筆頭神級ハンター
ハルとジットの摸擬戦が始まった。二人はアランの開始の合図が出た直後に肉体強化を使用している。二人とも肉体強化を隠すということはせず、すぐさま戦闘に入った。ハルは普段、居合の構えを多用しているのだが今回に限って言えばすでに抜刀した状態で戦闘に入った。ハルの居合は全ての攻撃で最速を誇る。それでも居合を選択しなかったのはジットが武器を使わないという特殊な対戦相手だということだった。ジットはその拳、そして肉体自体が武器だ。その彼の攻めを受けきるには居合ではいささか始動が遅いと感じたのだろう。そしてそれはハルの予想通りになる。
ジットは開始直後、すぐさまハルに向けて突進を仕掛けた。もちろん、ハルもそれを見逃すことはしない。その突進に合わせて切絶を振り抜く。完璧なタイミングでジットに当たろうというところでジットはハルの刀の腹をたたき、いなす。触れたのは一瞬のことである。剣速が速いこともあって一瞬しかタイミングはなかったのだがジットはそれに見事合わせてみせた。そしてそのままハルにボディブローを叩き込む。先ほどロドルが受けた拳よりも速いその拳をハルは左手で受け、後ろに飛ばされるが左手で受けたおかげでダメージはそれほどではない。仮に肉体強化がなければ骨が折れていたことだろう。
「今のをやり過ごすか。結構決めに言った攻撃だったんだがな」
「流石に今の一撃で沈んでたら神級を辞退するぞ。それに俺の刀をあのタイミングでいなす方がおかしいと思うけどな」
二人はそのような軽口をたたいているが攻撃を止めることなく会話している。これが神級トップ2の戦闘なのだ。未だ本気ではなく相手の力を確かめるように戦っていく。マークのパーティの面々は何が起きているかわかっていないものが多い。マークはギリギリ認識できているがこれ以上速くなるとマークにも難しくなるだろう。
「皆さんはこれ以上の戦いになった場合見えるんですか?」
マークは他の神級に尋ねる。マークが来て見た摸擬戦はロドルとジットの一戦だけだがそれでも先ほどジットが放った一撃より遅かったのだ。それを防げなかったのに見れるのかと単純に気になったのだ。
「俺がジットの一撃を防げなかったから言ってるのか?」
「す、すみません。嫌味とかそのような意図があったわけじゃないんです」
「わかってるよ。少しからかっただけだ。結論から言おう。見えてる。でもそれは俯瞰で見ているからだ。実際に対面してみるのとこうして俯瞰で見るのだと迫力も勢いも違うからな。俺はそれに飲まれた。それだけだ」
ここで見ると自分で受けるのは違うというのはマークも感じていた。アリエスと戦い、ハルとも戦った。アリエスとの戦いは特殊な戦い方だったので今は省くがハルとの戦いは正面から力で潰されたのだ。その時よりも速い戦いをしている今でも目で追えているということそういうことなのだろう。これ以上は流石に追える自信は今のマークにはない。しかし、この戦いを見て学ぼうとマークは改めて思ったのだった。
ジットとハルの攻防はさらに激化していく。ジットは拳に魔力を集め、殴るときのインパクトに合わせてその魔力を放つ。属性がついていない純粋な魔力であるため、弾き方が同等の魔力で押し返すということしか対処方法がない。避けることはできるがこれほど近づかれると回避もそう簡単にはできないのである。対してハルも刀に魔力を込め、その拳を受け止めている。切絶ほどの刀でも切れないジットの拳はもはや人の物か怪しいがそれでも神の速さのごとく攻めてくるジットの攻撃を防いでいる。そして驚くべきはハルも反撃を入れているのだ。拳は切れていないがジットの体には刀の切り傷が増えていく。ジットの攻撃を受けきり、反撃のみでダメージを入れているのだ。ジットが攻めをやめ、後ろに跳ぶ。ハルはそれを追わない。ジットのタイミングで後ろに跳んでいるのでどのような反撃が来るかを考えて無理をしなかったのだ。
「俺が攻めているのにダメージが入っているのは俺の方だけとは流石だな」
「避けることにかなり神経を割いてるけどな。一撃でやられることも考慮しなきゃいけないからな。そこらのモンスターよりもよほど命の危機を感じるよ」
「そこらのモンスターと同じに今までは考えていたと思うと少しくやしいがな」
「まあ俺が弱かった時のモンスターと同じ気配をしているからな。一回でも攻撃を受けたらそれこそ終わりだしな」
攻撃をしていない状態で言葉を交わし、再び戦闘に入る。先ほどよりも魔力の濃さが変わってきている。魔力感知ではもうどこにいるかわからないほど魔力が濃くなっている。
「これはすごいわね」
魔力を見ることができるマーブは二人の周りに見える魔力を見てそう漏らした。一瞬広がり、二人が視認できなくなったのだがすぐに二人にその魔力が集まる。かなり濃い魔力が二人の体を包んでいた。魔法師のミヤは足が震えていた。それを見たマーブはミヤに声をかける。
「大丈夫?魔法師は魔力に敏感だもんね。これだけ濃い魔力はきついか」
「はい……。神獣種の威圧を受けたときの感覚に似ていますね」
「一応、幻獣種たちが張ってる防御魔法を魔力を遮ることもしてくれるんだけど抑えが効かなくなってきたね。そりゃハルとリルさんで摸擬戦するときは魔法の使用を禁止するわけだわ」
魔力を遮る効果もこの結界にはあるらしい。それはどの国の魔法師団でもできないだろう。それを眷属が行なっているのでかなりの戦力だと改めてミヤは実感した。
「そろそろ終わると思うから呼吸を整えてね」
ミヤは呼吸を整える。マーブがミヤの前に同じ結界を張ってくれた。この魔法を個人で発動できる彼女もまた神級ハンターなのだとミヤは実感した。
ハルが最初は見せなかった居合の構えを見せる。それに合わせジットも拳を構える。
「結構戦ったし、そろそろ終わりにしようか」
「そうだな。これで最後だ」
二人は同時に動く。そしてジットの拳に対して潜り込み躱す。そしてそのまま刀を振り抜いた。魔力を乗せた一撃である。ジットは当たる瞬間に刃が当たるところに魔力を集中させガードを行なった。それでも吹き飛ばされ結界にたたきつけられる。ハルはすぐに追い打ちをかける。結界に打ち付けられ、バランスを崩したジットの元まで来て切絶を首に突きつける。そうするとジットは両手をあげた。
「俺の負けだ。ハルにはやはり勝てないな。これ以上に発展すると摸擬戦じゃすまなくなる」
「そりゃそうだ。俺もあんの本気で来られたらこの結界が壊れちまう」
「ハル君の勝ちだね。今回もハル君が筆頭神級ハンターだ」
ジットに手を伸それをジットは掴み、立ち上がる。戦いが終わったので幻獣種たちは結界を解いた。結界に防がれていた魔力が広がる。それをリルとマーブが上に逃がす。この魔力を森に広げると王獣種が大量発生するという事態になりかねない。ハルはいつも終わりが雑だとリルに注意されながら見ていた者たちの元に行く。そこには先日戦ったマークたちがいた。
「どうだ。見ていたんだろ」
「はい。見ていました。僕にはどうすることもできない力を見ました」
そしてマークはハルの方を見ながら深呼吸をした。
「この前までの非礼を詫びさせてください。すみませんでした」
ハルはその言葉にうなずくと精進しろとだけ言ってリルと家に帰っていく。それを見送ったマークはアランに声をかけられた。
「マーク君。彼らはかなり癖が強いけど敬意をもって接すれば優しい人ばっかりだ。そしてこれから起ころうとしていることに向けて修行をしているものもいる。君はどうする?彼らのように強くないから諦めるかい?」
「いえ、僕を含め、パーティメンバーも神級ハンターになってパーティとしての練度も上げていきたいと思っています。ここから新しい一歩を踏み出す気持ちです」
「それならいい。頑張るといいよ。炎神龍は強敵だ。そして向こうの大陸の人々とも戦うことになるかもしれない。その覚悟はしていてくれ」
「はい」
こうしてマークは神級としての自覚が芽生えた。今はまだ自覚が出ただけで実力は劣っているがそれも鍛え方次第ではどうにでもなる。マークはもう一度鍛え直すことを決めた。




