摸擬戦
一回目の摸擬戦を危なげなく勝利しハルは次の竜人と摸擬戦をしていた。先ほどとほぼ変わらない実力であるためハルには勝てないがそれでも一回戦いを見ているため一回目よりも善戦していた。ハルは未だに肉体強化をしていない。竜人は開始と同時に使っているのだがそれでもまだハルには届かない。
「肉体強化も施しているのになぜ届かない!」
ハルは身体能力が元々高い。そこにリルの眷属になったことでさらに向上していた。素の身体能力で今は王獣種の攻撃を受けずに倒すこともできるだろう。こうして次々と竜人を倒していく。こうして数人を倒したあと、次はルードの順番がきた。
「私は前回何もできずに負けてしまった。今回はそうはいかない。かなり戦い方を見せてもらったからな」
「いい摸擬戦にしよう」
こうしてハル対ルードの摸擬戦が開始した。ルードが素早く肉体強化をかけて走り出す。楕円を描くようにハルに肉薄する。今までの戦士とは違い正面から戦おうとはしていない。本気で勝ちに来ているのだ。しかしハルはその動きに合わせてルードを正面に見る。そこでルードの一振りを受け止めた。肉体強化しているルードと強化系は何もしていないハルが剣を打ち合う。それでもハルのほうが手数が多くなってきている。単純な力ではルードのほうが強いだろう。そこに肉体強化までしているのだ。それでも手数はハルのほうが多く、ルードが押されている。ルードに焦りが見える。他の観戦している竜人たちも驚いている。
「ルードの肉体強化状態であれだけ押されるのはなかなか見ないな」
「ああ、力ではルードのほうが優勢に見えるのだが攻めあぐねている」
ハルはルードの剣をうまくいなしている。そしていなした後にできた一瞬の隙に一撃を入れている。これは歴戦の猛者であるラグルも驚いていた。
「これはこれは。なかなかすごいことをしているな。力ではルードが勝っている。しかし技術の面で段違いにハル殿が強い。しかもまだ本気ではないな。魔力が一定すぎる。肉体強化をしていないか」
そのラグルの分析を聞いた兵士たちは驚愕した。彼らはハルがに行く体強化していることを疑っておらずそれでも技術で勝っているからルードが劣勢になっていると思っていた。しかし現実はハルが何もしていないのだ。これは兵士たちに驚きと恐怖を与える。
「そこまでだ!」
こうしている間にルードは地面に転がされていた。ハルは未だ無傷。ハルと摸擬戦した竜人たちは全員が肩で息をしているのだがハルは呼吸を乱してすらいなかった。
「ここまでとはな。ではハル殿。次は私と手合わせ願います」
ついに現兵士長であるラグルがハルとの摸擬戦を所望した。ハルはそれに応え、一番大きな訓練場に移動した。そして作戦立案などの講習を受けていた新人たちも集められた。この戦いは見るだけでも価値があると上官の竜人が判断したのだ。ここは闘技場としても使っているため観客席がある。そこに兵士たちが集まってくる。この闘技場の上段部分には外部から見えない阻害魔法がかけられている場所がある。そこに空神龍バンゴスタと神狼リルがいる。彼らもそこで観戦することにしたようだ。
「ここに移動したということはラグルめ、本気でも出すつもりか。これ以上我が戦力を見せたくはないのだがな」
「まああまり変わらないんじゃないかしら。どうせハルが勝つのだから」
「お前はどう見る、ドーグよ」
「はい、ラグルは私の息子であり現兵士長ではありますがこれは分が悪いでしょうな。私でもハル殿には勝てるか怪しいので私に未だ土を付けていないラグルでは難しいかと」
ドーグはラグルの実父であり剣の師匠でもある。勝ってほしい気持ちはあるが多分勝てないと評価する。
「さて、始まりますぞ」
こうしてユグノリアの兵士長とハルの摸擬戦が始まった。今までにない静かな始まりである。二人は見つめ合い、止まっている。二人の間ではかなりの駆け引きが行われていることだろう。その結果最初に動き出したのはラグルだ。肉体強化は終わらせてある。目にも止まらぬ速さでハルの眼前に現れる。そのまま横に一太刀入れる。ハルは剣で受けることに成功したがそのまま後ろに吹き飛ばされた。
「ふむ、本当に反応速度が異常だな。これにガードを間に合わすか」
土煙が晴れてきてハルが立っている。今までの摸擬戦で汚れ一つなかった服は土で汚れている。しかし体に傷はないようだ。
「ふぅ。今のは速かったな。流石兵士長だ。今までは肉体強化使っていなかったが今回は使おうかな。あそこでリルも見ていることだしな」
ハルは認識阻害の魔法がかかっている反対側をしっかり探知していた。認識阻害も完ぺきではなく魔力は漏れてしまう。それでもかなり抑えられているので場内にいて感じ取れるハルのほうが異常であり、決して技術が低いわけではないのだが。ハルは今日初めて肉体強化魔法を使用した。それを感じ取ったラグルはすぐさま詰めてくる。肉体強化魔法は発動したときが一番の隙になのだ。しかし、ハルは今まで極限状態を潜り抜けたハンターだ。この程度ならば動きながらでも発動できる。そして対人ではこの方法がバカみたいに効く。隙ができるのが常識である以上そこを戦いの上級者であればあるほどそこを突こうとする。それがハルの狙いなのだ。
「これは上手いですな。自身の肉体強化を囮に使いましたな。魔法発動スピードも見事です」
ドーグもこの技術はできる。伊達に長く生きていないのだ。それでもラグルにこの技術を見せたことはない。そもそも今の時代にこれを使う状況などなかったのだ。モンスターで使うことはあってもそれは効率的に狩りをするためであって欺くためではない。そして今、争いはなく秩序が保たれている状況だ。この技術は過去の遺産なのだ。今後使わない方が望ましいものである。ハルはこれを自然にマスターしたがそれほど戦いに明け暮れるものも今はほぼいないだろう。
「なんだと!?」
ラグルは隙をつくために踏み込んでいた。しかし、蓋を開けてみるとハルは既にそこにはいなかった。ラグルはハルを探す。そして気付いた時にはすでに手遅れであった。ラグルの背後で剣を振り上げているハルがいる。
「そこまで!」
認識阻害の魔法を消し去り空神龍バンゴスタがそう告げた。こうして竜人とハルの戦いはハルが攻撃を受けることなく終了した。




