死神2
そして、私は、悲鳴をあげながら列車を駆け回りました。
不思議な事に誰も、私の悲鳴を聞いても驚かず、そして、私の問いかけに誰も答えてはくれないのです。
混乱した私が自分のボックス席に戻ると、ジョンが魂が抜けたような姿で座っていました。
隣には見知らぬ紳士…
私、急いでジョンのところへ駆け寄り、そうして、話しかけました。
でも、ジョンは私の言葉を気づかないようでした。
ジョンは泣いていました。放心して…目に涙をためながら。
私は、疲れはてたジョンの頬を両手で触ろうとして、感触が無いのに気がつきました。
そして、ジョンの涙を軽く拭った時に…涙が体に染み込むように、全てを理解したのです。
私は死んでしまったのです。
スイスの山で遭難して…
私の死を嘆くジョンをみていると…もう、ジョンには会えないのだと思うと…
何か、物凄く大きな固まりが胸に詰まったような苦しさが込み上げてきました。
もう一度、ジョンの頬を触りたい。
愛していると囁いて…唇にキスをしたいと思いました。
涙が流れてきました。
ミセス・ハドソン、どうか、冷酷な私を許してくださいませ。
その時、私は、ジョンのそばに…ジョンに触れ、その優しい腕に抱き締めて貰えるなら…ホームズ先生だろうと、この場所を譲るまいと心に決めたのです。
例え、それでホームズ先生が永遠に帰らぬ人になろうとも、です。
そう、心に決めた瞬間、後ろから右肩をたたくように男の人の手が触り、そして、継ぎの瞬間、私は、あの食堂車の席に座っていました。
目に涙を浮かべながら。
「生き残りのゲームに参加する決意ができたようですね?」
モリアーティさんが、厳かに私に聞きました。
私は、ハンカチで涙をふき、顔を整えると、背筋を伸ばし頷きました。
「はい。私、ジョンとの新婚生活の為なら、何でも、出来る気がします。」
私の答えを、モリアーティさんは満足そうに頷いて聞いていました。