死神
「クイーンイングリッシュにミルクティ…とてもお上手なのに、文法は間違っていますわ。人は生き返ることなんてありませんから、『今のところ、』ではなく、『既に亡くなってる。』が正しい使い方ですわ。」
私は、異国の雰囲気をまとう英国紳士に忠告しました。
「そうです。死んでしまったら、生きかえるなどあってはならないのです!
それが、我々の想像主を悩ますことになるなら、尚更。」
モリアーティさんは、なにかに憤っていました。
その厳しい表情に、私は怖く感じました、でも、言わずにはいられませんでした。
「それでも…私は、ホームズ先生にもう一度、お会いしたいです。それが…魔術や心霊術のようなものだとしても!」
そうです。もう、あんなジョンを見てはいられません。無事な姿で戻ってきてくれるなら…
私は、魔術でもそれを受け入れたいと思いました。
そんな私を、モリアーティさんは黙って見つめて、それから、ひどく傷ついたような顔で私にこう聞くのです。
「魔術?いや、あれはそんなものではない…
それに、ホームズ君がよみがえると、ミセス・ワトソン、貴女がジョン・ワトソン君と別れる事になる。」
この言葉で、私はモリアーティさんが嫌いになりました。
「それはあり得ませんわ。私は、ジョンの妻なのですよ?確かに、ホームズさんが戻られたら…少しはジョンと離ればなれになるかもしれませんが…私は神様に誓ったのですもの…死が2人を別つまで、私たちはずっと一緒だと。例え、異国の神々の魔術だとしても…それを変えることは出来ませんわ。」
私は、左の薬指に輝くリングを見つめました。
ジョンがくれた…皆が、神様が祝福してくれた、美しい金の指輪を。
モリアーティさんは、私が冷静になるのを待ってから、低く穏やかにこう言いました。
「異国の神々の力を借りる必要はありません。
ホームズ君がジョン・ワトソン君を必要とする限り、それは、その通りになるのです。貴女が『死が2人を別つまで、』と、仰るなら、そのように世界が変わるのです。」
えっ…(°∇°;)
私は、怖くなり始めました。人がよみがえるとか、ホームズさんが生き返ったら、私が代わりに死ぬなんて事、当たり前のように話すこの男が。
モリアーティさんは、静かに右の人差し指で私の薬指を差しました。
すると、私の左手が揺れて…指輪が霧のように消えてゆくのです。
もう、我慢が出来ません。私は立ち上がって急いでその場を離れたのです。