砂海にて
ハルとリルの二人は大森林を抜けて砂海に着いた。
「これが砂海か。初めて見たな。それであれが世界樹か。上まで見えないぞ」
砂海に来て嫌でも目に入るのは世界樹だろう。世界樹の上は雲に隠れていて一番上まで見ることができない。そしてハルはなぜ砂海と言われているのか改めて認識する。
「これが本当に砂なのか。感触は砂なのに手を入れる感じは水みたいだ」
「これが普通の砂のように固まらないのは地中からガスが出ているらしいですよ。それがこの細かい砂に流れを作って固まらないようになっているみたいです。そのガスに多分の栄養があるらしいのですがそれを世界樹がすべて吸っているのでここら一体が砂漠なんです」
栄養がすべて世界樹に吸われているためにここが砂漠になっている。そして中でガスが循環することで沈んでいくらしい。しかも栄養をすべて残らず吸うらしく砂が粒子のように細かくなっているようだ。
「あの根元に国があるっているのも俺的には驚いているんだがな」
世界樹のふもとにはエルフ、ドワーフ、竜人の国があるらしい。竜人という種族は元々存在していなかったのだが空神龍が竜を眷属にした時に幻獣種になりその時の特殊進化が竜人である。リルが眷属にした狼が人型になれるものがいるのと理屈は同じらしい。この三種族と空神龍が住んでいる国が『ユグノリア』という。
「まあ元々エルフの国だったんですけどね。それをバンゴスタがたまたま立ち寄ってそのまま住んでるんです。最古の神獣種の一人ですからその時はまだ領域などもなかったですし」
リルが懐かしそうにそう語った。なんでも砂海に棲むモンスターがかなり脅威だったらしくそれを空神龍バンゴスタが解決したらしい。今では脅威になりえるモンスターの進化を事前に防いでいるため、狩りに出ても近場なら砂上船を壊されることはないらしい。
「なるほどな。そうして今の国ができていったんだな」
「はい、その頃は国じゃなく里とか村とかのレベルですけどね」
そのような話をしていると砂海に船のようなものが見えた。こちらの方に向かってきている。船上を見ると竜人の兵士と数人のドワーフが乗っている。
「迎えが来たようですね。予定よりもかなり早く来たのにさすがはバンゴスタですね」
どうやら迎えのようだ。しかし船員はなぜか慌ただしい。武装もし始めている。リルもそれを見ながら不思議そうにしている。
「おい貴様!神狼様から離れろ!」
竜人の一人がそう言いつつ船から飛びハルの前に来る。槍を構え戦闘態勢をとっている。
「ちょっ…!」
リルが止めようとしたがリルが言葉を発する前に竜人がハルに突撃した。この竜人も例外なく幻獣種であり戦闘能力は高い。ハルに向けて槍を突いた。それをハルは避ける。ハル自身は戦闘する気はないためこの後の追撃も躱してく。そうして相手の動きを止めるため刀に手をかけた。それを見た竜人は後ろに跳んで距離を取る。
「獣人族の生き残りがいたとは!私も言い伝えしか聞いていないが聞きしに勝る戦闘能力だな」
どうやら竜人はハルが獣人族の生き残りと勘違いしているらしい。獣人はエルフやドワーフと同じ古代人種であるのだが今はいないとされている。これは昔、神獣種たちを殺してこの大陸の頂点に立とうとし、それを今の神獣種たちに咎められたのだが彼らの戦闘力が高く、王の言うことが絶対だったため全滅まで戦い続けたらしい。その獣人が今目の前にいるのだ。
「ちょっと待ってくれ。俺は獣人族の生き残りじゃないぞ。そこにいるリルの眷属で元は人族だ」
「そのような言い訳ができると思うな!この俺が討ち取ってくれる!」
話を聞いてくれる雰囲気ではなかった。ハルは仕方なく切絶を構える。竜人が槍を突いてくるがそれを刀でいなし首元に突きつける。
「俺が本当に殺す気ならこのまま振り抜いてるぞ」
ハルは刀を鞘に納める。そこにリルの怒鳴り声が響いた。
「なぜ!私が説明する前に攻撃してきたのですか!力量もわからないんですか!」
ハルも初めて見る姿に少し驚く。そして直接言われている竜人は固まって何も言えなくなってしまっていた。神獣種の威圧をフルに使った説教だ。流石の幻獣種でもこれには耐えられなかったらしい。
「彼の言っていることは本当です。私の眷属で名前はハルと言います。彼の戦闘力を見て私が眷属にしたのです。未来の夫でもあるんですよ。それをあなたは…、これはバンゴスタに報告しますからね」
竜人の顔が青ざめていくのがわかった。見た目は人の形をした竜なので色は変わっていないのだが見てわかるほどの絶望した顔だ。
「というわけでだ、改めて俺はハル。リルの眷属だ」
こうしてハルは空神龍の眷属である竜人の勘違いによる攻撃をさばき戦闘力の高さを周りで見ている者たちに示した。これがこの後の行動に響いてくるとはハル自身も思っていなかった。




