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パスティーシュ  作者: ふりまじん
プロローグ

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10/21

死神3

私は決心しました。ジョンの隣で子供達に囲まれ編み物をする…

そのささやかな夢の為にどんな事でもやってのけようと。

例え、ホームズ先生と命のやり取りをするとしても!

と、そこまで思い、その先を考えて恐ろしくなりました。

命のやり取りって…

ホームズ先生を相手に私に何が出来ると言うのでしょうか?

ジョンが先生の回顧録を執筆するに当たって、数ヵ所のフェイクを混ぜています。

それは、諮問(しもん)探偵という、危険な仕事柄、全て個人情報を世に…悪人の前にさらけ出すわけには行かないから。

ジョンは、ホームズ先生の希望で、先生を薬物依存者の様に描いていますが、それが真逆なのは、ミセス・ハドソンもご存知の事と思います。

ジョンが言うには、お酒や薬物をたしなみながら、格闘技の頂点にたつと言うのは無理があるそうで、特に、瞬発力とスタミナが必要なボクシングで、一目おかれる為には、日々の鍛練なしにはあり得ないそうなのです。


コレについては…夜中に突然、ホームズ先生が走り込みを始めたり、何かにとりつかれたように、革袋の様なものを叩き続けるような恐ろしい音が聞こえてくるベーカー街の怪異にジョンと共に悩まされた経験がある夫人には、お分かりの事と存じます。

私達の前では、まるで退廃を絵にしたように振る舞うホームズ先生。

でも、先生より一回りも大きな男を軽く殴り倒すだけの力が備わっているのです。

ジョンにも…力では敵わない私に、ホームズ先生を倒すなんて絶対に無理です。

だからといって、毒を盛ろうにも…ホームズ先生の方が、一枚も二枚も、その道では上手(うわて)ですもの。


勿論、夫人のローストビーフのソースの隠し味にアンチョビが使われているのは、まだ、気づかれていないとは思いますけど。


でも、アンチョビと、毒では違いますわ!

先生はグルメと言うわけではありませんけれど、毒に関しては、とても饒舌でうるさいのですから。


それに…やっぱり、私には殺人は…出来ません。

少し思案して、私は素直にモリアーティさんにそう申し上げました。

すると、モリアーティさんは、喜劇でも聞いたように大きな声で笑い出すのですよ。

もう、人生をかけた真剣な悩みなのに、本当に失礼な方です。


怒る私に、モリアーティさんは愉快な笑顔で慰めてくださいました。

「いやあ、すいません。あまりにも可愛らしい質問に久方ぶりに愉快な気持ちになりました。」

「失礼ですわ。私、真剣なのです。」

「そ、そうです。全く、その通り!しかし、そのようなバイオレンスな攻撃など、可憐なミセスには望んでおりません。実際、私が一度、それで失敗していますから。」

モリアーティさんは、テーブルマナーの失敗を語るように、ライヘンバッハの恐ろしい死闘を語りました。

「それでは…私は、何をすれば良いのですか?」

本当に、ライヘンバッハの滝に落ちたのか…と、聞きたくなるのをグッとおさえました。本当にあの滝から落ちたにしてはピンピンとして、胡散(うさん)臭いのですもの。

モリアーティさんは、軽く笑って車窓に視線を移してから、私に向かって言いました。

「実際、バイオレンスやアクションは逆効果でしたから、ここは、女性らしい発想に変えようと思いましてね。」

モリアーティさんの余裕の笑みが不気味です。

「女性らしい発想…ですか?」

私の質問に、モリアーティさんは真顔で、しかも、厳かに…確かに、こう言ったのです。

乙女小説(レディース・マガジン)の様な最良のロマンスを、お願いしたい。」


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