神級のトップ
マークの体調が回復し、ついにこの日が来た。マークパーティとハルの摸擬戦の日だ。ハルはいつも通り愛刀の切絶を腰に据えている。マークのパーティも準備万端と言ったところだ。今回は正面からの戦いではなく、大森林を舞台とした広めのフィールドで戦うこととなった。ハンターが戦うのはこのような自然豊かな場所であるためそれに近づけたいという要望だった。ハルは自分に有利すぎると言ったのだがパーティで挑んでいるので問題ないとマークが言ったのだ。お互い視認できない距離からのスタートである。他の神級ハンターたちはマーブとリルの魔法によって観戦できるようになっていた。リルが主にハルの視点を俯瞰で映し、マーブがマークのパーティを映す。開始の合図が始まろうとしていた。アランが火の魔法を打ち上げ爆発音が聞こえたところで始まる。
「それじゃあ始めようかな。いくよ」
こうして開始の合図がなされた。マークのパーティは魔法師のミヤが魔力探知をする。ハルは元々魔力の隠蔽を得意としているのであまり意味がないのだが弓使いのサーカスが自身の眼で確認している。そして当たると予想されていた場所までマークたちは進んだ。ハルはそこにいた。隠れもしない。ハルは力でねじ伏せようと元々考えていたため隠れて狙撃などはしないと決めていた。
「随分ゆっくり来たんだな。結構ここに来て待ってたんだがな」
ハルは牽制とばかりにそのようなことを言い放つ。煽りも入れた本音なのだがマークはそれに取り合わない。そして前衛のマークとアックスがハルの前に立つ。
「まさか離れたところから始めたのにこうなるとは思っていなかったよ。ハンターなのに正面から人数不利の戦いに挑むなんてね」
「隠れてもバレると思ったんじゃねぇか?それくらい隠れるのが苦手なんだろ」
マークは人数不利について言及してくる。そしてアックスはそもそも隠れることが苦手なのではないかと考察している。ハルからしてみればこの人数など大した問題ではない。そして隠蔽の魔法も得意であるため完全に的外れだった。
「隠れたらお前らが見つけられずにすぐに終わるだろ。それは味気ないんでな。正面から潰そうと思ったわけだ。ほら、来いよ」
ハルには珍しくかなり煽っている。その煽りに乗ったのがアックスであった。彼は大きな斧を武器としている。その斧を振り上げながらハルに迫った。しっかり肉体強化はしてあるようだ。流石にマークに言われていたのだろう。その斧がハル向けて振り下ろされる。それをハルは余裕を持って躱す。避けた先にはマークが大剣を横に振り抜いていた。それもハルは跳ねて躱す。その時マークが笑った。他の遠距離職の者たちが木の陰にいるのだ。ハルもそれは理解している。陰にいるサーカスが跳んだところピンポイントで矢を放つ。ハルは空中であるにもかかわらずその矢を切り落とした。
「これで終わりか?魔法師のやつはどうした。彼女の追撃があればいけたかもしれないのにな」
ハルは一旦距離をとってそのようなことを言ってのける。そしてハルは未だに肉体強化を使っていない。マークはそれがどっちなのか計りかねていた。つい先日アリエスに魔法の隠蔽を食らったばかりなので神経質になっていた。今の動きを見て使っていると判断した。
「よし。次は俺から行くぞ。気を抜くなよ。死んでも知らないからな」
ハルはアックスの方に駆け出す。一瞬にして目の前まで来て刀を振り抜いた。アックスはギリギリのところで斧で守った。額には冷や汗を滲ませている。
「おお、よく守ったな。また行くぞ」
ハルの一方的な攻撃が続く。それをアックスは防戦一方になりながらも守っている。マークは助太刀に入るためにハルに切り込む。大剣の腹にハルが蹴りを入れる。大剣の軌道をずらし、アックスへの攻めも忘れない。サーカスはアックスとハルが近すぎるため、矢での牽制ができずにいる。その時、遠くから女性の声が響いた。風の魔法で音を増幅しているような聞こえ方をした。
「準備できました!!」
その声が聞こえたほうに意識が向く。そちらにいることをハルは感じ取っていたが急に魔力反応が強くなる。そしてその時にそれは起こった。地面が隆起しそのタイミングでアックス、マークがハルから離れた。ハルを囲うように地面に山ができる。そしてハルの下の土を代用しているため、ハルのいるところがはるか下に行く。その様子を両者目線を見ることができる神級ハンターたちは素直に感心していた。
「あの魔法師、なかなかの腕よな。的確なタイミングであの地形を作り上げおった。しかしハルは出れたであろう。なぜ中にいるのだ」
今まで黙っていたロドルがそういうと他の神級ハンターたちもそれに疑問を受けた。ジットとタメを張る近接の才能、マーブにも匹敵している魔法、この二つを持っているハルがこのような大きな魔法にかかるとは思えなかった。
「さあね。何か考えでもあるんじゃない」
この景色を映しているマーブがそう答えた。ハルの考えなど誰にも読み取れない。その中でジットは少し考える。
「もしかすると俺のスタイルを真似ているのか」
そのつぶやきを聞いて神級ハンターたちが反応した。確かにこのような序列を決める戦いのときに今まで筆頭であったジットは他の神級の実力を見るためと言って手の内を探るように戦っていた。全ての手の内を出すことができなかったのはハルだけである。そのハルが自分の戦い方を真似していると感じたのだ。
「あれは決闘形式の摸擬戦だからしていたんじゃないのか?」
ヴィノはジットに確認のためにそう問いかける。その問いにジットはそうだと答えた。
「流石に神級になる者たちだ。このような環境での戦いは慣れている、決闘形式でなければ俺も試そうと思わない」
ジットでもそうなのだ。それでもハルはそれをするためにわざわざ隠れずに戦っていた。
ハルは穴の中で思案する。これからの攻撃にどのようなものがあるか、そしてそれはどのようなタイミングで来るのかを考えている。上るのは簡単だ。しかし、不発にするにはもったいないと判断し、少し待機することにした。そしてその時は来た。上の方から大きな火球が降ってくる。逃げ場を無くした状態で火魔法を使用したのだ。しかも魔力的に使用したのはマークである。火球が穴に入ったところから上に蓋ができ始めていた。これはミヤが行なっているようだ。
穴の外ではマークたちが勝ちを確信していた。そもそも王獣種相手でもこの戦法が通ればほぼ勝ちなのだ。前回王獣種と遭遇したときはミヤの魔力がここまで残っていなかった。だからこそマークが囮として残ったのだ。
「これで勝ちだな。俺たちをなめているから足元をすくわれるんだ。神級ハンター筆頭と言っても若さが出たな。自信過剰になっていたんだ」
アックスがそういっている。ミヤはしっかり倒しているか魔力探知をかけている。隠蔽の魔法をハルはもう使っていないので感じ取ることができたが何かおかしい。人の形のまま立っている。そしてマークが放った火球の魔力が完全に消失していた。
「まだ倒せていません!マーク君の魔法の反応がなくなりました!中の方はいまだ健在です!」
その知らせにマークは魔力探知をする。魔力を温存するためにこのように固まって行動しているときはミヤに探知を任せていたのだ。そして自身の探知にもハルが生きていることが確認できた。
「あれを受けて生きているだと!本気で殺るつもりで撃ったんだぞ!」
「そうだったのか。それは残念だったな」
土の蓋を破りハルが出てきた。体には傷一つついていない。マークたちはその光景に驚愕した。今までこの魔法で倒せなかったモンスターはいなかった。そもそもこの魔法を使うまでもなかったのだが使って勝ったと確信した。神級筆頭ならば死なないと高を括っていた。しかし、結果は無傷。
「どうやって生き残った……?」
「なんで土魔法が使えない前提で話しているんだ?使える魔法を把握してから使うべきだったな」
そういい、ハルが攻撃に移った。




