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鳥居の杜の  作者: WR-140
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ひとごろしの事情?

結果。

朽ち果てた依代を捨てて、イチハヌシは清吉の身体を新たな依代とした。

相手が子供で、しかも死にかけていたという特殊な事情がなければ、イチハヌシが生身の人に宿るなど不可能であったろう。

憑依には成功したものの、その代償としてイチハヌシは、清吉の体の奥深くで眠りにつくこととなったのだ。

イチハヌシはなんとか存在を繋ぐことに成功したが、清吉にとってはさらに大きな影響をもたらした。

死を回避したのみならず、イチハヌシという神性を帯びた存在を受け入れたことで、久世那の血が活性化されたのだ。

やがて彼は久世那家で頭角を表し、成長の後は久世那清志郎の名で当主となった。


イチハヌシは眠り続けた。

依代である久世那清志郎は、生涯イチハヌシの存在に気付くことなく、天寿を全うしたのだが、優れた能力者でありながら長寿を得たことはイチハヌシの力であったろう。

一度でも神性を帯びた存在を宿したことで、短命の原因である、呪詛能力の反作用に免疫となったのではないだろうか。

人を呪うとは、呪詛の本質である。

しかし呪いは、呪詛を行う側にも悪影響を与えることが知られている。

昔から、人を呪わば穴二つというではないか。

クロハヌシは後にイチハヌシと話し合い、そう結論付けていた。

やがて。

イチハヌシは清志郎の子、さらには孫の中に眠り続けた。

どのような基準で依代が交代するのかは、イチハヌシ本人にもクロハヌシにもわからなかった。

ただ複数の子や孫に受け継がれるわけではなくて、依代は一世代につき1人だけである。長子と決まったわけでもない。

今となっては確かめようもないが、何かしら特殊な条件があったのかもしれなかった。

さらに時は流れ、そして。

久世那基彦と名付けられた赤子は、初めからイチハヌシの記憶を持っていたのだ。

ただ、彼には呪詛や封印の能力は発現しなかった。

久世那の姓を名乗ってはいたが分家筋で、生物学的な父親は、イチハヌシを宿しながら平凡な能力者に過ぎなかった。

が、一つ問題があった。

本家筋にも他の分家にも、平々凡々の能力者か無能力者しか現れない時代である。

かつての久世那家であれば見向きもされない程度の能力でも、この時代にあっては本家の当主になるに相応しい力とみなされた。

しかし、本家に生まれた者にしてみれば、そのような理不尽など認められようはずもない。

久世那本家は、政界でそれなりの地盤を固めていた。如何に先祖伝来のしきたりとはいえ、遠い血縁の者を当主に据えることなどあり得ない。

だが、本家に近い血縁の者の中には、仕来りを遵守しなければ、いずれ政界での力を失うと信じる者たちがいた。

中には、弱いとはいえ、本家を凌ぐ能力者も複数存在している。

本家にとって、無視し難い勢力である。

ならば、邪魔者を排除すれば良い。

複数の能力者を敵に回すよりは、平凡なサラリーマン家庭一つを消す方が遥かに簡単だろう。

当初は一家3人を〝事故死〟させる計画だったのだが、息子1人だけが生き残った。

しかしこの子は能力者でないから、脅威ではないとされた。


「クロハヌシさん、こんなのってあり?」

ひど過ぎる。思わずクロハヌシに聞いていた。

「権力者というのは、いつの時代もそんなものだな。可能ならば手段を選ばない。それは歴史が証明している。」

淡々とした答え。

それって、多分ホントなんだろうね。

だけど、大人って何でそれを当たり前みたいにいうんだろう?

クロハヌシがとっても長く生きてることは知ってるけど。

私には想像もできないほど、たくさんの死を見てきたはずだけど。

「でも、腹が立ってしょうがないよ。お父さん、このことをどう思ってたと思う?」

「どう、と言われてもな。ここにはイチハヌシの感じたことは書かれていないが?」

そんなの、わかってる。

だからじれったいんだ。

メモも手記も淡々としてて、出来るだけ感情を排除した感じで書かれてるよね。

でも、殺されたのは、お父さんの両親。

つまり私のおじいちゃんとおばあちゃんなんだよね。

鷹塔のおじいちゃんは、自分で転んで入院したんだけど、もしかして誰かにケガさせられたって想像しただけですっごくヤな気分になるよ?

まして殺されただなんてさ。

「犯人、あの久世那宗一郎って人なの?」

「久世那宗一郎というと、与党の現幹事長のことか?」

う…、ブログやってるだけあって、そういうの詳しそうだ、この人。

よとーとか、かんじちょー言われてもな。

「多分、その人だと思います。」

「犯人は恐らく久世那宗一郎の父親あたりだろう。」

「何で?」

「年齢だ。鷹塔基彦の両親が死んだのは、今から35年前と推定出来るが、その頃久世那宗一郎はまだ20歳そこそこだ。事故に見せかけて殺人を犯すなら、実績のあるプロを使うだろうが、依頼すること自体に危険が伴う。実行犯に弱みを握らせることになりかねないからだ。その時代の宗一郎では、実行犯につながるツテを辿るにも力不足だっただろう。」

「そうなんだ…。じゃ、犯人は?」

「さあな。警察の捜査にも引っ掛からなかったほど優秀か、或いは捜査に圧力がかかったか。いずれにしても、実行犯は単なる道具に過ぎないし、宗一郎の父親はすでに鬼籍に入っていよう。」

「キセキ?」

「死んでいるということだ。」

何でわざわざそんなわかりにくい言い方するんだろ。

これだから年寄りは。

「何か言ったか?」

「いーえ。…そっか。もう死んじゃってるんだ。」

なら、どうしようもない。

生きてだって、私にはなんにも出来ないんだけど。

「経緯は、久世那宗一郎も知っていたかもしれないが、直接関与してはいなかっただろうな。」

「何か、悔しいな。」

「そうか。…すまない。」

「何であなたが謝るの?」

「私はきみの父親を…」

「それはそうだけど、だいたいわかりました。あなたがお父さんを殺さなければ、私は何もわからないままお父さんを失っていたってこと、それも、永遠に。」

「鷹塔ナル…」

「フルネーム呼び、いい加減やめてもらえませんか?そしたら椿さんて呼びますから。」

「つ、椿さん?」

クロハヌシは、目をぱちくりしてる。

かなりビックリしたみたい。

「だって、クロハヌシって、つまり椿に宿る精霊、みたいな意味でしょ?お父さんの、イチハヌシってのと同じく。」

「ああ、まあそうなるかな。」

「じゃ、個人の名前としては、ブログの千年椿の方が近いんじゃない?でも、千年椿さん、って呼びにくいし。」

「そういうものか…?」

「そういうもんです。じゃ、椿さん、私のことはナルでいいですから。」

「あ、ああ、承知した、ナル。」

うん、まあこれでいいかな。

毎回フルネームはヤダからさ。

さて、つまりはお父さん方のおじいちゃんとおばあちゃんは、30代で殺された。そういうことね。

お父さんも、そのくらいの年で、まあ、殺された訳だけど、こっちはすこし事情が違ってる。

最初からイチハヌシの記憶があったってことは、鷹塔基彦は初めからイチハヌシの人格を持ってたわけで。

それは多分、かなり不自然な状態なんだろう。

クロハヌシ、じゃなくて、椿さんの感覚だと、仮の依代を破壊したってことになる。

殺人とかじゃなくてね。

椿さんがそうしなかったら、私はイチハと会えてない。

ある日突然死したお父さん、それだけ。

5歳の私には、それ以上の記憶が残らなかっだはずだ。

だけど、今は違う。

イチハのこと、絶対忘れないから。

鷹塔基彦の命は少しだけ短くなったけど、私はそのお陰で、本当のお父さんに会えたんだから。

でもね、お母さんにとってはそうじゃないんだろうな。その点は少し複雑かもね。

お母さんは、事故だったって思ってるから、きっとそのままの方がいいんだ。

これを見たら…うーん。

どうしたらいいかは、全部見てから考える。これは私への遺言なんだから。

お父さんの両親が殺されたってこと、お母さんは知ってたのかな?

それもすっごく勝手な理由だったわけで。

こっちは私も全然納得できないよ。

ひとごろしって一口に言っても色々あるよね。





お付き合い頂きありがとうございます!

今少しよろしくお願いします。

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