白鳥の騎士3
「フォン・ヘルダーさん。あなたはドイツの方ですね?
知らなかったのだと思いますが、英国においてスチュワートは、とても高貴な方々の執事の事で、私のような人物には使わない言葉ですの。」
私の説明をフォンは、チャーミングな笑顔を浮かべて聞いていましたわ。
「貴女は充分、高貴な方です。ナポレオンに指名されたのですから。」
と、語るフォンは真顔でしたわ。
犯罪界のナポレオン…
モリアーティさんを強く尊敬されていたのがわかりますわ。
でも、英国内で家老の連呼なんてさせられません。
私、頑張りましたわ。
「ミスター・モリアーティは、『執事』をよこすと申していましたわ。」
そう、確かに、私はそう聞きました。
フォンは、面白そうに私の話を聞いて、少しせつなげに目を細めて言いました。
「ああ…教授…あの方らしい…、あの方は謙虚なのです。」
「それでは、あなたも謙虚になってください。
私も、家老ではなく、執事が必要なのですから。」
私の粘り勝ちで、フォンは執事に就任しましたわ。
それにしても、こんな大がかりな話になるのでしょうか?
車窓は、木々や自然から、少しずつ人工物が増え始めました。
旅の終わりが近いことを感じました。
ここに来て、モリアーティさんのお願いを思い出しました。
私がジョンと楽しい夫婦生活をおくる為には、セバスチャンさんの幸せが必要なのです。
穏やかな家庭を持つ幸せを、彼に知ってもらわなくてはいけません。
私は、フォンに聞きました。
「セバスチャン・モランという人を知っていますか?」
と、すると、フォンは、つまらなそうに方をすくめて「Yes」と言いました。
「では、お家もご存じね。」
なんだか、道が開けて来た気がします。
だって、さっきまでなにも知らなかったのですから。
「おうち…ですか…」
フォン・ヘルダーさんは、そこでまた、クスクスと笑い、お可愛らしいと、そう、私をバカにするのです。
「何が面白いのですか?これは、あなたのナポレオン、モリアーティさんの願いなのですよ?」
少し、脅してあげました。
でも、ナポレオンがなんだというのでしょうか?
ナポレオンなんて、偉大なる大英帝国には何も出来なかったじゃないですか。
私がモリアーティさんとナポレオンの遺業を否定する間、しかし、フォンには強く刺さるものがあったようで、やっと、聞く耳を持ってくれたのです。
「失礼しました。我々は、職業柄、安定した居住場所を…おうちと言うものを持たずに生活するものですから…。」
フォンは、笑いたいのを耐えている…と、良い感じを醸しながら、丁寧に答えてくれました。
フォンの態度は気になりますが…それより、セバスチャンの行方を探す方法が分からなくなった事に気をとられました。
「メアリー様。さあ、そんな悲しい顔をしないでください。
確かに、私は、セバスチャンの『おうち』は存じませんが、『ねぐら』なら知っています。」
フォンの言葉に、それを早く言って!と、叫びたい気持ちを冷めた紅茶と飲み込んで命令しました。
「それでは、ロンドンに着いたら、すぐにでも会わせてください。」
私はキッパリと良い放ち、ジョンに会う時を思いました。
ジョン…私が居なくて困っていないかしら?
独身が長かったので、わりと、なんでもする人ですけれど、お庭のバラの水やりや、ベッドメーキングまでは気が行かないに違いありません。
ああ、仕事着のシャツのボタンが緩くなっていたし…
早く、一時間でも早く、ジョンに会いたい。その時はそればかり気になりました。
気がつくと、列車が駅へと入って行きました。
パリに着いたのです。
フォンは、スチュワートを名乗るだけあって的確に動き、荷物もまとめあげられて、駅におろしてくれました。
それから、少年のポーターにテキパキと指示をして荷物を運ばせると、私を馬車へと誘導したのです。
「お嬢様。それでは、作戦開始です。」
フォンの声が号令のように響きました。




