懐中時計2
「い、生きているのですかっ!そ、それで、ホームズ先生はどこに?じ、ジョンを!!」
叫んで半立ちになる私をモリアーティさんは制しました。
「ミセス・ワトソン、お座りください。」
モリアーティさんは、静かにそう言いました。
私は、その言葉に従いました。女学生時代の幾何の先生を思い出すような、従わなくてはいけないような、そんな気持ちにさせる言葉でした。
座り直した私に、モリアーティさんは、まるで、できの悪い生徒の補修でもするように説明を始めました。
「ミセス・ワトソン。貴女は聞き間違っていますよ。私はホームズくんが、今のところ、亡くなっている。と、言ったのです。」
モリアーティさんの言葉に、頭が混乱しました。
「今のところ、亡くなっているのですか?」
「はい、私とホームズ君は、あのライヘンバッハの滝で揉み合いながら落ちて行きました。助かりようがありません。」
えっ…(°∇°;)
もう、何をどう質問するべきなのでしょうか?
助かりようが無いと言いつつ、目の前に滝に落ちた人物がミルクティを飲んでいます。
「それでは…ミスター・モリアーティ、貴方もお亡くなりになったと、私は幽霊と朝食を共にしたと、そう仰るのですか?」
私の質問に、軽く鼻で笑ってから、モリアーティさんは悲しい顔になりました。
「幽霊…そうですね、少し、違います…私は、想像主が作り出したホームズ君の為の死神。と、言うところでしょうか。」
「死神…天にまします父なる神が、なぜ、ホームズ先生を殺そうとなさるのでしょう?失踪前のクリスマスはチャリティーショーで恵まれない子供達のためにバイオリンを演奏いたしましたのに(随分と渋々とですが)…。」
私の恨みがましい質問に、モリアーティさんは、優しい顔になって答えました。
「貴女が思うのとは、少し違う…もう少し、人間臭い想像主の事です。」
それを聞いて、私、少し考えましたわ。
最近、お友達になりました伯爵夫人が、降霊術に夢中で、何か、異国の神々を呼び出すような、そんな人達と知り合いなのを思い出したのです。
何か、異国の神々や、呪いの類いの話なのでしょうか?