第12話 火之迦具土
「まだ負けちゃいねぇよ。
5分以内に起きたらいいんだろ?
勝手に諦めんな」
「無理だよ。
俺は凍ったんだ。
どうしようもない」
「どうにかする策はある」
「策って…それにさっきから喋ってるけど、あんた誰だよ?」
「火之迦具土だ」
「火之迦具土って……火の神の……?」
「そうだ。
いいか、今俺の力で手位は動かせるように氷を溶かした。
短剣を取って、それを抜け。
そしたら俺の力が使えるようになる。
じゃあな」
「あっ、ちょっとま……」
「消えてしまった…」
火之迦具土の話だと手位は動かせるようにしたそうだが……
試しに動かしてみる。おっ、動く。動かせる!
懐に手をやり、短剣を取る。
半信半疑だが、やるしかない。
思い切って、剣を抜く。剣は輝いているが、何も起きない。
ああ、失敗……だ……あ、れ 何か…意識が……
久々に肉体を手に入れた。まぁ、それも一時的なものだが。
さて、この八雲とかいう小僧の作った状況の打破といこう。
まずは氷を溶かさねば。体があるから、好きなだけ力を使える。
はああ!!と力を込める。すると、みるみるうちに氷が溶け出した。
観衆の声が聞こえだす。
「おい!氷が溶け出したぞ!」
「なんでだ?」
「八雲の復活だ!!」
「嘘でしょ…凍らして、勝ったと思ったのに…」
「あんた、何をしたのよ!」
こいつがレイチェルか。これしきの者に負けそうになるとは。落ちたものよ。
「八雲と雰囲気が全然違うけど、あんた一体何者……?」
「お前が知る必要はない」
「そろそろ始めよう。
第二ラウンドを」
短剣に力を込める。短剣は炎を纏い、太刀へと変化する。体も八雲の体ではなく、火之迦具土の俺の体に変化する。
「雰囲気だけでなく、姿まで変化した……
本当に何者なのよ……」
「まぁ、いいわ。
また、再起不能にしてあげる!」
レイチェルは巨大な氷の塊を作り出した。
「どお?大きいでしょ。
これをくらったら、ひとたまりも無いんじゃない?」
氷の塊を俺に飛ばしてくる。簡単には避けられないか。なら…
氷の塊を刀で受けながら、軌道を少しずらし、避けることで、何とか避けられた。
しかし、避けた先で、氷の礫が飛んでくる。
これぐらいなら、斬って対処できる。だが、斬っても斬っても飛んでくる。
「間合いを詰められないでしょ?
このまま押しきる!」
攻撃が激しさを増す。このままではじり貧か。だが、このままやられるような俺ではない。
手から火の玉を三つ程飛ばす。
「烈火の花菱」
瞬間、火の玉が弾け、小爆発を起こし、煙が立ち込める。この間に一気に間合いを詰める。
しかし、詰めた先にいたのは待ってましたと言わんばかりの顔をしているレイチェルだった。
「そう来ると思った。
また、動けなくなってもらうわ」
レイチェルの両隣に氷の玉が現れ、氷の針が俺目掛けて延びてくる。
間一髪で避ける。だが、奴に焦る様子が無い。こいつ何を狙って……
後ろを振り向いたとき、氷の玉があった。最初の2つは囮でこっちが本命か!
まずい。策にハマった。そう思った時には俺の体に針が刺さっていた。
更に前から2つの氷の玉が新たに現れ、2つの玉の針も刺さる。
「動けないでしょ?
この拘束力は半端な力じゃ抜け出せない。
人に使ったのはこれが初めてだけど」
「これでおしまいよ」
無数の氷の礫が生成され、俺に向かって飛んでくる。
レイチェル·アイスフィート…舐めていたが、ここまでとは思わなかった。それに、体が馴染んでおらず、本来の100分の1の力も出せていない。
一か八かやるしかないようだ。しばらく、意識を失うだろうが、今この体で出せる出力の限界のさらに上、150%以上の力を出す。
負けるのは嫌だからなぁ!!!!
「はあああああ!!!」
力を込め、針の刺さっている箇所に炎を纏い、氷を溶かす。
よし、氷が溶け、動ける様になった。
太刀に炎を纏い構える。
「火遁の渦」
炎の渦を纏い、氷の礫を突破し、一気に懐の間合いに入る。
「やばっ……!」
ようやっと焦りを見せたな。だが、もう遅い。
殺さぬように峰打ちを叩き込む。
「がッ……」
レイチェルは倒れた。渾身の一撃を叩き込んだから、当分起きやしないだろう。
俺の勝ちだ………!!!!