決着と新たな戦いの予感
「やっぱりか」
ハルが短刀を突き付けているアリエスを見てそうつぶやいた。他の神級ハンターたちはアリエスが大鎌以外の武器を使っていることに驚いている様子だ。
「ハルはあれを持っていることを知っていたの?」
魔力の違和感を感じていたマーブはハルに問いかける。ハルはその質問に頷いた。
「俺は隠蔽の魔法を感知できていた。これはリルの魔法ではなく俺の特性だな。その中で魔力を纏っている武器をアリエスが持っていることに気付いたんだ」
マーブはハルの魔力探知の精度に驚きを隠せない。自分が神級の中で魔法を一番うまく扱える自信があったからこそ自分が見抜けなかったものをハルが見抜けたことに驚いている。
「魔力が一部おかしいとは思っていたけどまさか新しい武器を持っているとは思わなかったわ」
マーブのその言葉に他の神級ハンターは頷く。気づいていないものがほとんどであったがそれでもアリエスが大鎌以外の武器を持っているとは思っていなかったらしい。
「俺たちはハンターだ。どんな不測の事態にも対応しなければいけない。アリエスがメインとは違う武器を持っていても俺は驚かないけどな」
ハルがそう言い、アリエスとマークの方に目を向ける。そこには後ろから短刀を首に突きつけられ悔しい顔をしているマークの姿があった。
「それじゃあそこまでにしてもらおうかな」
アランがそう声をかけ、アリエスが離れる。マークは緊張が解けたのかその場に崩れ落ちる。そうなったときにハルたちの後ろから声が聞こえる。
「マーク君!!」
マークのパーティメンバーの一人だ。リルの威圧に耐えられず意識を飛ばしていたはずだが意識が戻ったのだろう。そしてマークに駆け寄っていった。
「大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。すまないな。情けない姿を見せてしまった」
そう言いながらもいまだにマークは立ち上がることすらできていなかった。パーティメンバーの一人の肩を借りてようやく立てる程度だった。
「マーブ君。回復してあげてくれないか」
アランはマーブに治癒魔法を使ってくれと頼み、マーブは治癒魔法を使った。そしてマークは一人で立ち上がることができるようになった。遅れて他のメンバーも集まってくる。マークとともに前衛を張っていた大柄の男が神級ハンターたちを見て、声をかける。
「新人をこのように痛めつけるのが神級ハンターのやり方なのか。神級と言っても弱い者いじめが得意なだけか」
その言葉を聞いたジット、ハルが目にも止まらぬ速さでその男に迫る。ハルは切絶を首に突きつける。そしてジットの拳がその男の眼前に迫った。
「今のは聞き捨てらないな。俺たちはマークの実力を見るために一番近い実力のアリエスにしたんだぞ」
「長年ハンターをしているがまさか下の階級のハンターにそう言われるとは思わなかったぞ」
二人がその男に言う。その男は一歩も動くことができずにいた。額に汗が流れている。動けないことを見た二人は刀と拳を収めた。
「はぁはぁ……」
今回の摸擬戦で一番緊張が走った瞬間だっただろう。それを見たマークはその男を遅いが止まるように声をかける。
「アックスやめろ。俺が負けたんだ」
神級ハンターは止めるの遅いだろと思いながらもリーダーとしての自覚はあったんだなと思っていた。
「す、すまん。ついカッとなっちまった」
そこで終わればよかったのだがそうはしてくれないのが神級ハンターたちである。
「それならパーティメンバーを含めたマークと神級の誰かで摸擬戦でもいいぞ。他のやつがやらないなら俺がやるが」
ヴィノのこの一言でアックスという大柄の男と一緒に来たサーカスという男が声をあげる。
「四対一ということですか?それはあまりにも私たちをなめすぎている。そもそもマーク君はパーティ戦を得意としているのです」
彼らにもプライドというものがある。パーティリーダーがやられてはしまったがあくまで自分たちはパーティで戦うハンターであると。そして連携力があれば勝てると目が語っていた。
「そんなのはいいわけだ。現にマークは一人で王獣種を倒した。そんな言い訳通用するわけないだろ」
ハルはハンターとして言い訳するなと言っている。アリエスが短刀を持っていたようにハンターは何が起こるか常にわからない職業だ。そのような言い訳は通用しないのだ。
「それでもその言い訳を通すというなら俺が相手をしてやる。一応神級ハンターの筆頭をしているんでな。少し勉強させてやる」
すぐにでも始まりそうな雰囲気にアランは慌てて間に入る。
「まあそんなに熱くならないで。流石にマーク君もさっきの今じゃ本調子じゃないでしょ。いくらマーブ君が治癒したと言っても気力は回復しないんだから」
アランの言う通り、治癒魔法は体の傷を治すことはできるが気力は回復しない。そもそもマーブの治癒魔法が特殊なだけであり、普通の治癒魔法をかけられる者の魔力を使用するものだ。治癒後は数日安静にするのが普通である。それをマーブは自身の魔力で治すため魔力回復の期間がいらないのだ。
「今からしようってわけじゃないから安心しろよ。流石にそこまでは求めていない」
マークは傷は治っているがそれでも支え無しでは歩けていない。後ろのアリエスは涼しい顔で歩いているのでその時点で実力差は出ていた。
「マーク君が完全になったときにまた摸擬戦を行おう。その時はハル君対マーク君のパーティでいいかな」
「はい。問題ありません」
「ああ」
サーカスとハルはそう答えた。そしてマークの介抱をしていた魔法使いのミヤは何が何だかわからないままパーティメンバーとともにその場を後にした。
「全く。すぐに力でわからせようとしないでくれ。収拾がつかなくなるよ」
「相手の態度の問題だろ。俺たちに非はない」
神級ハンターたちは一堂に頷く。アランはため息をつき、彼らの方を見る。
「だとしてもだ。そもそもマーク君は神級になる権利を得ているが他の子はまだその域までいっていないんだ。神級と戦って勝てるわけないでしょ」
「それでも挑発したのはあいつらだ。幻級といってもあの程度なのかと少し残念に思ってすらいるぞ」
マークのパーティは間違いなく幻級の実力がある。トップかどうかはわからないがそれでも上位は確定している。その程度と言えるのは神級、もといハルだからであろう。
「ハルが出るのか?俺でも構わないのだがな。見たところ負ける要素がない」
「俺が出るしかないだろう。筆頭まで名乗ったんだ。流石にこれで出なかったら笑いものだ」
ジットはハルが出ることに過剰じゃないかと言っているのだがその意見だとジットでも過剰だろう。先ほどの戦いを見ている感じ、近距離の戦いが不得意なマーブでも勝てそうである。
「それでは俺たちはただこんな戦いを見るために大森林まで来たのか?」
「そんなわけないじゃないかぁ。君たちには今から序列争いをしてもらうつもりだよ。それくらいの方が君たちもちょうどいいんじゃないのかな」
アランがそう言ったことで神級ハンターたちの顔色が変わる。そしてすぐに摸擬戦が開始された。その日、日が沈むまで摸擬戦は続いた。




