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鳥居の杜の  作者: WR-140
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高御座の謎

「マシロサマ、この車って…」

「気に入った?」

「いえ、そういうことじゃなくて。なんか周りの視線が痛いんですけど?」

「そうお?」

マシロサマは、何にも気にならないんだろうか?

病院の駐車場や、途中の交差点で、こっちをガン見してきた視線。

気のせいじゃなくて、間違いなくアレは車を見てた。私は車のことはよくわからない。確かにあんまり見かけない感じの車だけど。

「これは、ご主人様のものなのよ。誰かから貰ったけど、派手すぎていらないって言うから、使わせてもらってるの。税金と燃料費は私持ちでね。」

「高そうな…車ですよね?」

「よくわからないけど、地方の建売住宅1軒分とか言ってたわね。」

よくわかんない例えだけど。

車が家並みの値段なら、やっぱりかなり高いんだ。

事故とか起こしたら大変そう。

途中、みかげやに寄り道したんだけど、マシロサマが買い物してるわずかな間にも、どっかから人が湧いてきてた。

普段そんなに人通りがある道じゃないのにね。

遠くから見てる人もいれば、無遠慮に近づいてくる人もいる。

私は助手席でずーっと顔を伏せてたんだけど、なんかいたたまれなかった。

で、マシロサマが店から出できたら、どよめきみたいのが起こったの。

サングラスを掛けたモデルみたいな赤毛の美女と、真っ赤なスポーツカーは、まあ似合ってるとは思う。イメージ通りってカンジ。

それだけに私の場違い感、ハンパないんだけど。

マシロサマは、ギャラリーを完全無視。

わっ、マシロサマの進路から人がさっと左右に分かれたよ。その中を何事もないみたいに堂々と通る姿って、なんか既視感。

モーゼだっけ?

当のマシロサマ、騒がれるのに慣れているって感じもあるけど、本当にまわりに興味がないみたい。

運転席に座ると、何ごともなかったみたいに車をスタートさせた。

あ、また私の悪いクセが出そう。

「マシロサマ、その…外見って?」

「外見?」

「その、人間の姿って、ほんものなんですか?」

わ、言っちゃった!

言ってから気がついたんだけどさ。

これ、聞いちゃヤバい質問かもって。

結果。マシロサマは全然気にしなかった。

「定義によるわね。私は人間ではないし、この惑星の生まれでもない。だけど、この宇宙の存在ではあるの。こうして人の姿をとる以上、細胞レベルで自分を再構築しているわけだから、この惑星での生命の設計図に準拠してはいる。その意味では本物。まあ、本来肉体を持たない私だから、偽物といえばそうでしょうね。」

うん、ごめんなさい。聞いた私がバカでした。やっぱりよく分からない。

マシロサマ、怒ってはいないみたいで、そこはよかったけど。

あー、でも、肉体を持たないってことは、お化けとか、幽霊みたいなモノなんだろうね、たぶん。モノノケの一種とか?

肉体を得て、ファッションを楽しんだり、運転したり、買い物したり、スマホ使ったりするモノノケ?

なんか、楽しそうに見えるのは、気のせいじゃないよね。


身体をなくした時の私は、全てがとても軽かった。思うままどこにでも飛んで行けて、自由で。

だけどできないことも多かった。

何にも触れなくて、お腹は空かないけど、なにも食べられない。

見ることと聞くことはできたけど、普通の人と話すことはできないし、誰にも見えない。

それって、周りにとってはいてもいなくても変わらないよね。

なんか、すっごくイチハに会いたいよ。

おじいちゃんの病室で、マシロサマに聞いた限りじゃ、イチハはいま休んでる状態なんだって。

「人間なら、昏睡状態って言うのかしら。本来なら彼、もうとっくに消滅していたはずなんだけど、彼自身がそれに逆らっていたのよ。随分無理してたみたい。だから今は、会うことは出来ないわね。」

マシロサマはそう言ってたけどさ。仮にイチハが目を覚ましたって、今の私じゃ話すことも出来ないよね?

その時は、死んだかもって思ってたイチハが無事って聞いたから、どっと安心したって言うか、生きてたらそれだけでいいや、って思ったんだけど。


「ナルさん?降りないの?」

ハッとした。車はとっくに停まってた。

場所は、家の裏の駐車場。

ここに案内したのは私だったんだけどね。

イチハのこと考えて、ボーっとしちゃってたみたい。

「マシロサマ。私、またイチハに会えますか?」

マシロサマは、サングラスを外して私を見た。

「大丈夫よ。彼の言う〝転移〟は、多分もう起きないけど、彼に会う方法はそれだけじゃないわ。彼が目を覚ましたら、きっと見つかるわよ。」

「あ…。あの、何で〝転移〟がもう起きないんですか?」

「あなたの中にある力のせいで、〝転移〟が起きたらしいことはわかってるのよ。イチハヌシも、多分無意識にこれに関係していた。まだわからない部分をはっきりさせるために、私はここに来たの。だから謎解きはもう少し待てるかしら?」

聞きたいことは、いっぱいあった。

だけど、今聞いても仕方ないこともわかってたから、私はただ頷いた。


家の横を通って境内に出る。

あの落ちてきた枝は、通行の邪魔にならないように参道の脇によけられたまま、まだ片付けられてはいない。

マシロサマはチラッと枝を見て、灯籠の残骸にも目をやった。

「危ないわね、確かに。それで、壊れかけた稲荷の鳥居はどこ?」

「こっちです。」

イチハと初めて会ったあの場所だ。

稲荷の鳥居は、少し前に落ちてきた枝に当たって、てっぺんの横木の端っこが欠けていた。

マシロサマは鳥居を見て、頷いた。

鳥居をくぐるマシロサマについて私も稲荷の社の前に出る。

本殿に比べると、ごく小さな造りだ。

「出て来なさい。怖がらないで。」

不意にマシロサマがそう言った。

何のこと?

周りを見回し、私はそれに気づいた。

けど…、何、これ?

社の傍に半ば隠れるようにして、それはいた。

一見すると、ふわふわの丸い毛玉?

直径は15センチくらいかな?

淡い黄色だけど、社と背後の生垣が作る暗がりで、それはぼんやり光って見えた。

…うん、間違いなく光ってる。

二度見して、私はそう確信した。

淡い、優しい光だ。よく見たら、震えてるみたいだけど?

「そう。いい子ね。あの歌、あなたなんでしょ?」

光る毛玉は何も言わない。というより、音は全然出さないんだ。

口らしいものもないから、当たり前というとそうなんだけどさ。

でも、マシロサマには、それの返事が聞こえてるみたいなのね。

「そう。やっぱりね。」

だって。

てことはよ、私が聞いたあの歌を歌ってたのは、この毛玉?

今は何の音も聞こえないけれど、転移した私にはあんなにハッキリ聞こえてた。

マシロサマは、時々頷きながら、毛玉の言うことを聞いてるみたい。

「それじゃあ、あなたが高御座に据えたいのは、誰?」

ハッとした。その言葉、確か天皇の…?

毛玉はなんか言ってるんだろう。相変わらず何も聞こえやしないんだけどね。

「わかったわ。」

暫くしてマシロサマはそう言って、私を振り向いた。

この表情って何?

何だか…悲しそう?

「これでつながったわ。ナルさん、全部を知りたい?仮にそれがあなた方こ家族にとって、辛い事実でも?」

私は多分、失礼なくらいマシロサマを見つめてたと思う。

だって、言葉が出なかったんだ。

急に言われたせいもあったけど、奇妙な予感みたいなものも確かにあった。

ああ、やっぱりね、みたいな。

具体的なことはわかってなかったけども、自分が単なる傍観者じゃいられないことに、薄々気付いていたんだ。

お父さんの死。

黒い手。

イチハ。


マシロサマは、何か言おうとしてた。

でも、私はその言葉を聞くことはできなかった。

突然の轟音が、マシロサマの言葉を掻き消したから。

まさに青天の霹靂。

突如吹き抜けた冷たい風と共に稲妻が疾る。凄まじい音と眩しすぎる光が辺りを白く塗りつぶす。

視力が役に立たなくなる直前、私は雷がマシロサマを直撃したのを見た。

そして、息を呑む暇さえない次の瞬間に白い光は消えて、世界の明暗が逆転した。


読んで下さった皆様に感謝を。

お話はいましばらくつづきます。

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