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鳥居の杜の  作者: WR-140
16/37

わらべうたって怖くない?

気がついたら、お昼ご飯を食べるのをすっかり忘れていた。

外はまだ明るいだろうけど、鳥居の杜の中は薄暗い。パソコンのディスプレイだけが明るく部屋を照らしてる。

もう1時間もしたらお母さんが帰ってくるだろう。

こんなに夢中で何かを検索したのは初めてだった。明日もテストがあるけど、どうせ勉強なんか手につかないだろうってわかってる。

だから、知りたいことは何もわからないまま、検索を続けてた。

その結果、あまり役に立ちそうもない情報がいくつか見つかりはしたんだけどね。

例えば、久世那家は昔、陰陽寮って役所に勤めていたらしい。

正確に言うと、そういう名前の一族が代々陰陽寮にいたってことがわかったわけ。

だけど、それが久世那宗一郎の先祖だったかどうかはわからない。

久世那のご先祖なら、お父さんにとってもそうなるんだろうけど。

あ、私にとってもご先祖サマなのか。

ふーん。

陰陽寮はお呪いだか祭祀を執り行い、都を守る役目を持つ専門職の役所だって。

昔は不思議なものがあったんだね。

久世那のヘンな家が、昔は風水だか呪術だかで意味のある構造だったって、イチハが言ってたから、やっぱりその役所と何らかの関係はあったのかもね。

不思議といえば、京都は不思議だった。

変なものがいっぱいいた。

ただわけがわかんないものもいれば、不気味なものや、危険な感じがするのもね。

世界中、古い町にはあんなのが沢山いるのかもしれない。

そして、あのマシロサマだ。

アレは何なんだろう?

イチハはテレビ局にいた、人の首みたいな奴が進化すると、自我を持ったり移動できるようになるって言ってたけど、マシロサマもその一種?

ううん、何か違う気がする。

どっちかっていえば、クロハヌシに近い?

うーん。やっぱちがうかなあ。


陰陽寮は小さな役所だったみたいで、職員の人数はあまり多くない。聞いたことのある役職は、陰陽師ってのだけだね。

陰陽寮に勤めてた陰陽師ってさ、物語的には超能力があって、式神を使役したりするんだよね。

役所の実働部隊?式神が武器なのかな?

でも、マシロサマは何だか式神とも違う気がする。もっと生き物っぽかった。

式神って、アニメや小説では白い紙を切って作ったりするじゃない?

そのせいで、なんか存在感が薄いっていうか、無機質って感じ。

どっちにしても、絶対人間じゃないけどさ。

それに、怖い。

クロハヌシは、ちょっとだけ怖い感じだった。

ウツロは、かなり怖い。

あれから、杜の梢で音がしただけで背中がザワッとするくらい。

で、マシロサマ。

アレは本当に怖い。

マシロサマの〝サマ〟って、〝様〟なんだろう、多分ね。

イチハに襲いかかったんだから、敵、ではあるんだろう。

だけども怖すぎて、〝サマ〟抜きで呼びたくないよ。

あの白い顔。日本人形みたいな。

お雛様にも似てるけど、マシロサマは花梨の家にある人形によく似た感じだよね。

えーと、博多人形って言ってたかな?

花梨のお母さんのコレクションだ。

着物を着た女性の姿で、お雛様とかよりはリアルで人間ぽい感じ。

子供とかもあるらしいけど、花梨のお母さんが集めてるのは若い女の人の姿ばかりで、踊りの衣装みたいなのを着てたり、花嫁衣装とかでもそんなに派手ハデなんじゃなくて、うーんと、粋っていう感じ?

綺麗なんだけど、等身大だとあんなに迫力があって、怖くなるんだね。

それでなくても、人形ってなんか怖いし。


あれ?チャイムが鳴った。誰か来た?

「はーい」って答えて、玄関に走る。

家の玄関は昔のままの引き戸で、上半分が曇りガラスみたいになってて、周りと下は木だ。そのガラス越しに見えたのは、花梨だった。ぼんやりしか見えないから、知らない人なら誰かわかんないだろうけど、花梨は、はっきりわかる。

でも、なんだろ?

何か…違和感がある。

ちょっと首を傾げて引き戸を開けた。

花梨はまだ制服のままで、私はそれが違和感の正体だと思った。

だって花梨、制服が嫌いなんだ。

中学の制服は、はっきり言ってダサい。

今どき紺一色で、重たい生地のプリーツスカートって、ウチくらいじゃない?

冬はブレザー、白いカッターシャツの襟元には燕脂のリボン。

これって、おじいちゃんの時代から変わってないらしいんだよね。

カワイイ好きの花梨が、この制服が大嫌いなのも当然かも。

私みたいに背ばっかり高くて、何を着ても変わんない寸胴で無愛想なタイプと違くてさ、花梨は小柄で色白で、小動物みたいに可愛らしいから。

やっぱ可愛い子には可愛い服が似合うもんね。

「どしたの、花梨?入んなよ。」

いつもなら、玄関を開けた途端に飛び込んでくる花梨だけど、今は突っ立ったまま、動こうとしない。

声を掛けても、聞こえてるんだか聞こえてないんだか、反応がないんだ。

これは、ヘン。らしくない。

「花梨?」

もう一度声を掛けると、花梨はなぜだかくるりと背中を向けた。

「ナル、ついてきて。」

低い声でそれだけ言って、花梨は歩き出す。

「え?え、ちょっと?」

慌てて靴を履いた。鍵を掛けなきゃと思ったけど、もうすぐお母さんが帰ってくる。

おじいちゃんが入院してからは、学校に行く時必ず鍵を持って出るから、今は私の部屋に置いてあって、わざわざ取りに行きたくはなかった。

それでそのまま、花梨を追って外に出た。

ざあっと、風が梢を鳴らして吹きすぎる。

杜の中は薄暗い。

あちこちにわだかまる影は濃く、参道は闇に沈みかけて、石畳が黒い帯みたいに伸びていた。

こんなに暗かっただろうか?

今日は晴れだったはずで、時刻はまだ5時にもなっていない。

それなのに鳥居の杜は暗く、足元に気をつけないと転びそうな気配。

まあ、慣れてるから問題はないんだけど。

でも。

これだけ暗くなれば、自動的に参道脇に街灯みたいなのがつくはずなんだけど、見渡しても明かりは一つも見えなかった。

故障でもしたのかな?

そんなことを思いながら、花梨の後を追った。

あの子、こんなに足早かったっけ?

それに、どこに向かってるんだろ?

神社の外に向かうと思ったのに、花梨はどんどん奥の方、本殿のある方向へと向かって行った。

稲荷の鳥居を過ぎてから、参道を少し逸れる。

この方向って、椿の…クロハヌシの依代が植えられてる方だよね。

あ、椿だ。クロハヌシの椿。

花梨はその脇を抜けて進もうとしてる。

最初にイチハと会ったとき、イチハがそっちへは行くなって言った方へ。

あの歌。


鳥居の杜の 黒葉の先は

魔寄ろの辻の たかみくら


クロハヌシは、魔が集う交差点から神域を守る役目だって聞いた。

私は、椿の横で立ち止まる。

この先は危険、イチハはそう言ってた。

私が身体のない状態では危険だって意味だったとは思う。この道は、普通に何度も行き来したことのある道で、今までは何も問題はなかった。

だけど、今は行きたくない。

突然、別の童歌が頭の中に響いた。


通りゃんせ 通りゃんせ

ここはどこの 細道じゃ

天神さまの 細道じゃ


何だろうこの感じは?

わらべうたって、普通は物悲しいんだけど今は何か…怖い。

少し先で、花梨が突然立ち止まった。

「ナル。ついてきて。」

振り向きもしないで花梨が言う。

抑揚のない、低い声。

その時私は、気がついたというか、確信した。だから、次の言葉に迷いはなかった。


「あなたは、花梨じゃない。誰なの?」


花梨、というか、花梨の姿をした何かはゆっくりと振り向いた。

闇がより黒く重なっていく…。


次回もお楽しみに!

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