エピローグ
「計画は失敗したわね……」
「我ら、日本の行事がハロウィンやクリスマスといった、外国の行事に人気を奪われるのは面白くないわ。神無月西瓜とクリスティーナ師走を果たし状で争わせて、共倒れを狙ったのだけど」
とある教室には、厨二病っぽい三人の女子生徒がいて。その中の二人(コードネームは、『節分』と『ひな祭り』だ)が悔しがって話している。もう一人いれば、四天王とでも名乗りそうな雰囲気があった。
「どうします、リーダー?」
「どうか、ご指示を。リーダーに私たちは従います」
『節分』と『ひな祭り』の二人が、もう一人へと視線を向ける。リーダーと呼ばれた少女は、机に突っ伏していた。
「んー、眠いから寝るー。とりあえず何もしなくていいよー」
リーダーと呼ばれた少女が気持ち良さそうに眠りだした。この少女、コードネームは『正月』である。
「もー、リーダーってば、すぐ寝ちゃうんだから」
「今は静観ということか……」
とりあえず厨二病の三人に、大したことはできなさそうであった。
『物に神が宿るという信仰をアニミズムというが、同様に正月といった、季節の行事にも神が宿るという発想がある。しかし寝正月などと言われるように、正月の神さまはどうにもぐうたらなので、大したことはできないんじゃなかろうか。そんなことを毎年、雑煮を食べながら私は思う』
──ぐうたらエッセイストの最新刊、『不信心な私の戯言、どうか信じないで』より抜粋。
「仲直りできて良かったねー。今日は皆でケーキを食べに行こうよー」
「いや、仲直りは別に……。でも、そうね。私もクリスマスは、嫌いって訳じゃないわ」
「まあ私もね、別にハロウィンを毛嫌いすることもないかもね。つまらないことで喧嘩してたら、上にいる神さまから怒られるかもしれないし」
放課後の帰り道、神楽能愛が楽しそうに笑って。神無月西瓜はクリスマスに譲歩して、クリスティーナ師走はノアの頭上へと目を向けていた。
ノアは三才のとき、十一月の七五三で大きな神社へと連れられて。どうやら、そのときに複数の神さまから気に入られたらしい。髪がピンク色になったのも、その頃からだそうだ。
「神さまに取ってのアイドルってことよね……ノアちゃんくらい可愛ければ、当然か」
「私たちがノアを好きになったのも無理はない。そういうことよね……」
スイカとクリスが、妙に納得したような気持ちでノアを見つめる。そのノアが足を止めて、二人に抱き着いた。
「何にも変わらないよー。二人は大事な幼馴染だもん。今日スイカちゃんに授業中、言ったように、良くないことが起こりそうなら私が止めるし。クリスちゃんに言ったように、これからも一緒に仲良くするし、ずっと傍にいるよー」
おかしな悪戯の果たし状で、ノアを巡って争わされたスイカとクリスだが、もう争う必要もない。三人でいれば、これまで通りにノアが愛してくれるのだ。そう思うと気が楽になった。
「そうね、ノアちゃん。私たち、ずっと一緒にいましょう」
「神さまから愛されてるノアを、皆で愛するのは当然よね。ケーキを食べながら永遠の愛を誓いましょうか」
三人が夕闇に溶けていく。大きな愛に包まれた女子を見て、今日も神は推し活を楽しんだ。