幻想郷
ハルとリルは幻想郷の入り口に到着していた。そこは何の変哲もない岩があるだけである。
「ここか?何もないが」
ハルはリルにそのように問う。どう見ても入り口などはなく、周りと同じような岩が並んでいるだけである。
「魔力探知をしてみてください。ハルのレベルであればわかると思います」
ハルはリルの言う通り魔力探知を使用した。元々使用していたのだがそれは一般的な魔法師が使用する程度の精度で展開していたのだ。それの精度をさらに引き上げると確かに魔力の淀みを感じ取ることができた。
「これか。魔力が少し歪んでいる部分があるな」
「それが私の結界の入り口です。特定の入り方をしなければ開くことがない扉です。ハル以外には多分マーブがこの扉を見つけることが可能でしょう。そもそも彼女には魔力的なものを隠すことができませんし」
そう言いながらリルはその扉を開錠していく。そしてその岩が消え道が広がる。一種の異世界だと言われても信じる空間がそこには広がっていた。そしてそこに人ともモンスターともとれる者たちが立っている。彼らが亜人種。上半身が人で下半身が蛇のような体をしていた。
「お久しぶりでございます、リル様。してそちらの御仁はどなたでしょうか?ここに連れてくるということはいリル様の関係者とは思いますが説明願えますか」
二人いるうちの一人がリルにかしこまりながらもそのように言った。当然だ。リルの力を借りてまでこのように隠れて住んでいるのだ。その警戒心は必要であろう。
「彼の名前はハル。私の眷属にして私の将来の番を努める殿方です。無礼のないようにしてくださいね」
二人は困惑していた。今まで長いこと生きているが一回も番を作ることがなかったあの神狼が、番を連れてきたのだ。
「そうでございましたか。かしこまりました。よくぞ参りました。それでは案内します」
一人に門番を任せもう一人がリルとハルを案内する。そこは火山の裏とは思えないほど自然が豊かな場所であったここに来るまでにそこそこ長いトンネルを通ったことから少し離れているのだとハルは考える。それを察したのか亜人種の男がその答えを口にした。
「ここはここの長老様の『環境魔法』を使用してこのような環境を作り上げております。起動には長老様に魔力が必要ですが一回起動してしまえば魔術を使っているので、幻想郷の住人が魔力を流すだけで維持されます。リル様が結界を張り直すときにしか再起動は行いません。そもそも環境を”維持”しているだけなので再起動しなくても平気ではあるのです」
案内してくれている亜人種の男は丁寧に教えてくれた。彼らは魔力が多いと言われている古代人種のエルフ族よりも多くの魔力を保有していた。これがリルが話していた交配種と言うことなのだろう。それであればモンスターがあれだけの魔力を有しているのも納得だ。そして彼らは鍛えられっているということが大きい。鍛えなくてもとてつもなく多ければモンスターは王獣種しかいないという風になってしまうからだ。
「かなり魔力の総量が多いですね。かなり鍛錬を積んでいるように見えます」
ハルはなるべく丁寧にそう言う。亜人種の男は笑いハルの言葉に応える。
「あなたほどの魔力を持っている方にそう言われるのはうれしいですね。一応この幻想郷の門番をしているので鍛錬を欠かしたことはありません。それが私の務めですから」
会話をしながら進んでいくと家がいくつも並んでいる村のようなものが見えてきた。
「ようこそ幻想郷へ。歓迎します。リル様、ハル様」
そこには人族と言われるものは見渡す限りいなかった。上半身が人、下半身が馬のようなものもいれば牛の顔で身体が人のようなものもいる。本当に人族や古代人種がいないのだなと思いながらハルは周りを見渡していた。するとそこに門番の男と同じ種族であろう女の子が近づいてきた。もう一人は下半身が馬だ。
「「リルお姉ちゃーん!!」」
二人はリルを見つけるなりリルに抱き着いた。かなり慕われているのだと感じるがそれを門番の男が咎める。
「アーシャ!クラーラ!やめなさい!リル様が困っているだろう」
「なんでお父さんがいるの?!」
「はぁ……。案内していたんだ。今回はリル様だけじゃないからね。お二方、申し訳ございません。私の娘が」
「平気ですよ」
「自分も平気です。そもそも自分はなにもされていませんし」
今までもよくしてくれていたことは男とて知っている。しかし、ここにリルが最後に訪れたのは十年以上前だ。そのころはかなり小さかったが今はそれなりに大きくなっているのだ。成長していないなと思った男は自分の娘に少し残念な気持ちになっていたのだった。
「おにーちゃんは誰?リルお姉ちゃんの友達?」
「ふふっ、私の恋人よ」
「「えぇー!!リルお姉ちゃん恋人出来たんだ!」それならおにーちゃんは強いの?」
女の子の一人、馬の下半身を持った子がハルの強さについて聞いた。過去、リルが自分より強い者はいないけれど自分と同等の強さが基準だと話していったのを覚えていたのだ。
「さあどうだろう。外の世界だとそれなりに強いと思うよ」
ハルは優しくその女の子に言った。その女の子、クラーラはそうなんだと言い、ハルは一息つこうと思った時に突然殴りかかってきた。下手をすればハンターの幻級に届くかもしれない速度の拳速であった。それをハルは平然と受け止めた。門番の男は急にそんなことをするとは思っておらず固まっていた。受け止められたクラーラも驚いていた。確実に不意を突いた一撃だったのだ。ハルはそんな少女に優しく微笑み
「これで少しは信用してもらえたかな?」
と、言った。クラーラはうんうんと頷いた。その拳を離し、ハルはクラーラの頭をなでながら言った。
「次は正面から正々堂々と挑戦するといい。リルの作業が終わるまではここにいるから」
その後は門番の男とクラーラの親がしきりにハルに謝っていた。ハルは気にしていないから平気だと何度も言っていた。ハルにとっては遊びの域を出ていないのだ。だから問題ないと言っただけである。
「彼女の種族はケンタウロスと言います。パワーは人族の数倍はあります。だからこそ彼女の親や門番の方はかなり焦っていたのでしょう」
「そうだったのか。確かに幻級ハンターに届きうる力だったな」
「私もハルだったので心配はしていませんでしたよ。それでは少し時間がかかってしまいましたが幻想郷の長老に会いに行きましょう」
二人は幻想郷の中でもかなり大きな家を目指す。そこがこの村の長老、まとめ役なので村長ともいえる亜人種の家であった。




