じゃ、おじいちゃんだってまだ生まれてない。腹立ち紛れにそう答えはしたものの、気分は良くなかった。

わかってる。

見たくなかったんだ。私、卑怯だよね。

知らないフリして見ないフリして、だけど誰かにとっての辛すぎる現実は、いつだってそこにある。

時にはそれが、自分の現実になることもあるだろう。


「考え込んでも仕方ないんだが。ちょっと気分転換だ。ついてこい。」

イチハはそんなことを言って、背中、というか、葉っぱの裏側を向けた。

ゆっくりふんわり浮き上がり、私たちは大鳥居の上に出る。

イチハはここは元の世界だって言った。

ただし、時間は少し入り組んでるって。

だから、どこに焦点を合わせるかにより昼だったり夜だったりする。

あと、必要以上に目を凝らしてはいけないと教わった。

なぜかというと、無理に見ようとしたら、見えてはいけないものが見えるから。

ほら、夕方薄暗くなった頃に独りきりで居たりしたら、何となく誰かに見られてるみたいな、変な感じがすることない? 

部屋の隅や、庭の木の影、ベッドや家具の下に何かが凝ってわだかまったみたいな、形のはっきりしないそんな闇の一切れが、妙にイヤな感じだったりしないですか?

イチハが言うには、あの視線や影はなにかいけないモノがこの世に投影した、二次元画像のようなものなんだって。

だからじっと見てしまうと、気付かない内にそいつらがこちらを見返してくる。

後ろの視線が、ただの視線じゃなくなり、あちこちにわだかまる影が形を蠢かせながら少しずつ滲み出るように濃さを増す。

黒い何かが溢れ出てくる。

段々と溢れる勢いは強くなって、あちこちから溢れた影がつながり、濃く厚くまるで実体のある泥みたいにあたりを飲み込見ながら広がった。

そこで、イチハに、見るのをやめろって言われたんだけど、そのまま見続けたらどうなるか聞いたら。

「お前も飲み込まれるだろうな。神隠しバージョン2だ。」

神隠しのバージョンは、少なくともあと5種類はあるらしい。


そんな気味の悪い体験もしたけど、ぐんぐん登って鳥居を越える感覚は新鮮だ。

鳥居から更に登ると、街の明かりがキラキラしているのが良く見える。

信号機や、車のライト。

神社の周りは2階建くらいの家が多い。

少し離れた電車の駅の方にはポツポツと背の高い建物が見える。

あっち側はマンションとか、会社の建物とかそういったものが多い。

駅の向こうには、おじいちゃんが入院してる病院がある。

「どっちへ行きたい?」

駅の方。駅前のビルの2階に塾があるんだけど。

「お前も通ってるのか?勉強あまり好きじゃないって言ってたよな?」

私は、3年になったら行くつもり。来年だけど。部活の先輩とかも通ってるんだ。

「わかった。行くぞ。」


それは、びっくりするくらいのスピードだった。

駅までは、自転車を飛ばして10分くらいかかるんだけど、今の私なら30秒ってとこかな。


わー!駅前のコンビニだあ!

「何だ、お前コンビニに感動するのか?」

違う。すっごく早かったじゃない。こんなの初めてだよ。

見慣れた店の、ガラスの向こうにお客さんの姿が見える。その中に見慣れた顔を見つけて、思わずドキッとした。

「知り合いか?」

し、知り合いってほどでも…。

「どれ?」

ど、どれって、誰かと言うと、あの制服着た背の高い人です。

「あー。あれね。お前ああいうのが好みなんだな。面食いってやつか。」

変に納得したようなイチハの言葉に、正直言ってイラッとした。

何よ?面食いで人生に不都合ありますか?

佐久間先輩は、顔だけの人なんかじゃないし?すっごく良い人なんだから!生徒会長だったし、バスケ部のキャプテンだったし誰にでも優しくて、カッコよくて、先生たちからも信頼されてて。

「まあ、ありがちな奴な。」

と、イチハは切って捨てた。

ありがち!?お、恐れ多くも佐久間先輩だよ?第二中学の星、女子の憧れの的で。

葉っぱのイチハにはわかんないよ!

「落ち着けって。じゃあ行ってみるか。」

え?ちょっ…

突然動き始めたイチハを追いかけて、気がついたら、私はコンビニの中にいた。

1秒もかかってない。ガラスは?

「関係ない。俺たちの存在は、少しばかりズレた位相にあるからな。その気になれば、コンクリートだろうが地面だろうが障壁にはならない。教えたはずだがな?」

き、聞いた気はするけど。

うわっ!佐久間先輩、こんな近くに!

感激だよー。至近距離だ!

うっわ!マツゲ長い!鼻筋が綺麗!

二重くっきり!

さすが我が校イチのイケメンだあ!

「学校1なあ。おまえ、全国に9000以上の中学校があるって知ってるか?」

は?知るわけないじゃんそんなの。

「つまり、佐久間とやらは、1/9000のイケメンってことだよな。」

なんか憐れむみたいな口調。

めっちゃ腹立つ。

だから何なの?先輩はカッコいいし。

「カッコいい、ねえ。普通の少年だと思うが…ん?」

どうしたの、イチハ?

「少し聞く練習をしてみようか。」


そう言ったイチハの声は、何だか考えこんでるみたいだった。

次回月曜日です。

引き続き宜しくお願いします♪

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