第33話 親友として 2
私は名家に生まれた。
桃源郷には昔から続く名家が存在している。
ウィンフォックス家、アイスフィート家、八坂家、稲村家。
昔はもっとあったらしいけど、没落してこれだけになってしまった。
稲村家も最近没落して名家は3家だけになってしまったけどね。
私とレイチェルちゃんが出会ったのは今から10年前。
ウィンフォックス家とアイスフィート家の交流の時に出会った。
彼女はその時から少しやんちゃだった。
「貴方、名前は?」
「レイナ…レイナ·ウィンフォックス……」
「レイナちゃんね!よろしく!」
「こちらこそ……レイチェルちゃんだよね…?よろしく」
「あら?よく私の名前知ってたね?」
「事前に両親から聞いてたから、知ってる」
「そうだったのね。さぁ、こっちで遊びましょ!」
同年代の子と対等な立場で話したのはこれが初めてだった。
何もかもが新鮮。レイチェルちゃんは人見知りな私とは違って、明るい子だった。
そんな彼女が私の初めての友達だった。とっても嬉しかった。
彼女とはそれからほぼ毎日遊ぶようになった。
そんなある日こんな提案をしてきた。
「レイナちゃん、私と魔法の出しあいこしましょ!」
「うん!いいよ!」
特に断る理由も無かったから、その提案に乗った。
「じゃあ、まず私からね!」
レイチェルちゃんは意気揚々と手を構え、小さい氷の粒を出した。
「すごい!レイチェルちゃんは氷の魔法が使えるんだね!」
本心からでた褒め言葉だった。この時の私は魔法を知っているとは言え、自分の魔法だけしか知らなかった。
だから、こんな立体物を作れることも氷の魔法がある事も知らなかった。
5歳ぐらいの私には衝撃の出来事だった。
「次はレイナちゃんの番ね!」
そして、次は私が魔法を繰り出した。
この時の私は魔力量も同年代の子に比べ多く、自分の魔法に対する知識、技術を少し多く知っていた。
"この時まで"は私のほうがレイチェルちゃんよりも上のレベルにいた。
「すごい!すごいすごいすごい!!」
レイチェルちゃんは私の魔法に対して目をキラキラさせて魅入っていた。
彼女の受けた衝撃は私のものよりも倍以上のものだっただろう。
この経験が彼女の負けん気と努力を作り出したのだ。
次の日からレイチェルちゃんは遊びに来なくなった。最初は今日は忙しいのかな程度にしか思ってなかったけど、1週間それが続いたから心配になった。
「レイチェルちゃん大丈夫かな……?」
そんな事を考えていた時、突然レイチェルちゃんが訪ねてきたのだ。
「レイナちゃん!今から遊びましょ!」
「レイチェルちゃん!?1週間何してたの?私心配だったんだよ……?」
「ごめん!魔法の練習いっぱいしてたら1週間経ってたの」
「とりあえずついてきて!」
レイチェルちゃんに促されるまま私達は1週間前、魔法の出しあいこをした所まで来た。
「じゃあ行くよ!見ててね!」
レイチェルちゃんは手を構えると、前のような小さい粒ではなく、自分の身長の半分ぐらいの氷柱を地面から出した。
「まだまだ、これだけじゃないよ!」
寒い。少し周りが冷えてきた。それに上から白いものが落ちてきている。
「雪……?」
レイチェルちゃんの成長は私の想像を軽く超えていた。
大きな立体物の作成、天候の軽い操作。
1週間でここまで出来るようになっているとは思っていなかった。
「どう?1週間でここまで出来るようになったわ。それもレイナちゃんのおかげ。"ありがとう"!」
今思えばこの時『絶対勝てない』って思ったんだっけ
ーーーーーー
そんな彼女が今、壁として私の前に立っている。
やっぱり無理…絶対勝てない……
「あ……」
そこまで考えて気付いた。
「別に勝たなくていい……!勝たなくていいんだ!!」
私とレイチェルちゃんが初めて魔法を出し合った時も、別に私が勝った訳ではない。
あの時は勝ち負けなんて気にせず、"楽しく遊んでいた"!
「フフ、フフフ……気付いたの、私。勝たなくていい。勝ち負けなんて気にせず、楽しく遊びましょう!レイチェルちゃん!! "あの頃"みたいに!!!」
レイチェルちゃんは呆気にとられていた。
けど、これでいい……これでいいんだ……!
親友の立場を捨てない。考え方、心持ちをあの頃に戻すだけで良いんだ!
レイチェルちゃん。これが私の答えよ!!!
「ふふっ……何それ、楽しそうね…!"レイナちゃん"!!」
乗ってきてくれた………!!!
久し振りに呼ばれたわ、その呼ばれ方で!
「まずは私から行くわね! 天御鳥!!」
私が出した風が螺旋状に上へと舞い上がって行く。
やがてその風は大きな霊鳥の形へとなった。
「風切風羽!!」
天御鳥は翼で正面に向かって、斬撃のような強い風を出す。
「ぐっ……やるわね……!!なら私も翼を生やすわ!」
「氷雪翼!」
レイチェルちゃんは背中に氷で翼を生やし始めた。
氷は見る見る内に立派な翼へと変わる。
「生やしたはいいけど、まだ少ししか動かせない……」
レイチェルちゃんが翼に苦戦している間も風は止むことはなく、レイチェルちゃんの身体には切り傷が増えていっている。
「花鳥風嵐!!!」
天御鳥は更に高くへと飛び上がり、グルグルと円を描くように飛ぶ。
やがて風が強まり、天御鳥の体ごと大きな竜巻へと進化した。
「これはまずいわね……なんとかこの翼をものにしないと……」
「飛ぼうとしているけど、少し浮き上がるだけ。どうすれば飛べる……?」
「いや、違う。風……!風の使い方なんだ…!!」
「まず、浮き上がる時は風を下に投げつける感じ!」
レイチェルちゃんの身体が少し浮き、翼をパタパタさせることでその状態を維持している。
「よし!次は風を掴んで、身体を押し上げるイメージ!」
「これを続けて、上に上に上がっていく」
レイチェルちゃんはあっという間に天御鳥と同じ高度にまで上がっていた。
「前に進んだりするには、さっき上に上がった時のイメージの応用!」
レイチェルちゃんはもう完全に翼で空を飛ぶ事をマスターした。
自由に飛び回っている。
「やった!できたわ!!私、今空を飛ぶことができている!」
「さあ、この竜巻を私の起こす風で消しましょうか」
「雪風氷華!!」
レイチェルちゃんが自分の翼で起こした風は竜巻よりも強く、完全に消し飛ばしてしまった。
「嘘でしょ……!?……キャ!」
竜巻を消した風の余波が地上にも届き、私は踏ん張りが効かず、倒れてしまった。
仰向けの状態で空を見る。
今日は快晴で澄み渡った青空が広がっている。
「降参です。参りました」
私はその状態のまま、降参を宣言した。
負けた。負けたはずなのに、心は穏やかで清々しい気持ちだった。
「レイナ、大丈夫?」
レイチェルちゃんが駆け寄ってきて、私に手を差し伸べてくれた。
「うん。大丈夫。ありがとう、レイチェルちゃん」
「お礼を言うのはこっちよ。貴方のおかげで、また一つ成長できたわ。ありがとう」
「フフッ、レイチェルちゃんは変わらないんだね」
やっぱり、レイチェルちゃんは昔から何も変わってない。
相手からもどんどん学んで自分を成長させていく。
その努力も向上心も何もかも。
「レイチェルちゃん。私に勝ったってことは、次の対戦相手は………」
「………ええ。分かってるわ」
「同じ徹は2度も踏まない。次に勝つのは私よ」




