第23話 天使の加護
「ガッ………!」
血を吐く。傷は深いとこまでいった訳では無いが、技を使いすぎた。
身体が限界に近い。だが、奴は今剣を刺したことで射程内にいる。
この一刀で首を跳ねれば……!
そんな勝機を砕くように、奴の鋭い蹴りが炸裂する。
館の壁に激突する。
「八雲くん!?大丈夫!?」
アリエルが我の方へ駆け寄ってくる。
「彼の限界は近いですよぉ、お嬢さん。貴方達を殺してさっさと終わらせましょう」
「待………て………だ……誰も殺させはせん」
「そんな死にかけで何ができるんです?」
「こんな身体で……も……貴様を殺………げほっ………!げほっ………!」
「無理でしょう。そんなに血を吐いて、意識を保つのがやっとですよね?」
そうだな………お前の言う通りだ……だがな、まだ……まだ倒れる訳にはいかねぇんだよ!!
全身の力を足に集中させ、立ち上がる。
「うおおおおおお!!!!!」
最後の力を振るい、奴に一太刀浴びせようとする。
しかし、振ろうとしたところで限界が来て、それは届かなかった。
我は地面に倒れてしまった。
「八雲くん!八雲くん! 」
アリエルの呼ぶ声が聞こえる。
すまないな。我は……奴を倒すことができなかった。
「ねぇ!八雲くん! 死んじゃ………だ………め……」
声が遠くなっていく。
本当にすま……ない………
我は意識を失った。
「はぁ…やっと逝きましたか。本当、しぶとくて面倒な人でした」
「さぁ、後はあの2人を殺して全部終わりです」
「誰が簡単に殺られるもんですか!」
アリエルがベルゼブブの前へと立ちはだかる。
残ったのはアリエルとラーニャだけである。
しかし、ラーニャは怯えて、地面にへばったまま、動くことができなかった。
だから、この場で戦えるのはアリエルだけであった。
「貴方のようなか弱いお人が倒せる存在ではありませんよ? 私は」
「やって見なきゃ、わからないでしょ!」
「行け!」
アリエルはコウモリを呼び出し、ベルゼブブへと突撃させる。
無数のコウモリがベルゼブブに群がる。
「こんな物でどうにかなるとでも?」
ベルゼブブは一瞬で全てのコウモリを斬ってしまった。
彼にとっては、子供だましの様なものであり、傷一つついていない。
「なら、こう!」
彼女は、地面に流れている八雲の血を指に数滴付けると、弾丸の様にベルゼブブ目掛けて飛ばす。
それすらも、届くことはなくいとも簡単にベルゼブブは避けてみせた。
「悪くは無いですが、遅いですね」
「これぐらいの速度は無いと私には当たりませんよ?」
ベルゼブブの剣が一瞬消えた。
そして気づいた時にはアリエルの頬をかすめていた。
「くっ…………!」
「次は喉を貫きます。それで終わりです」
ラーニャは動けずにいた。その間にもどんどんアリエルは追い込まれていく。
「わ、私が動かないと………でも…………」
恐怖だけではない。自分の技が通じないことを十分理解していた。
そんな自分が行ってもなんにもならない。その考えがラーニャを動けなくしていた。
アリエルの攻撃は全て届かなかった。
そして、ベルゼブブの刃がアリエルの頬をかすめるのを見てしまった。
「!!! アリエルちゃん……! 私がここで行かないと、アリエルちゃんも失う! そんなのは嫌だ!」
彼女は駆け出す。
「次は喉を貫きます。それで終わりです」
「そんなのは許さない! 聖光!」
ラーニャの十字架は光を放つ。
だが、ベルゼブブは平然としている。
「言いましたよね、私には効かないと」
そして、ベルゼブブがひと睨みすると、また動けなくなってしまった。
「ひっ……………」
彼女は震えて、怯えている。
どうにかしようと考えを巡らせる。
しかし、何も浮かばないし、浮かんだところで行動なんてできやしない。
「だ……誰か……助けて………!」
彼女がそう呟いたとき誰かが語りかける。
「汝、信心深き者よ」
「だ、誰ですか…!」
「我は、大天使ウリエルである」
「汝に我が加護を授ける」
「ウリエル様の加護……?」
「そうである。汝はエクソシストの中でも特異な存在。天使の加護を授かり、その力を行使する事ができる」
「それが師匠様の言っていた才能………!」
「そうである。そして汝の呟きは我を呼び出したのだ」
「今、汝の前にいるのは大魔王ベルゼブブだな?」
「はい」
「奴を聖なる我が光で焼き払ってやる」
「十字架を前に掲げ、唱えるのだ」
「わかりました!」
震えが止まり、立ち上がると十字架を前に掲げる。
そして、唱え始める。
「光は炎、炎は光。神の使い、大天使ウリエルの名において魔なる者を焼き払わん!」
「聖光の神炎!!」
十字架は今までにない輝きを放ち、そしてベルゼブブは頭を抑え、もがき苦しみだした。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」
のたうち回り、悶絶している。
「今のうちに……!」
彼女は八雲のもとに駆け寄り、手を当てる。
「ウリエル様の加護で、彼の者に癒しを」
すると、傷は治り、目を開ける。
「あれ……俺は」
「よかった!よかった……!」
ラーニャは泣いている。
「ベルゼブブは、どうなった!」
「あそこで、悶え苦しんでいます」
「そっか、ごめん二人とも、心配かけて……」
「いえ、こうして戻って来てくれましたから…!」
「次は油断しない。決着を着けてやる!」
俺は短剣を取り、そして抜く。




