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1.面談

毎日、おつかれさまです



「はい、初めましてこんにちは。早速ですが、あなたの死亡理由しぼうりゆうは?」

「あ、やっぱり私死んだんですね。しかしお兄さん、就活の志望動機みたいなノリで聞いてきますね」

「まぁ、転職も転生も似たようなもんですよ。さて転生先とのマッチングを高めるために、いくつか質問させてもらいますね」


えーと、と黒スーツの男は、メガネの奥の目を細めながら書類をめくり始める。


「あー、死因は過労死ですね。このタイプの人は元の世界の輪廻に戻しても同じことしがちだからなぁ。ちょっと環境変えてみましょうか」

「はぁ」

「なにか得意なことは?歌とか剣とか」

「ちょっとそういうのはないですね」

「出身はどこ、ニホン?なら…あ、やっぱり雑用スキルあるじゃないですか!家事炊事に事務全般、飲食店経験まで!これならどこの世界でも通用するよー」

「もう雑用はしたくないんですけど」

「最近少ないんだよ、このスキルの持ち主!しかもあなた相当レベル高いから引く手数多だけど」

「ブラック臭がすごい」

「あぁ、あなたの世界では評価されないんでしたね」


興奮気味だった男は、眼鏡をくいっとなおした。


「雑用スキル、別名:高度差配機動複合技術は、全体を俯瞰し細かい点に気を配り、その場を管理するだけでなく、支配することすら可能なスキルです。よその世界だと権力者に近いほど必要になるスキルですね」

「あのー、私来世は深海魚になりたいんです。スローライフがしたいです。もう人と関わりたくないんです」

「こんな貴重なスキルの持ち主、泳がせとくわけにもねぇ。死なない程度に適材適所でがんばりましょうよ。ね」


なだめてくる男に、女は無言で抗議する。


「それなら緑豊かで海が綺麗な魔法の国にしときますよ、空気も食事も美味しいところ。スローライフには最適です」

「……なんか裏がありますね?」

「我々も告知義務があるのでお伝えしとくと、近々外交的な問題を抱えることになっています。クライアントから泣きつかれてましてね。でもあなたの経験拝見した感じだと、そーゆーのもお得意そうですよね?」


スーツの男は目を半月にして、ニヤリと笑う。


「まぁ職業柄。でも私は特殊な交渉術とか持ってない、ただの公務員ですよ」

「どんな仕事なんですか?」

「まぁ一言でいうと……他国と軋轢を起こさないために水面下でもがくことですかね。戦争を回避するために」

「なら大丈夫でしょう」


男は上機嫌でうんうんと頷くが、女のテンションはどんどん下がっていく。


「来世でも雑用係ですか……。机拭きにコピーとりお茶出ししながら山のような事務作業をひとりでこなし家に帰れば休みなく立ち働き続けるあの24時間フル稼働生活をまたやれと」

「また過労死されたら困りますし、福利厚生として特別になにかスキルをつけますよ。何がいいですか?」

「じゃあ願いが叶う球を…」

「そういう抽象的なのじゃなくて、もっと具体的なやつくれます?」

「雑用は気がついた人がやればいいよねって絶対自分はやらないくせに軽く言う人間が死ぬノートとか」

「ないよ」

「雑用は女の仕事だと当然のように押し付けてくる馬鹿が苦しむ呪文とか」

「ないよ」

「雑用いやだぁあああ!!」


頭を抱え込んだ女を男がなぐさめる。


「雑用って想像力と実務力、両方必要ですから。この多様化した社会で物事を円滑に進めるのは、誰にでもできる仕事じゃないですよ、自信もって!」

「実務のあの単純作業がいやなんですよ」

「じゃあ実務が楽になるようなスキルにしたらいいじゃないですか。例えば、従順な手下が増えるような美しい美貌とか」

「それはそれでトラブルになりそうな……。というか他人に任せても、結局イラついて自分で雑用する未来しか見えないですね」

「あぁそういうタイプ。ならあなたの手足になるようなスキルがいいですね」

「お掃除ロボットみたいな?じゃあ記憶させた単純作業を繰り返してくれるスキルってあります?」

「んー、まぁ許容範囲でしょう」


男は「諾」と赤いハンコを書類に押すと、女は目の前から消えていった。

男の同僚と思わしきスーツを着た女が近寄ってくる。


「ねぇさっき付与したあれ、ループ魔法よね?上の判断が必要では?」

「えぇ!それは気づきませんでした。始末書ですかね」

「あなたがミスするわけないでしょ、確信犯ね。そんな高度なスキルが必要だったの?」

「まぁ彼女に共感したというか。私もね、戦争がきらいなんです」


黒スーツの男は静かに笑い、「次の方」とベルを鳴らした。


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