砂海を目指して
ハルたちの大森林への引っ越し作業は終わりが見えていた。あとは鍛冶、付与作業を行う作業場の設営だけになっていた。毎朝の日課である剣の稽古が終わりハルとリルの二人は家の中に入るとエミーが朝ご飯の支度を済ませていた。ドーボンも起きていてエミーの手伝いをしていた。四人が席に着き朝食が始まった。
「毎日朝食ありがとうございます」
ハルはエミーに感謝を告げる。前にもちょくちょくご飯をごちそうになっていたのだがハルはエミーの手料理が好きなのだ。普段はハンター家業をしているのでほとんどが自炊であり誰かの料理を食べるということがないのでたまにある自分以外の料理に喜びを感じていた。リルもおいしそうに食べている。リルの眷属で人型になれるものは数人いるのだが彼らはモンスターなので基本料理しない。モンスターのまま食事をする方が楽だったのだ。リルはほとんど人型になって過ごしていたのだが眷属に合わせた食事をとっていた。ハルたちが来てエミーの料理を食べた眷属たちは感銘を受け、今はエミーの指導の元、料理を学んでいる。モンスターの形のままの者たちも幻獣種であるため意思疎通はできる。人型にはなれないため焼くなどの簡単な物しか食べれないがそれでもうまいと言いながら食べていた。朝食を食べ終わった後、ドーボンとエミーは作業場の作成をする。リルは家の清掃など自分のことをしながら過ごし、ハルは狩りに出かける。このような場所のモンスターは強力なモンスターが多いがハルにとってはそこまで脅威ではないので一日に数匹を狩って食料を確保している。ハルやドーボン、エミーやリルは人と同じ量でいいのだがモンスターの風貌である幻獣種たちはエネルギーの燃費が悪い。そのためハルたちよりも大量に食事が必要なのだ。なのでハルは幻獣種たちと連携しながらコンスタントに狩りをしていた。今日も狩りを終え家に帰るとリルが迎え入れてくれる。そうして夕食が始まるのだがその時にリルが神獣種の会合の話をし始めた。
「もうすぐ神獣種の会合が行われます。場所は世界樹。空神龍バンゴスタの領域です。いつもハンターが来る方の逆にいくと砂海があります。そこまでいけばバンゴスタの眷属が迎えに来てくれることになっています。砂海は砂上船を使用して渡ります。眷属たちはその護衛ですね。砂海には魚類型のモンスターが特殊な進化をして棲んでいるので」
砂海とは世界樹に栄養が吸われて栄養が無くなった世界樹の周りの砂漠のことである。すごく細かい砂で足の踏ん張りが効かず沈んでいってしまう砂漠で歩くことができないため砂上船という砂の上を進む船を使用する。空神龍の眷属は空を飛べるのでこの船は完全に客人用である。世界樹のふもとにはエルフとドワーフの里があり彼らが作製している。ドーボンとエミーはここの出身ではないが二人の里から世界樹のふもとの里に行く者もいるので存在は知っている。全く知らなかったのはハルだけである。砂海はもちろん知っているし世界樹も知っているが里があることは知らなかった。そもそも砂漠に住むというのがハルには想像できていなかったのだ。世界樹のふもとは周りの砂漠とは程遠いほど自然豊かであるのだがこちらから砂海を挟むともちろん見えない。なのでハルは知らなかったのだ。しかも神獣種用の砂上船が来るのは大森林側であり、人族が住んでいる場所はそこから世界樹を挟んで反対側なので人族が作製している砂上船以外聞いたことがなかった。そしてハルの依頼は大森林が多かったため砂海には行ったことがないのも理由の一つだった。
「いつごろ出るんだ?言っちゃなんだが俺は砂上船に乗ったことすらないぞ。戦闘なんてなおさらだ。少し期間を長めに見てほしいんだが」
ハルは真っすぐそう伝えた。戦うことはできるだろうがうまくできる自信はあまりなかった。そして慣れるには時間が必要だということも。なので早めに出て軽く戦闘訓練を行いたかったのだ。これからの長い人生の中で行く機会も増えるだろう。ならば早めに慣れようという算段だ。
「会合自体は二か月以上先です。大森林を抜けるのに大目に見て二週間くらいだと思うので一週間後にでも出ますか?私は朝の稽古とたまにハルについて行く狩りくらいしかすることがないのでいつでもいいのですが」
基本的に神獣種は眷属たちにもろもろをやらせてしまうので自分自身は特にすることがない。幻獣種が神獣種に進化した場合は今存在する神獣種たちで試練という名目で定期開催の会合とは別に会合を開催する。これは今誰のものでもない場所を領域にするのかそれとも今誰かがいる領域が欲しいのかの確認のためだ。これでほしいところが被ると面倒ごとになる。そのため同種の神獣種ができる前に眷属にして神獣種にしないようにしているのだ。神獣種の眷属魔法で幻獣種になった場合は神獣種に進化することはない。しかし王獣種から幻獣種に自力で進化してしまうと神獣種に進化する可能性が出てきてしまうのでめぼしい王獣種を幻獣種に眷属魔法で進化させているのだ。リルの眷属が少ないのはハルの活動範囲ともろ被りしていたのと人族が住む場所から一番身近という理由がある。ハンターを派遣しやすいのだ。そして派遣しなければ人族の領域が狭くなってしまうのでリルの眷属は少ない。ハルが頭角を現す前まではそれなりに他の神獣種よりは少ないが眷属を増やせていた。しかし、ハルが出てきてからはの数は0だ。そのような理由もありリルはハルを欲した。そして今ハルはリルの眷属になっている。今までの負債がチャラになり同種や同じ環境に棲むモンスターから幻獣種が生まれない今の環境はリルにとってはとてもいいのだ。
「それじゃあ一週間後に出よう。行くのは誰が行く?」
「私とハルの二人で平気でしょう。そもそも幻獣種であるものたちを連れて行く方が私たちの負担になりかねませんし、エミーさんとドーボンさんには工房を仕上げてもらいたいですしね。人型になれるものたちにも手伝ってもらってますが私が行けば数人の手が空くので彼らの手も回せます。なので私とハルの二人で行きましょう」
「わかった。それじゃあ準備もしつつ刀の扱いも慣れていこうな」
こうして世界樹にて行われる神獣種の会合に向けての準備が始まった。




