砂上船での生活
竜人たちの誤解を解きついにユグノリアに向けて出発した。出会いの一件から竜人たちの態度が急変しハルに向けて敬意を払っている。単純な強さ、そしてリルとの婚約が引き金になっているのだろう。ハルはこの状況に驚いていた。
「こんなすぐに態度が変わることあるんだな。やっぱりまだ幻獣種とかはわからないことが多い」
「まあどれだけ人に近くなっても彼らの本質はモンスターですからね。自身よりも強いものには屈するものです。まあ私もそのモンスターではあるので似たようなものです」
リルは単純にモンスターと人の違いだと説明する。ハルは忘れそうになるがリルもモンスターでありその最上位の存在である神獣種なのだ。そのモンスターと婚約のようなものを結んでいるハルは自分も大概だなと思った。砂上船では二人には部屋が与えられている。今まではリル一人か眷属の幻獣種を数人連れてくるだけでありリルは一人部屋だったが彼らは一部屋に集められていた。それが今回はリルの要望でハルとの二人部屋になっていた。元々神獣種用に広い部屋が作られているのだがベッドは一つだ。しかし砂上船にいたドワーフが新品のベッドをマジックバッグに入れてきていた。これほどの物を入れることができるものはかなり数が少ないのだが彼らにとっては当たり前のようだった。それをハルはドワーフたちに聞いていた。彼らは丁寧に教えてくれた。
「これはユグノリアで作られているものだ。ユグノリアから世界を見て知見を深めるドワーフやエルフがいるからマジックバッグの開発がかなり進んでいるんだ。だからこれはそんなに珍しいものじゃない。ユグノリアなら素材が大量にとれるしな」
マジックバッグの素材は空間魔法を付与することができることが最低条件なのだが世界樹はどの魔法にも適性がある。ブラックメタルの木材バージョンのようなものなのだ。そしてその素材の量に空間の大きさが比例するのでブラックメタルでは重すぎてバッグの装飾品にするのが精々なのだが世界樹は普通の木材よりも軽いためそのもので木の箱を作れる。そしてそれを大きくすれば大きな物を入れることができる。これがマジックバッグで大きなものを入れることができる理由だ。ハルはその話を聞いてユグノリアでの楽しみができた。ドーボンやエミーへのお土産が決まったようなものである。
「世界樹が素材になるなんて思いもしなかったな。なかなか大胆なことをする」
「まあここに住んでかなり長いですし使えるものは何でも使うんでしょう。ユグノリアはかなり自然豊かな国ですが今渡っているこの砂海をみてわかるように国の外は何にもないですから。なので国内で全てを完結できるようになったのだと思いますよ。あと、世界樹は軽いんですけど頑丈なのでユグノリアの家の建設でも使われているんですよ。なのでタンスなども壁に扉のようなものが付いているだけなんですよ。そこを開けると空間魔法で収納できるようになってます」
ハルはそのような使い方をして世界樹が平気なのか疑問に思ったのだがそれはリルが平気だと言った。むしろ定期的に伐採もしているらしい。なんでもこれ以上大きくなることはないのだが再生能力が高いらしい。枝は大森林の奥地にある巨大な木ほどあり、これを木材として使用しているのだが伐採せず利用もなしだと世界樹が栄養を吸いすぎてしまい硬くなって加工が困難になってしまうらしい。そうすると今度は周りの自然にも影響が現れる。世界樹の根に生えている木々が栄養過多で枯れてしまうのだ。そして硬くなっているためそこにはもう木々が生えてこなくなり、食料が取れなくなってしまう。そうするとユグノリアは滅んでしまうので空神龍バンゴスタがこのような政策をしだしたのだ。彼も大事な棲み処を追われるのは嫌なのだろう。神獣種は好んだ場所にずっといることがほとんどでこれはどの神獣種にも言える。リルも大森林から離れる気はないらしいのでモンスターの縄張りの意識が残っているのだろう、そのようなところはしっかりモンスターである。リルとそのような話をしているとドアをノックする音が聞こえた。
「ルードです。お食事をお持ちしました。開けてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
ルードはハルが負かした槍使いの竜人だ。その彼がドアを開けて入ってくる。そしてハルとリルの前に配膳し部屋の外にいることを告げてそのまま出ていく。いまだに顔に恐怖が見えている。ハルはまったく気にしていないのだがリルが彼が来ると不機嫌になるのだ。なので違うものが来ていたのだが今回は彼以外いなかったのだろう。そろそろリルも機嫌を直してほしいものだとハルは思っていた。自分のために起こっているので嫌な気はしないがこれではハルも気まずい。
「リル、そろそろ彼に対してその態度やめてやってくれないか。俺はもう気にしていないし彼も反省していると思うぞ」
「そういうわけにはいきません。バンゴスタに文句を言ってそこで彼の謝罪を聞きます。それで初めて許せるというものですよ」
どうやらこの砂上の旅が終わるまでは許す気はないらしい。ハルとしては彼の槍術は気になっているので聞いてみたいのだがこの様子では相当先になりそうである。そもそも他の神獣種の護衛任務に付くほどのものだ。弱いわけがない。そんな彼の知識をハルは手に入れたかった。タイマンの戦いではハルの勝利ではあったが知識欲は別であった。この話をし続けるとリルの機嫌がどんどん悪くなっていくので早々に切り上げてユグノリアに着いてから話を切り出して話を逸らすのであった。




