神獣種の動向
空神龍バンゴスタの元へ集まるためにリル以外の神獣種たちも行動に移していた。神蛇スクリスは未だ豪雨林にいた。
「そろそろ出発しましょうかねぇ」
「あ、私も行くことにしたわ。会いたい人がそこにいるらしいの」
スクリスにため口で話しているのはアリエス。大森林でハルの行方を聞き、豪雨林に帰ってきていた。
「あら、大森林にいなかったの?」
「なんか神狼の眷属になったらしくてその護衛らしいわ」
「へぇ。あのリルちゃんが眷属ねぇ。これは神獣種のバランスが変わるかもしれないわね、その会いたい人の実力はどんなものなの?」
「確実に私より強いわね。しかも眷属になったって聞いているし今はあなたたち神獣種に手が届くのではないかしら」
今のハルの実力は人族の時ですら未知の領域に踏み込んでいた。それが今は神獣種の眷属だ。これはアリエスにもわかりかねるものになっていた。
「それはまずくなってきたわね。あなたを眷属にしたことで私の意見を通しやすくしようと思ったのにこれじゃ意味がないわね」
スクリスは自身の眷属である幻獣種がアリエスを連れてきたのだ。蛇モンスターの王獣種を単独で撃破しそれをみていた幻獣種たちがスクリスの元に案内したのだ。スクリスは今以上に眷属を増やす予定はなかったのだがアリエスを眷属にした。これは単純に戦闘力の高さもある。そしてなによりも環境適応能力の高さに目が行ったのだ。豪雨林は一年中雨が降り続く地帯だ。たまに晴れるときもあるのだが一年に数日あればいい方だ。そのような環境に生きているモンスターはかなり厳選されている。そのモンスターたちの王と思われる王獣種に来たばっかりの人族が勝ってしまったのだ。これは眷属にしない手はないと思いスクリスはアリエスに眷属の打診をした。アリエスはアリエスで豪雨林の生態の研究をするために来ていたので願ってもいないことであり、今の戦力差を見たときに勝てないとも悟っていたのでこの打診を快諾したのだ。そして眷属になったアリエスはこの豪雨林に活動拠点を移し活動していた。その彼女から会いたい人がいると打診を受けたときは驚いた。アリエスは根っからの研究者気質だ。そして人族の研究は自分自身を見ていればわかるとも言っていた。そのような彼女が気になる相手がいるというのはスクリスには信じられなかった。しかし、今の話を聞いてわかったことがある。自分よりも強いものを研究しているのだ。ハンターになる前は自分よりも強い人物がいなかったがために研究対象が自分自身であっただけなのだ。それが自分よりも強い相手ができたことでその彼を意識してみるようになったらしい。
「そんなこと私には関係ないわよ。ここに住める権利が欲しかっただけだもの」
「はぁ、あなたはいつもそうね。そんなこと言ってると連れて行かないわよ?」
「その脅し文句はやめて頂戴。私の強さが今の彼にどれだけ通用するか見てみたいのよ」
実際、スクリスもそれは興味があった。人族のままで戦って負けていても二人とも眷属になった今、差がそのままなのか、それとも眷属にした神獣種の力が反映されるのか。この結果次第では眷属ももっと慎重に今後選ばねばならなくなる。もともと人族を眷属にする気はもうないのだが今回の結果次第では変わってくるとスクリスは思っている。これはまだアリエスには言わずにユグノリアに向かう準備を始めた。
海神龍オシーアはもう出る準備ができていた。他の神獣種とは違い、普段からモンスターの姿で生活している。そしてオシーアの棲み処であり領域でもある神海に大きな影が浮かんでくる。彼こそが海神龍オシーア本人である。水面に顔を出しそのまま陸地に近づく。大きさは50mを超える。その巨体が縮んでいきやがて人型になる。かなり高齢の男の風貌であった。魔法師のような杖を持ち、格好は一昔前魔法使いと呼ばれていた時代の格好である。今の時代ではあまり見かけなくなったが高齢の風貌であるため疑いは持たれないで済む。彼は眷属を連れずにユグノリアに向かい始める。彼の眷属は海棲モンスターであり大きさも地上のモンスターの数倍あるものが多い。そして人型に変化出来る者がいないので仕方なく一人なのだ。
「ふう、これから一人旅か。お前ら!わしが留守の間頼むぞ!」
神海からモンスターの咆哮のようなものが響き渡る。オシーアを送り出すために眷属のモンスターたちが全員近くに寄ってきていた。そして少し離れた孤島から火魔法が空に放たれる。孤島に住んでいるエルフたちである。彼らは海神龍オシーアの庇護下に孤島に住んでいるので無事を祈って毎回離れるときは火魔法を空に放つのだ。こうしてこの大陸に住む神獣種の四人が集結しようとしていた。
ハンター協会本部のある国、フィスティリア。ここにはつい先ほど帰ってきた人物が机に向かって頭を悩ませていた。
「えぇ~、ハル君も眷属になっちゃったのかよぉ。アリエスもついこの間なったばっかりだってのに。しかも直接僕に言わずに組合長にだけ言ってユグノリアに行っちゃったのかぁ。僕、神狼様苦手なんだよなぁ。かわいい顔して多分一番強いしなぁ。それで眷属になったのはハル君って。もう嫌だわぁ~」
アランは神獣種と敵対したときに対抗できると判断したものを神級にしていた。そして今の筆頭はハルだった。他の神級ハンターよりも物分かりが良かったので話の窓口としては完璧な人物であった。その彼が神獣種の眷属になってしまったのだ。よりにもよって神狼の眷属に。
「しかももう神獣会合の時期かぁ。砂海の調査でサンドリアに行ってたから残っとけばよかったぁ。僕も準備しなきゃな」
アランは自分の行動がかなり裏目に出ていることに嘆きながら山積みになった書類に目を通しずつまたサンドリアに行く準備を始めた。




