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パスティーシュ  作者: ふりまじん
プロローグ
2/21

ローズマリー

前略 ハドソン夫人


返信はまだ来ていませんが、続きをしたためたいと思います。


目的地で思ったような成果を得られなかった私たちは、しばらく、スイス、ウィーン、プロセインなどを旅をし、ホームズ先生の情報を集めました。

でも、有力な情報はありません。

おもえば、その頃から…ジョンの様子が、少し、変わったように思いました。

と、言っても、その時は失意のジョンの姿におろおろするばかりで、私が話しかけてもいつも生返事やら、無視をする事を悲しいとは思いましたが、その変化を同情はしても、異常だとは思いもしませんでした。

結局、私たちは、諦めてイギリスに帰る事にしたのです。

最近、噂のオリエント急行に乗って。


寝台車両は、なかなかチケットをとるのは難しいのですが、たまたま、ウィーンのホテルのラウンジで知り合ったご夫妻が、ジョンの作品のファンで、特別にチケットを手にする事に成功したのです。


そうして、ウィーン→ロンドン行きの急行に乗り込んだ私たちは、生まれて初めての高級寝台車に受かれる事もなく眠りについたのでした。



その日、私は、ホームズ先生の夢を見ました。

ホームズ先生は、スノードロップの咲き乱れる清らかな泉にたたずんで、バイオリンを演奏していらっしゃいました…


あれは…あの曲は、スコットランドの民謡『スカボロフェア』


「なんて物悲しいバイオリンなのかしら…」

私が思わず呟くと、ジョンが耳元でこう囁いたのです。

「あれはバイオリンではないよ。シェトランドのフィドルと言う楽器さ。

ほら、小人が歌っているだろ?」


確かに、目を凝らすと、スノードロップの花に囲まれて、赤いチョッキのトロールが音に合わせて歌っています。


♪昔の恋人に会いたいかい?

パセリ、セージ、ローズマリ、タイム…

それなら、心が踊る悲しい話を森でしな。

妖精が気に入れば、それで、君は元通り…



スカボロの民謡には、様々なアレンジがありますが、聴いたことのないアレンジで、私は、それを不思議に思いながら、ゆっくりと覚醒しました。


汽車の緩やかな揺れの中で、ローズマリーの香りに包まれながら、年配の…厳格な感じの神父様が心配そうに私を見つめているのが見えました。


驚いて起き上がり、神父様に挨拶をし、ジョンの名前を呼びました。

返事のないジョンの代わりに、丸い赤ちゃんのおでこのような艶やかな額のその老神父がこう言ったのです。


「貴女のご主人…ジョン・ワトソンは、呼んでも来ませんよ。まあ、暖かいお茶でも飲んで落ち着いてください。

そうしたら、現在、何が起きているのかをお話いたしましょう。」



神父様の声は、低く、少し、かすれた感じでしたが、心の奥まで突き刺さるような…そんな強さがありました。


私は、何もかも、今すぐ聞きたい気持ちと裏腹に、神父様に頷き、そうして、食堂車で待ち合わせの約束をしたのです。


ああ、随分と長くなりました。郵便回収の時間が来てしまいますわ。

今日はここまでに致します。


春らしくなってきましたね。暖かくはなってきましたが、お体ご自愛くださいませ。


1992年5月

かしこ

ミセス メアリー・ワトソン


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