プロローグ
『十月のハロウィンと、十二月のクリスマスが二十一世紀の日本において一大イベントであることは間違いがない。そして今や、ハロウィンとクリスマスは二大イベントとして、それぞれの支持者が抗争を繰り広げることも珍しくはないのだ……』
──二十一世紀の奇書、『割と、どうでもいいオカルト大戦の話』より抜粋。
「あー、今年も先月のハロウィンが終わったわねー。一部の熱狂的なオタクが、街を汚して過ごすイベントが終わって清々したわ」
時期は十一月である。朝の通学路で、高校生の女子が三人、並んで歩いている。右端を歩く金髪の女子が、わざとらしく左端の女子に聞こえるよう、大きな声で独り言を呟いた。
「あら、ご挨拶ね。そんなに年末のクリスマスが楽しみ? 聖夜とか言って、恋人同士が子作りに励む時期でしょ。そりゃあ日本で九月生まれの人が多くなるわよねー」
左端の女子が、歩きながら大声で右端の女子へ言い返す。こちらは黒髪で、一般的な日本人の顔立ちだ。ちなみに右端の女子は、外国人とのハーフであった。
「何が言いたいのかしら? 恋人同士で愛し合うことに問題はないでしょ。下劣な品性の子は、嫌な粗探しをしてくるわねー」
金髪の女子が、左端の彼女へ視線を向ける。そのとき、たまたま通学路の向かい側で、犬を散歩させていた女性がいた。その犬が金髪の女子と目が合って、キャン!と啼いて尻尾を丸め、動けなくなる。
「誰が下劣な品性よ。そんなにクリスマスが誇らしい? やたら宗教色が強くて、海外ではハッピーホリデーって言われてるんでしょ。価値観の押し付けは嫌われるわよ」
左端の女子は、三人組の中で最も背が低い。その彼女が立ち止まって、右端の金髪女子を見上げるように睨みつける。すると視線の向かい側で飛んでいた鳥が、ぽとりと道路へ落下した。
「宗教色が強くて、何が悪いのかしら? 知ってる? フィリピンのクリスマスって、確か四か月は続くのよ。国民の八割がカトリック教徒だからかな。これはクリスマスの偉大さを表してると思わない?」
右端の金髪女子も足を止めて、左端の女子と睨み合う。道の向かい側では「ジョン! どうして動かないの?」と、散歩させていた犬が怯える様子に、ひたすら困惑している女性がいる。訳が、わからないプレッシャーが高まる中、三人組の真ん中にいた女子がふわりと動いた。
「もー、ケンカしちゃダメだよー。二人とも、笑って笑ってー」
そう言った彼女が、ほんわかと真ん中から仲裁して、ついでに犬の方へと視線を向ける。すると怯えていた犬は落ち着きを取り戻し、丸まっていた尻尾も元へと戻った。
「ちょっと待っててー。鳥さんを見てくるからー」
そう言い、二人の間から移動した彼女は髪がピンク色だ。日本人なのだが地毛である。その彼女が道路に落ちた鳥に触れて持ち上げる。その手から、鳥は元気を取り戻し、再び空へと飛び立っていった。
「これで良し、と。車に轢かれたら可哀想だもんねー。じゃあ学校へ行こうよー」
髪がピンクの女子が、二人の間に戻ってくる。金髪の子が「……そうね、行きましょうか」と、毒気を抜かれた様子で歩き出す。「……うん、行こうかノアちゃん」と、黒髪の子も並んで歩いた。ノアというのは、ピンク髪の子の名前であるらしい。
三人組の高校生女子が歩き去って。ぽかんとした様子の、犬を連れた女性も遅れて歩き出す。歩きながら、「……何なの、あの子たち?」と、彼女は首を傾げていた。