ハルの選択
結論は案外簡単なものだった。
「まず、倒して構わないわ。もうあなたが私の眷属になるのならば王獣種には用がないもの。そして、狼になるかどうかですけれど純粋な狼にはならないわ。私のような姿にはなると思いますけど」
狼にはならない。しかし耳に尻尾は生えるということらしい。それならば大して問題ない。普段からフードをかぶっているので他人に見られるわけではないからだ。契約魔法の中の隷属魔法については使い魔を使役しているハンターがいるためそこそこわかるが眷属魔法は人族のハルからするとなんにもわからない魔法だ。それでもこの条件はかなりいい。武器の新調などに王獣種の素材をふんだんに使えるということだからだ。
「そういうことなら俺は問題ないがただ強い奴を眷属にしたいだけってのが理由なのか?それとも強いやつじゃないと駄目な問題でもあるのか?」
「あなたに眷属魔法をかけたい理由は強いから。そしてその理由は私の夫になってほしいのよ。王獣種からの進化ではさっき案内した狼くらいの強さが関の山ですもの。あんな貧弱な奴の血を混ぜたくないの。狼系の神獣種は私だけだから」
(待て、こいつなんて言った?夫?初めて会った俺を?また意味が分からなくなったな)
「夫?俺が?それをなぜあんたに決められなくちゃいけないんだ。しかも種族が違うのに子を成せるのか?ああ、そのための眷属魔法か」
そう、種族を合わせるための眷属魔法なのだ。神獣種が使う眷属魔法には狼系モンスターの王獣種に対して新たな力を与える魔法と他の種族に対して行い種族を変える二種類があり、同じ名前ではあるが用途が全く違うのだ。
「眷属魔法を使う理由はそうね。あとさっき初めて会ったわけだけれど私は全く問題ないわ。自然界では強いものの子種を欲しがるのは普通じゃないの。人に近い形になっているけれど私は神獣種なのよ。そこは問題じゃないのよ。あとは私があなたを落とすだけよ」
ここは自然界に生きるモンスターと人族の違いが大きく出た。ハル自身そのような相手はいないのでぶっちゃけ問題ない。眷属魔法による進化の影響がどのようなものなのかはわからないがここらで隠居するのも悪くないなとその時ふと思ってしまった。ハルは生活に今は全く困っていない。強いモンスターを狩ってその素材を売ったり報酬をもらうだけでそこそこの金になるからだ。なので本格的に断る理由に困ってしまった。
「俺は今の生活で困っていることはないんだ。だからすぐに決断はできない。王獣種の討伐依頼で今回この森にきているわけでその報告もしなきゃいけない。だからこの件は一回持ち帰らせてくれないか?もちろん、断るにしても受けるにしてももう一度ここには来よう」
リルは少し困ったような笑いを見せた。
「なるほど。すぐに断られなかったことは喜ばしいことです。でもそんなに時間がないのですよ。森をここまで走り抜けても一週間はかかります。そして眷属魔法をかけた場合慣らすまでかなりの時間がまたかかってしまいます。普段の生活は問題ないですが魔力などが変質していまうので戦闘に影響が出ます。これは本人の適応能力次第で変わってきますが帰ってきてからでは不安が残ってしまいます。なので今決めてほしいのです。ここまでいろいろ言いましたが単純にあなたを早くほしいのが本音ですけどね」
完全に逃げ道を潰してきている。ハルは組合に所属ている以上今以上に好き勝手することに少し引け目を感じているのだ。組合長が聞いたら今更どの口がとでも言いそうだが。ハルはまた少し黙り込み考える。それをリルは微笑んで見守っている。そして長考していたハルが口を開く。
「種族自体が変わるとのことだがそれに伴うメリット、デメリットを聞かせてほしい。これで決める」
ハルは覚悟が決まったらしい。結局損得で決めることにしたのだ。ハルは今までもそうやって決めてハンターをしてきた。なので今回もそうすることにしたのだ。
「ではまずはメリットから。一番重要なのは私の夫になれるということですかね。ふふ、私かわいいですし。そして今まで肉体強化魔法で動いていたスピードを上回るスピードで動けますね。これは種族が変わる関係で肉体自体が強くなるからです。そして普通の人ならメリットなのですがあなたには関係ない話ですが私が使う属性の魔法を使用可能になることです。私は使えない属性がないので本来ならメリットなのですがあなたは既に使えているので関係ないですね」
(なるほど。動きの速さが上がるには確かにいいな)
「次にデメリットです。あなたになってもらう種族は獣人種です。今はほぼいない種族ではありますが分類的にはドワーフやエルフと同じ古代人種ですね。そして肉体を作り変えるのでそこに痛みが生じますね。これは人によってさまざまらしいのですが痛みに苦しまなかったものを私は見たことがないです」
「そこまで言うのかよ」
「隠し事はしない方がいいと判断したので。ここで進化して逃げられても嫌ですし。逃げられたら人族を滅ぼしてしまいそうです」
いきなり変なこと言い始めた。そっちの方がよっぽど脅し行為ではある。
「まあ大してデメリットが少ないな。これならいいかな。古代人種ということは寿命は伸びるのか?」
「伸びるというより私の魔法上では眷属になるのでほぼ無くなります。流石に死にはしますが寿命では少なくとも死にませんね。これをデメリットと受け取るかは人次第です」
「なるほどな。まあ俺はデメリットには感じなかったな。この条件ならまあいいだろう。これで晴れて独り身じゃなくなるわけだな。なんか新鮮だ」
「前向きになってくれて私もうれしいですね。それでは眷属魔法をかけます」
「ああ。頼む」
ハルの足元に魔法陣が展開される大きな魔力の流れを感じる。頭痛がひどくなってくる。全身の骨がゆっくり折られていく感覚もある。声にならないほどの痛みを感じながらハルは意識を飛ばした。




