ブレックファースト3
「……。で、モリアーティを名乗った人物は、私で何人目なのかな?」
モリアーティと名乗った老紳士はあきれたように私に聞きました。
「250番目位だと思いますわ。」
私は家に来た告白状を思い出しながら答えましたの。
「それで、どうやって偽者を見分けたのでしょうか?
私は、どうしたら、本物だと信じていただけますかね?」
挑戦的に聞くモリアーティさんに、私、素直に答えましたわ。
「ご免なさい。レストレード警部が、素晴らしい推理力で見分けてくださいましたの。」
「ほぅ…あの、ヤードのでくの坊が。」
「失礼ですわ!レストレード警部は、とても知的で頼りになりますのよ。
金の冠を複数おいて、そこから純金の冠を探させたのですから。
悪者の親方ですもの、それくらいは出来ないと行けませんでしょ?」
私、得意になって言いましたわ。
実際、あの取り調べは、とてもスリリングで、面白かったのですから。
それを聞いたモリアーティさんは、ビックリしたように間抜けな顔で私を見たのです。
やった(^-^)
って、思いましたのよ。
そうして、この難問の答えを聞こうとしたのですわ。
モリアーティさんは、凄く落ち込んだ顔をして、
「アルキメデス…アルキメデスとは!」
って、ハムレットのように芝居がかって悶絶するのですもの…どうして良いのかわからなくなりましたわ。
しばらく、困っていたら、モリアーティさんが我にかえって、すがるように私に聞いたのです。
「その…中等部の学生のような問題で、本当に…犯罪界のナポレオンを追い詰める事ができたのだろうか?ジェームズ・モリアーティを名乗る者が、そんな低級の問題を間違ったりするのだろうか?」
私、なんだか、気の毒になってきて…言葉につまりましたわ。
「勿論、答えられた人はおりますわ。けれど、私を含めて、ミスター・モリアーティについてなにも知らなかったのですから、そんなに責めないでくださいませ。
なにしろ、名前もみんな知らなかったのですもの。
アーサーから、ウィリアムスまで、それは様々なモリアーティさんがあらわれましたのよ?」
私の答えに、モリアーティさんは諦めたようにため息をついて、そうして、懇願するように私を見つめたのですわ。
「では…どうすれば、私が本物だと信じてくださいますか?」
モリアーティさんは、悲しそうに私を見たのです。
その必死な様子に、私、つい、慰めて差し上げたくなりましたの。
「勿論、信じますわ。貴方が、何か、大変な問題を抱えていることを。ジョンに話したい事がありますのね?話してくだされば、私、力になって差し上げられるかもしれませんわ。」
ミスター・モリアーティは、私の目を見て…それから、イタリア人のように感激して、私の手の甲にきすをすると、思い出したようにポケットに手を入れたのです。
「そうですね。取り乱して失礼しました。
私が本物のモリアーティであることを…あのシャーロックが『犯罪界のナポレオン』と認める男として、自らを証明いたしましょう。
本人しか知り得ない情報を…これを…貴女に。」
そう言って、モリアーティさんは、見覚えのある金時計を私に渡しましたの。
私、それを見て、心臓が止まりそうになりましたわ。
そう、それは間違いなく、ジョンの…ジョンがお父様から…お兄様から…引き継いだ時計…
ドキドキしながら蓋を開けましたわ。
そこには…お義父さまと、お兄様を現すイニシャルと、結婚式前日に、はっちゃけてジョンが落書きした『メアリー・ラブ・フォーエバー』の文字が、ジョンの乱れた筆跡で、しかも、赤いエナメルで書いてありました。
これを…別れ行くホームズ先生に預けたなんて!
大切なものだから、必ず返しに来いって、渡した懐中時計…
私、赤面しながらも、モリアーティさんに、聞かずにはいられませんでしたわ。
「この時計の蓋、開けましたか?って。」