第35話 逆転の一手
「開門」
レイチェルはそう唱えると同時に指をどんどん離していく。
「罪獄の八寒!!」
レイチェルの繋げた空間から今までとは比べ物にならないほどの冷気が流れてくる。
炎を出して暖めたいが、湿気て出てこない。
くそ、流石に寒いぞ…
「フフフ、炎も出せないようね。この冷気は地獄から呼び込んだのよ」
「死者の世界からどうやって呼んだ?生者とは繋がりようもない世界だぞ!」
「一番最初に貴方と戦って死にかけた時、むこうの世界と一瞬つながることができた。けど、完全には掴めなかった」
「1回戦、2回戦を通して再び掴むことができた!そして、開くために貴方に一方的な攻撃を演じさせることで自分を死の淵に追いやり、完全に繋がり開くことができた!」
レイチェルは嬉々とした表情でそのような事を語っていた。
俺はその間にもなんとか火種を起こせないか試行錯誤していた。
このまま何もできないでいると、負けるどころか死ぬことになる。
いや、正確に言えば死なない。
なぜなら、この空間は致命傷を受けると一時的に仮死状態になる魔法が掛けられていて、その後すぐ蘇生するからだ。
だが、一歩一歩確実に近づいてくる"死"の予感が俺をさらに焦らせていた。
「随分すました顔してるけど、内心とても焦ってるでしょう?」
「それはどうかな!」
俺は近くにあった石に刀身を振りかぶって、思いっきり叩きつけた。
すると、バチッと火花が少し散った。これを素に火を起こそうとしたが、すぐに消えてしまった。
「クソッ!これでもダメか…!!」
「そんなことしても無駄よ。もう貴方に炎は起こせないのだから!」
レイチェルの強烈な蹴りで俺はふっ飛ばされた。
氷で硬くした蹴りは想像より重かった。
「……ペッ。少しもらっちまったが、次はこうはいかねぇぞ」
口内の血が混じった唾を吐き出し、俺は立ち上がった。
啖呵切ったはいいものの、現状はただの強がりに過ぎない。
俺はまだ力を隠している。けどな……使いたくねぇんだよ。あの"力"を手にしていいと思ったことなんて一度もねぇ……俺の後悔そのものだ……!
「そうね。こんなぬるい攻撃はこれでおしまいだもの」
「氷雪氷華·種芽」
レイチェルは手のひらに収まるほどの氷の塊を作り出した。
それが弾けて、周囲に散ると、地面から芽が生えてきた。
「氷雪氷華·蕾」
その芽たちが今度は急成長を始め、茎、葉、そして蕾というようにあっという間に開花の手前まで成長した。
それに応じてどんどん気温が下がっていっているような気がする。
「氷雪氷華·咲乱」
急成長した蕾が一斉に開花し、花開くと共に花粉のような氷の粉を撒き散らす。
先程よりさらに気温が下がった。
氷の粉も体のいたるところについている。
「!?なんだ…!粉のついたところが凍っていっているのか…!」
粉のついたところが徐々に凍っていっている。
このままでは体の表面だけでなく、体内の体温調節にまで影響が出る。
今、外で炎は出せないが中では出すことができる。それで体内温度を適切に保っているが、それもじきに冷気に負けてしまう。
「今…は、とにかく……動かねぇと……っく」
なんとか動こうとするが、その意思に反して体が全然動こうとしない。
刀で杖ついて立ってるのがやっとの状態だ。
「もう満足には動けないでしょう?そろそろ終わりにしましょう」
そう言うと彼女は氷で刀を作り、彼女の最後の猛攻撃が始まった。
シンプルな刀の連撃。ただそれだけだが、今の俺は食らいついて防御するのがやっとだ。
幾百の連撃を捌いた所でついに限界が来た。
その一撃で刀を弾かれてしまった。
俺も覚悟を決めないといけない。負ける覚悟を。
「……違う」
負ける覚悟じゃない。"力"を使う覚悟だ。
ここで負けては八雲に申し訳が立たないからな。
すまないが使わせてもらうぞ!
「さぁ、もう防御はできないわよ?」
「………」
「フフ、神殺しをした人間は神話や伝説のお話にしか出てこない。けど、今から行われる神殺しはそんなフィクションではなく、現実の話になるの。貴方を殺すことで」
「………」
「覚悟はできてるみたいね。立派に戦った貴方を私は尊敬するわ。……長くなったわね、それじゃあ」
「さようなら」
レイチェルが刀を振るったまさにその時、その刀を弾くように炎が立ち上った。
「!まさか、いやありえないわよ!炎なんか出せるはずもないし、そもそも動ける体じゃ……!?」
レイチェルの視線の先には、体から電気を出しながら、炎も同時に出している、今までとは雰囲気もまるで違う迦具土が立っていたからだ。
もはやそれを迦具土と呼んでいいのかさえ分かっていない様子だ。
「貴方……なぜ電気を?電気なんて出せるはずがない!だって貴方は火の神じゃない!!」
「火雷神……俺が"神殺し"によって得た力だ」
「神殺し!?」
「そうだ。そして、この力は俺の"後悔"そのものだ」




