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鬼火を灯して

作者: なと


夢日記の続きに血文字の跡

壊れたブリキの人形から

人の声がする宿場町の片隅

真昼の影の濃い処に

シャボン玉が健やかに

シンクタンクの中の

目玉がぎょろぎょろと

洗面所に人間の舌べろが堕ちていて

古町に動かない老人の庵

老婆の皺と木の皺を並べて数えている間に

いつの間にか死期を迎える少年

禍々しい者は喪中にやってくる

何人もの喪服の人々が四十九日の夜に

仏壇のある部屋へぞろぞろと

だがしかし遺影の傍には

櫻の枝が満開になって飾ってあった

黒い影達はそれを見て

皆ため息をついて消えてしまった

海沿いの眠る古町での話

春の頃には

黒マントもアメフラシも

皆海の方へ去って行く







古町に住んでいると

午後の日差しに膝から溶けてゆく

いにしへから続く祭りの日には

古い着物を着た子供達が

かび臭い家の階段を昇って行き

あの西日の差す

生薬だらけの御祖母ちゃんの部屋へ

消えて行き

B29がいまだに空を飛んでいるので

防災頭巾は捨てられません

此処は刻の止まった

宿場町ですから





夏のかぼそき声は

団扇で扇いだ時に聞こえる蚊の音

法螺貝の中を何度覗いても

恵比寿様が見えるんだ

座敷の上の木漏れ日は

過去の時間を刻む時計を暖かく包む

ゆめみたいだ

夏の音は夕立の雨だれ

暑さ寒さも彼岸まで

施餓鬼には地獄の炎で和を知る

木漏れ日には不思議な呪文

それはマントラに似て






宿場町で食べるトコロテンには

時折旅人の心が入り込んでいて

むやみに何処かへ消えたくなる

その消失点の上の座標に

幽霊が棲んでいてもおかしくない

だって顕微鏡の中のミドリムシは

時空を旅してやってくるのだから

上手な死に方を探して

古町を探検していたら

アメフラシに頭を喰われる







路地の影に夕間暮れ

少しの西日が僕らを夕暮れ怪人にするのさ

夕暮れ横丁では豆腐がよく売れる

じゃんけんはグーがよく勝ちやすい

傷口にヨードチンキ

下駄箱の中の上履きの汚れ

幽かな幼さが人をメロウにさせる

グラスの中のカルピスは

遠き過去へ連れて行ってくれるか

列車の向こうは

夜が隠れてる






宿場町のお昼には

影に魔物の棲むという

僕らはゆめまぼろし

真昼の月を仰いでいる

誰もゐない家の中では

からくり人形が

誰も見えない人に

お茶を運んでいる

不思議ってちょっと怖い

夢を見た後の

旋毛をそっと撫でている

小鬼の優しさ

此処の路地にも

化け狐は出るから

そっと油揚げを縁側に供えて







人通りのない道を散歩する

日溜まりになにか宝石が在る様な

たまに通りがかる人の背中を追い

青空を見上げる

古町は息をしている

確かな癒しが其処にあるから

旅を辞められない

古い木の匂いと

家の影が少し怖い

過去は影踏みをする

想い出の文に匂い袋を添えて

また次の町へ

いつぞやかの顔を見たくて







真昼の日本家屋には

小人が悪さをするから

オルゴールがガムランの様にずっと

一緒だからねとつないだ手に赤い糸

夢を見ていたんですよと

枕の裏には閻魔の写真

懐かしさって少し怖い

想い出は過去ですか

君の眼はとても暗いから

真昼の部屋に閉じ込めて置いた和人形と共に

彼岸花を育ててお地蔵様へ







昔の事を語ろうとすると

何故だか切ない気持ちになるのは

何故だろうと

色褪せた戦前のアルバムを開く

感情って不思議だから

何時も桔梗の花を玄関に飾っておいて

夏を待つ

静かな庭には緑深く包帯だらけの娘が

本を読んでいる家の人は誰も気づかない

古い町は好きですか?

白昼夢を求めて旅をする






夢日記の続きに血文字の跡

壊れたブリキの人形から

人の声がする宿場町の片隅

真昼の影の濃い処に

シャボン玉が健やかに

シンクタンクの中の

目玉がぎょろぎょろと

洗面所に人間の舌べろが堕ちていて

古町に動かない老人の庵

老婆の皺と木の皺を並べて数えている間に

いつの間にか死期を迎える少年





真昼の日本家屋には

小人が悪さをするから

オルゴールがガムランの様にずっと

一緒だからねとつないだ手に赤い糸

夢を見ていたんですよと

枕の裏には閻魔の写真

懐かしさって少し怖い

想い出は過去ですか

君の眼はとても暗いから

真昼の部屋に閉じ込めて置いた和人形と共に

彼岸花を育ててお地蔵様へ






打ち鳴らした鐘が静かにしゃらんしゃらんと

お堂の中は暗がりに金魚が泳いでる

近所の張り紙に喪中の知らせ

誰もゐない裏通りに三味線の音

夏の呼び声がモニターの中の電子音

遠き入道雲から遠雷の音

瞳孔の中には真言の吽の文字

コップの中の水にたった今蝸牛が辿り

瘡蓋を剥がそうとする小鬼の群れ







黄昏時は常世の沖合も夕凪時

静かに流れてゆく時を待って

バケツの中の金魚と内緒話

路地裏の少年は

野良犬の犬歯が金色に光っているから

座敷牢の包帯だらけの娘を

助けに走る

夕べの夢の中では

さるぼぼがずっと頬を舐めていて

秘密の唄を阿古屋貝に伝えている

此処は秘密の町

囲炉裏の宿場町







夏は開かずの扉の中に閉じ込められている

そんな噂を聞いたんだ

古き町は地獄耳を隠そうともせず

額にツノが生えてきた時だって

オロナミンCのポスターをこっそり盗んできては

安っぽくてちっぽけな自尊心は

入道雲の似合う瓦の上で

襖に目が張り付いていてぱちぱちと瞬きしている

昭和は何処ですか?






古き木の匂いを胸いっぱい

洗面台に落ちてる小指は真っ赤

鬼の吐息を感じながら

今日も風の唄を聞きます

美しい宿場町は元気にしてますか

此処はせわしない世の中に背を向けるように

旅人を甘い酒の匂いで呼んでいる

シンクタンクの中のヒトデは

地蔵菩薩の額に取り憑きたいと

進化する日を待っている







僕は僕であるために

古きはよき月桂冠を傾けながら

レトロはげに魔物よ

北風の吹く電柱にピンク電話の張り紙が

芸者小屋の人形の首がぽとりと堕ちた時

中庭の沼ではぽちゃんと人魚の尾びれが閃いて

ねえ、生きているって不思議

宿場町はだんまりを決め込んでいる

鬼やらいが来るよ

座敷の上には黒い影





世界の片隅に棲む緑は

古びた新聞紙に哀愁を覚えながら

さようならをする

世界は瞬く間に収縮を繰り返し

人々は小さな額縁に奇妙な絵を飾る

宿場町は静かに眠ってばかり

高山帽の男が

神社で発光する狐面の少年を捕らえた

虫籠の中では蛍がぼんやりと光っているし

此処は何処か変だ

其れでも朝は来る






昭和の人間は

ずっと昔話に耳を澄ませている

静かな夜は

繭の中に躰を隠して

あの映画館は来週閉まってしまう

古びた文房具屋で

三原色のセロファンを買って

黒い窓に切り取った星々を散らしてつく

なんだか現実感がないんだ

夢と夢の合間をさ迷い歩き

やがて記憶喪失の夢日記





哀しみは水道からシンクタンクに落ちる水滴

耳を澄ませて冬の鼓動を聞いています

雪は眠る黒を永遠にあの座敷牢に閉じ込めて

花はひっそりと夢の中で咲く






夜目覚める夜行性の人間は

宿場町の夕暮れの空を

鋏で切り取ってスクラップブック

読み終えた新聞の文字を

カッターで切り取って

謎の回文をノートに張り付け

街角の怪人になってしまう

庭では

科学の先生が

亡くしたはずの恋文を永遠と燃やしている

そんな夢を見たんだと

屋根裏の闇人に秘密を漏らす






街角ではきっと深い青が旅人を待っていて

片指に鬼火を灯して深い夢にいざなう

おかしくなってしまった海は

夢の中で美しく輝く人間に情緒を諭されて

まがい物のピエロに永遠と人間失格だと

言われ続ける

夢日記の少女は

朝まで眠ることができるだろうか

とこしえに呼吸をしている

燐寸の灯りは健全だ






あの山には妖しが棲んでいる

鼈甲飴を持って遊びに行こう

それともニッキ飴がいいかな?

仏壇のお祖母ちゃんにも出会えるかもしれないから

山はそびえ海は凪ぐ

海の人は海へ山の人は山へ

亡くなった魂が運ばれるという

道端の地蔵の彼岸花にそっと口づけを

神社で出会った妖が屋根裏で嗤ってる






夕立の後に内緒話

夕暮れの町では

密かな命を受けた黒猫が

秘密結社に暗号を届けに行く

子供達の影に密かに住んでいる魔物は

懐かしい通り道に謎の呪文を描いてる

先ほどから夕暮れ時を捕まえられないかと

空き瓶を夕陽に照らしている

洗面台の壊れかけたバケツには

夜を怖がる太陽が這入ったまま






不意打ちに夢

船町の子供達は道路標識を

お化けみたいと言って

寿限無寿限無

雲水さんの歩いた後には花が咲く

タケヤブヤケタカ

真っ黒怪人が回文を唱えながら

家々の日陰に足を捕られている

ブラウン管の中では

今日も子供達に呪詛を教えるみんなの唄

あの家の二階には怪しげな男が星屑を集めている






夢の後

船町の背後に夕暮れが落ちてゆく

昼なお暗し妖の足跡

天井裏に古庫裏婆がうたた寝

空の悲しみは泡沫エレジー

いつか離れ離れの彼岸花と鬼の子

鳥居をくぐると神隠し

いつまでも夢を見て居たいんです

旅人は祭りの日に子供に逆さ戻り

すべては柱時計の逆さ廻りが支配するから

明日はあっかんべー


昭和の人間は

ずっと昔話に耳を澄ませている

静かな夜は

繭の中に躰を隠して

あの映画館は来週閉まってしまう

古びた文房具屋で

三原色のセロファンを買って

黒い窓に切り取った星々を散らしてつく

なんだか現実感がないんだ

夢と夢の合間をさ迷い歩き

やがて記憶喪失の夢日記

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