幻想郷の長老
ハルとリルはひときわ大きい家の前に着く。そこまで案内した門番の男はそこで自分の仕事に戻るためその場を後にした。リルは家の門をくぐり中に入っていく。ハルはそれについて行く形だ。
「リル、ここが目的の場所か?」
「はい。ここには幻想郷を束ねる長老と言われる方がいます。人の国で言うところの村長ですかね。それともここを国とするなら国王が正しいと思います」
幻想郷のお偉いさんというのはハルにも理解できた。しかし、ここに来るまでそこそこの亜人種の者たちがいたがほとんど話すことがなかった。しかし、警戒されているという風には見えなかった。リルが結界を張っているというのはここでは周知されていることなので守り神くらいに思っているのだろう。
「私が最後にここに来たのはかなり前なので少し緊張しますね」
リルは唐突にそのようなことを言った。リルはこのような見た目だが世界で上から数えたほうが速いくらいには強い。そもそも三本の指に入っているだろう。そのリルが緊張するとはどのような人物なのかハルは気になってくる。リルとハルがドアの前に着くとドアが自動で開く。中に使用人のようなものがいるのでその人が開けたと理解する。ここ幻想郷で魔力探知は使用していない。リルは気にしなくていいとは言ったのだが見られ方的には幻想郷を怪しんでいると取られてもおかしくないのでハルは魔力探知を使用しないでいた。使用人が家の中を案内しある部屋に通された。そこに入ると二足歩行の狼がいた。人狼という種族らしいがモンスターの狼系とは別物のようだ。
「リルよぉ、よく来たなぁ。歓迎するぜぇ」
入るなり、リルにそう言った。そしてハルに目を向けリルに誰だという視線を向ける。
「結界を張りに来たわよガリウス。その様子じゃまだくたばることはなさそうね。彼はハル。私の眷属にして私と番になる者よ」
ガリウスと呼ばれたその人狼は大きく目を見開きリルを見た。
「番かぁ。そりゃあ大層なこった。それほどの実力だと?」
「ええ。少なくともここを一人で潰せるほどにはね」
「はっはっは!そりゃいい。ハルっつったか。ガリウスだ。よろしくな!」
ハルは二人の会話で仲がいいことはわかった。しかし、ここを潰す力があるとリルが言ったときはハルにして肝が冷えた。流石に敵対はしていないので平気だとは思うがハルはここに来たことがなく今回が初めてだ。それでこの内容はなかなかヘビーである。
「ハルです。よろしくお願いします。一応言いますけど潰す気はないですよ」
「わかってらぁ。リルの軽口も慣れてる。気にしねぇでいいぞ」
簡単な挨拶を済ませた三人は外の世界がこれからどうなるかをガリウスに説明し、結界の話もした。ガリウスはリルとハルの説明に納得しそれでいいと許可した。
「結界の隠蔽に関しては結構念入りにしようと思っているわ。そのためにハルも連れてきたんだし」
「番ができたっていう自慢のために連れてきたんじゃないのかぁ?」
「そ、それは違うわよ!適当言わないで」
リルはかなりフランクに話している。これほどフランクに話すのはハルかエミー、他は神獣種くらいであろう。それでも神獣種は全員が眷属が要る手前威厳を大事にしている感じなのでここまでフランクに話している姿は見たことがないが。
「まあいい。それにハルが隠蔽魔法を得意としているのも間違いなさそうだしな」
ダリウスはハルを見てそう言い切った。そもそも今は魔法の制限をしていないが隠蔽魔法の類は一切していない。それでもダリウスが言い切ったことに少し違和感を感じた。
「なぜそう言い切れるのかって顔してるな。リルから俺たちのことは聞いているだろ?」
ハルはそれに頷いて答えた。
「ここに住まう亜人種は何回も亜人種と人種が交配して生まれた種たちだ。でも俺は違う。モンスターと人種の純粋な交配種だ。表向きはその時代の者はいないということになっているが俺だけがその時代から生きている亜人種だ」
ハルはリルの方を向き尋ねると無言でうなずく。
「そして寿命だ。亜人種はそこまで長生きじゃない。今はそれなりに数も増えてかなり稀だがエルフやドワーフがここに来ることもある。その外で言う古代人種と子を成すやつもいるから一概に短いわけじゃないがそれでも人族と同じくらいだろう。俺は元々で言うとすぐに死ぬはずだった」
遺伝子がそもそも違う者の交配種だ。その亜人種が長生きするというのがそもそも無理な話である。その彼がではなぜその時代から生きているのか。
「俺がなぜこれだけ長生きしているかだがハル、お前と同じだ。俺は眷属だ。親と言える種自体は一緒だしな」
リルはモンスター側から生まれた種であり元は普通の狼系のモンスターであった。しかし、モンスターから生まれたリルは耐性と適応能力が他の狼と比べて高かった。なのですぐに今でいう神獣種まで進化した。それが神獣種の原点である。つまりリルが最古の神獣種なのだ。しかし、眷属魔法を開発したのはそれからかなりたった後だとハルは聞いていた。古代人種用に作った魔法だと。しかし、その時代に古代人種は存在していない。ハルはその疑問をリルに投げかけようとしたとき、リルが聞かれる前に応える。
「前に眷属魔法は神獣種が古代人種に使うために作った魔法と言いました。そこは間違いありません。しかし、ガリウスにかけたものはそのような大層な物ではないんです。もちろん、できた後は眷属魔法をかけ直しました。でも、それまではいつ死んでもおかしくない状態でした。私の魔力で生きながらえたのです」
聞けば亜人種には魔力核があるのだそうだ。しかし、人種側から生まれたものは人の形にその魔力核が付いている。そして成長途中でその魔力核から魔力が出なくなるらしい。モンスターの形質を受け継いだ最初の亜人種は魔力が無くなるとモンスターの力に肉体が負けてしまい、自我がなくなり、少し暴れたのちに息絶える。そのような種族であった。ガリウスに魔力をあげることでガリウスは永らえたそうだ。他の亜人種には出来なかったらしい。ガリウスがたまたま狼の血を引いていたからできたことなのだという。
「そのように生きながらえたのか。それじゃあ今ここに住んでいるものはどうなんだ?」
ハルはそう二人に聞く。ダリウスが眷属ならばそれ以外はどうなんだ、と。
「眷属のやつもいるが全員じゃない。眷属になって寿命の際限が無くなるからな。普通に生き、普通に死ぬ。それを望むものがいるのは事実だ。そして成人になったときにリルの眷属になるかどうかを決めてもらう会を設けている。そこで自分で決め、今後の生き方を決める」
「私は彼らの人生を縛りたいわけじゃありません。なのでそこは自由意志に任せてますよ」
「そうなのか、変なことを聞いてすまないな」
「気にしてねぇよ。かしこまんなって」
ダリウスは笑顔でそう言った。少し外が騒がしいのをハルは感じる。リルも同様のようだ。立ちうすはため息をつき、つぶやいだ。
「結構前に火山で倒れていた人族を保護したんだ。男女で二人だったんだが人族が来たって嗅ぎ付けてきたらしいな。少しうるさくなると思うぞ」
ばたばたとどんどん足音が大きくなってきてノックもされず扉が開かれた。
「ダリウス!人族はどこ!?」
「はぁ。少しはミゲルを見習え。もうそこそこの歳だろ、アリア」
ハルはその名前に反応し後ろを向いた。忘れたこともない、ハルの母がそこに立っていた。




