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鳥居の杜の  作者: WR-140
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寝不足でも朝は来ます

翌日は、私の気分とは裏腹な快晴だった。

昨日の出来事がまるで夢だったと思いたいくらいだけど、そうじゃない。

あの後、また枝が落ちた。

それも、1本じゃなかった。だけど、枝が落ちるような物音は、実際に落ちた枝の数より多かった。

それと。

風の音とは違う、何かの音がした。

ザワザワと樹上の枝葉を揺らす不気味な音だった。

何か大きなものが、樹冠を這い回ってでもいるような。

あいつ。虚空の獣、ウツロ。

それから、一瞬ではあったけど、窓越しにピカっと光が閃き、やがて這い回る音が止んだ。

雷鳴のない稲光?

たまたま窓の正面から射し込んだ車のヘッドライト?

まあそんなふうに、適当に理由をつけたらすぐ忘れてしまうんだろうね、みんな。

でも、あの光はクロハヌシがウツロの目を破壊した時のものだ。

ウツロはどこかへ飛んで行ったけど、死んだわけじゃないし、大して弱ってさえいない。

クロハヌシとイチハの会話からして、追い払うのが精一杯ってことらしい。

そして、もしアイツが杜の結界を破って入り込んだら…

「神社が消える。」

そう呟いてみる。

イチハの声にはあまり感情が入ってなかったんだけど、それでも神社が消えたら、それ以上に良くないことが起きるんだろうって、不吉な予感がした。

それと、クロハヌシ。

あの人、まあ人じゃないんだろうけど、姿かたちは人間みたいだし、言葉だって普通に通じた。

だから、ワタシ的には〝人〟なんだけどさ。

『例の娘か』って、どういう意味?

私のこと、何か知ってるのかな?

イチハは、詮索無用ってあの人に言ったよね。何だか、ちょっと強い口調で。

そんなことをあれこれ考えてて、いつの間にか寝ちゃってたみたい。

夢を見たと思ったけど、内容は全然覚えていなかった。

ただ、何だかすごく疲れた気分だけが残ってたから、あんまりいい夢じゃなかったみたいだね。

お母さんに起こされた時、全然寝た気がしなかったの、そのせいかな。

それでも朝で、いい天気で。

テスト週間だから、朝練はなくて、そこは助かったよ。

だ・け・ど。

どうすんだ、テスト!?

しっかりしろ、私!

ったってさあ、後の祭り、だよね。

仕方ないじゃない、あんなことがあって、勉強なんかできるはずないもんね。

あー、まあ、終わったことは仕方ない。

慌しく起きて着替えて、トーストと卵とサラダを食べて、とにかく学校に行かなきゃだよ。

「行って来ます!」

「行ってらっしゃい、ナル。ご飯は適当に食べてね。」

「はーい。」

お母さんは、駅の向こうの歯医者さんで受付をしてる。

私はお昼は給食だけど、テストのある時は自分で作ることになってる。

面倒だとシリアルとかで済ますことも多かったりするけどね。

家から出てみたら、昨夜落ちてきて参道を横切ってた枝が脇に寄せられてて、壊れた石灯籠も参道脇に片付けられていた。

昨夜おじさんたちが頑張ったみたいね。

青い葉っぱがたくさん落ちてたらしく、掃き集めた葉がこんもりと山になってた。

葉っぱと言えば、イチハはあれからどうなったのかな?

普通の状態の私は、イチハを見ることができないような気がする。

だからさ、ひょっとしたら今も側にいるのかも知れない。

それはないかな?

イチハだって、忙しいかも。

何かちょっと…寂しい、のかな、私。

変なの。

そんなことを考えながら通学路を歩く。

中学は徒歩圏内だ。駅よりも近い。

腹が立つくらい晴れた空を見上げたら、思わずため息が出た。

「おはよっ!ナル!」

たたたっと軽い足音がして、横に並んだのが誰か、確かめるまでもなかった。

来島花梨。幼稚園からの友達で、今は同じクラス。小柄で可愛らしい感じの子。

幼馴染ってのかな。

「あー、うん。」

花梨をチラッと見て、またため息をつきたくなったのには、いくつかワケがある。

どれ一つとっても、花梨が悪いわけじゃない。

でも。

「えー?どしたのさ、ナル?ひょっとして勉強、範囲かなんかミスったとか?」

「あー、まあ。」

そう言えば前回そんなことをやらかしたような気はする。

今回は範囲ミスどころか、全く出来てないんだけどさ。

まあ落ち込んだって仕方ない。成績に命賭けてるわけじゃないし。

「それより、ねえ聞いた?佐久間先輩のこと。」

どキリとした。

ま、まさか、あの動画共有の件?

花梨たら、ちょっと深刻な感じで、ヒソヒソ声で続けた。

「ウワサだけど、彼女がいるんだって。それがさ、歳上で、すっごい美人なんだってさ。ちょっと鳥羽りお似の。」

何か、とっさにリアクションし損ねた。

だって、あんまり聞きたくない固有名詞が二つ、リンクしたんだもん。

花梨は、まあまあ性格は悪くないんだけど、なんていうか妙に間が悪いところがあるんだ。

盗撮動画の佐久間先輩と、枕営業の鳥羽りおって、どうしたらこうも見事なツーショットが来るのかな。

花梨は、いつもそう。

本人には全然、全く悪気はないんだけど。

「ねえ、やっぱちょっとショックだよね、ナル。」

と、花梨は私の顔を覗き込んだ。

ショック、っていうのとはちょっと違うんだけど、説明のしようがないね。

昨夜は私もかなりショックだったけどさ。

今はうんざりってか、もうお腹いっぱいで吐きそうっていうか。

私の表情をどう解釈したか知らないけど、花梨は俯いてため息をついた。

「うん。そうだよね、ナル。わかる。歳上がタイプだってことは、私達じゃ圏外だしさ。それに、りおちゃんみたいなキレイめのアイドル顔が好きなんじゃ、私たちもっとアウェイだしね。」

いや、アウェイなのはあんたのアタマの中身だよ、花梨。

どっから突っ込んだらいいか、ぜんぜんわかんない。

それで思わずため息を吐いたら、逆に突っ込まれた。

「ナル!そんなに好きだったんだ、佐久間先輩のこと。」

ってさ。

ちょっと!やめなよ花梨。

え!おかしいな?あんた涙ぐんでない?

「どうしたの、花梨?あんたまさか、そんなに佐久間先輩のことが?」

花梨は黙って頷いた。

「ウソ…マジ?」

他に言葉が出てこない。

あのヘンタイ男のために泣けるなんて、あんた奇特な人だね、花梨。

呆れ返ったけど、まあ、昨夜のあの件がなきゃ私だって似たような感じだったのかな、と思い直す。

知らぬが花だって?

いやいや、佐久間先輩はさ、もう既に私にとっての黒歴史だよ。

「人生って、無常だね。」

思わず呟いたら花梨に抱きつかれた。

「わかる〜、そうだよね、ナル〜。」

「ちょっと!通学路だよ、ここ。」

勘弁してくれ。

寝不足の上、あれやこれやで大変なんだから、こっちは!

花梨のポケットからハンカチを引っ張り出して、泣き顔に押しつける。

「ホラ!さっさと拭きなよ。遅刻したくないでしょ、花梨。」

「だってぇ…。」

ほんと、いつものこととはいえ何なんだろうね、この子。

花梨に構ってられるだけのキャパが、今の私にあるはずもない。

そういうとこも含め、花梨の間の悪さって、ある意味天才的。

すぐに泣いてすぐ笑う、変わり身の速さってのも才能かも。

いつまでも相手してらんなくて、私は1人さっさと横断歩道を渡った。

薄情者って?

ううん、花梨なら大丈夫。

あれで無遅刻無欠席、見かけはボーッとしてるけど、ちゃっかりしてて、要領がいいんだ。成績もね。

明日になる前に、佐久間先輩のことなんか忘れてケロっとしてるに違いない。

それより、疲れた。

なんか、私の災難って、まだまだ終わらない不吉な予感がする。


自分でこういうフラグ立てちゃうとこが、私の悪いとこなんだ。


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