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才能などに関するエトセトラ

「ただいまーー!」

「お、おかえりなさい、ユリィちゃん……はぁはぁ」

「おかえり、なさい、ませ、お嬢様……すぅはぁ」


 家に帰ると、まるで全力疾走したあとのような母親とアイラさんが、出迎えてくれる。

 母親は椅子に腰かけて、アイラさんは箒にもたれるようにして、荒く呼吸をしていた。


 ……結局、二人してオレの後ろをついて来てたんだな。

 花を摘んだあと、オレは急に立ち上がって、走って屋敷に向かってみた。

 それで、そんなオレの動きを見た二人は慌てて先回りをしたのだろう……その努力に免じて、気がつかなかった振りをしてあげよう、服や髪についている葉っぱとか。


「お母さま、いつもありがとうございます! これは、かんしゃの気持ちです!」


 笑顔と共に小さな花束を差し出す。


「まぁまぁ、可愛いお花ね。ユリィちゃん、ありがとう。アイラさん、花瓶に活けてもらえるかしら」

「かしこまりました」


オレから花束を受け取って、アイラさんは台所の方へと出ていった。


「お母さま、明日も一人でお散歩行ってもいいですか!?」

「う〜ん、そうねぇ。

 ユリィちゃんは、きちんと約束を守ってくれていたみたいだし……今日と同じように、小川に近寄らず、遠くにも行かないって約束してくれるなら」

「はい、やくそくします!」


 軽く語るに落ちてる。どうみても、オレが散歩している様子を見守っていたのが、わかるセリフだ。

 この様子だと、しばらくは散歩についてこられるかもしれないな。魔法の特訓をするときは、バレないようにしないとな。


「それじゃあ、夜ご飯までは、お庭で遊んでいます!」

「はい、暗くなる前におうちに戻ってくるんですよ?」

「はーい!」


 いつ誰が見ているかわからない場所では、あまり派手なことはできない。

 なので、子供らしい範囲で運動することにした。


 屋敷の裏側ではなく、玄関があるほう、村が遠くに見える前庭で、体操をしたり、駆けたりする。

 今日は綺麗に側転ができるようになった。ちょっと嬉しい。


 幼少期に無理な筋肉トレーニングをすると、成長に悪影響がというようなコラムを前世で読んだ覚えがある。なので、運動もあくまでほどほどを心がけている。

 ムキムキマッチョなお嬢様というのも微妙だしな。

 狙っているのは、スラリとしなやかな細身の美少女だ。今のところは、幼児体型というか、ぷにぷにした感じが否めないが。


 運動が終わったら、アリみたいに地中に巣を作っている緑色の虫を観察したり、家庭菜園のハーブに水やりをするアイラさんを手伝ったり、馬の世話をするロイズさんを眺めたり。


 まぁ、三歳児にできることなんて限られているわけで。結構時間があまる。

 将来に向けて色々とやっておきたいこともあるし、これからは、この時間も有効に活用していかねば、と決意を新たにした。





 ルーン魔術に初めて成功した日から、一巡りが経った。

 今日は、水の季節の五巡り目と八日になる。

 この十日間、オレは森の広場で細々と色々な魔術を試し、喜んだり、楽しんだりしていた。


「《ジィム ジャート ラトレ・ド・ジア(音を聞くは兎の耳)》」


 広場に到着したら、まず最初にこのルーン魔術を使う。

 効果は、対象者の聴覚能力を上げて、周りの音から人や獣の気配を察知する力の強化だ。

 あくまで、聴く力を強化するルーン魔術なので、遠くにいたり、誰がいるのかまでは判別できない。が、母親やアイラさんが近くにいたら、見つけ出すことができるくらいの効果はある。

 実際に、これで何度か尾行してきていた母親やアイラさんを発見している。そのたびに、子供っぽく怒ってみせたり、悲しんでみせたり、天才子役ばりの演技を仕掛けた。

 それを何回か繰り返したおかげか、オレが約束を守っていることに安心したのか、一昨日くらいから、やっと二人ともついてこなくなった。


「やっと、堂々と魔術が使える!」


 今までは、目立ちにくい効果のルーン魔術ばかりを選んで使っていたが、その心配がなくなってスッキリとした気持ちになる。


 さて、短いながらもルーン魔術の訓練を続けているうちにいくつかの発見があった。


 まず、オレの保有魔力量は、最初の頃に比べて格段に増えた。この短い期間で、当初の三倍くらいになった。

 オレが成長期だからなのか、この世界ではこれくらい増えていくのが普通なのかわからない。

 それでも、まだ保有魔力が発動魔力量に足りなくて使えないルーンも多い。これからの訓練で、魔力が増えていくことに期待する。


 次に、どうもオレは生体系統と呼ばれるルーンと相性が良いようだ。

 自分にあった系統のルーンを使うことで、魔術の効果を高めることができる。例えば、同じルーンを使っても、キャラクターとルーンとの相性によって効果の強弱にバラツキが出る。これは、『グロリス・ワールド』でも同じだった。


 生体系統の特徴は、動植物などの生きているとされる対象に効果が高いルーンが多い。もちろん人間も含む。

 さっき使ったルーン魔術でいえば、《ラトレ(兎)》や《ジア(耳)》が、生体系統のルーンだ。


 そして、最後に……


「《ダスト・ド・ローア(石の弾)》! ……やっぱ、ダメかぁ」


 困ったことに、オレは対象を傷つけるような攻撃魔術が一切使えないようだ。

 今も、小石を投げつけて、木の枝を折ろうと狙ったが、ルーン魔術が発動することはなかった。

 このルーン魔術は、攻撃魔術としては、初歩中の初歩であるにも関わらずだ。

 心当たりはある……


「これは、きっと【一角獣ユニコーンの加護】……だよな、はぁ〜」


 思わず三歳児には、ふさわしくない溜め息がもれてしまう。

 【一角獣の加護】とは、人類が生まれながらに持っている可能性がある魔導【先天性加護】と呼ばれるものの一種だ。

 加護の内容は、すべての系統のルーンとの相性が悪くならない上で、生体系統のルーンとは相性が最良となる。デメリットもあり、攻撃的なルーン魔術が、一切発動できなくなるというものだ。

 オレが『グロリス・ワールド』のキャラクターに持たせていた馴染み深い魔導だからこそ、詳しく覚えている。


「能力的には悪くないんだよなぁー」


 そう、この加護は弱いわけでは決してない。むしろ、ゲームにおいて、ハイレベルな戦いでは、勝負の明暗を分ける要因にもなるくらい有能な魔導といえる。

 あくまで、支援特化のキャラクターならば、と頭につくが。


「う〜、しょうがない、しょうがないけど〜」


 現実で、ルーン魔術が使えるならば、派手な攻撃魔術を使ってみたい気持ちは仕方のないことではなかろうか?


「巨大な火の弾で、ドッカーンってしたかったなぁー」


 ドッカーン…………。





 思わぬところで落とし穴があったが、気を取り直して簡潔にまとめると、ユリアは天才である。

 オレが想像していた以上に才能を秘めているようだ。

 

 攻撃魔術こそ使えないが、戦いになれば、魔術で身体能力を上げて、物理で殴ればいい! ちょっとというか、かなりオレの攻撃魔術への期待が裏切られたが、そこはそれだ。

 戦うための能力は十分にあると言うのが、重要だ。


 しかし、やりたいことばかりが増えていくな。

 少し整理してみよう。


 まず、この世界の常識を情報収集すること。

 基本として科学的常識や社会的な常識は、前世の世界と大きく変わることはない。

 生きるためには空気や水、食事が必要だし、重力があって、昼は太陽が昇る。

 盗みや人殺しは忌避されているし、子供の誕生や結婚は喜ばしいこととされている。

 

 それでも具体的にこの世界では当たり前な動植物の名前やこの国の決まり、法律なんかもわからない。そのせいで、うっかり非常識なことをしてしまうかもしれない。

 オレの場合、前世の記憶のせいで先入観を持っているようなものだ。『郷に入っては郷に従う』とまでは言わないが、いざというときに致命的な失敗をしないためにも、この世界の常識は必要だ。


 母親から文字を教えてもらうこと。

 ひとまずは、父親の書斎にあった本を一人で読めるようになりたい。

 この世界では、本はまだ嗜好品に近い。ただ、屋敷にある本の数は多くはないが、それなりの数の本が本棚に収まっている。

 情報収集の意味でも、本からこの世界の知識を得られるようになるのは必須だろう。

 ネットワークを使えば、気になる情報を好きなだけ調べられた前世を考えると、もどかしくはあるが。


 次に魔術の訓練を続けること。

 今のところ、国は安定していて、平和な時代らしく、日々の生活に問題はない。

 それでも、前世の日本に比べれば、安全とは言えないだろう。

 犯罪者だけでなく、『グロリス・ワールド』と酷似しているからには、粗暴そぼうなモンスターも数多く生息している。

 つまり、いつ自分が危険にさらされるかわからない。

 その際、オレが頼りにするのは魔術だろう。


 そのためにも、魔術を繰り返し使って、いざというときに魔術で解決できるように習熟しておくことは重要だ。特に身体強化の魔術が使えるなら、それに慣れておく必要はあるだろう。

 脚力を強めて逃げようとしたのに、脚力が強すぎて上手く走れず転倒、なんてことになったら、本末転倒だ。……いや、別に上手いことを言おうとしたわけじゃない。


 もちろん、新しいルーン魔術をどんどん試して、できることを増やしていくのも大事だ。それと保有魔力量も上げられる。

 魔術を使うための魔力は、少なくて困ることはあっても、多くて困ることはないからな。


 体を鍛えること。

 小さな頃から運動を習慣づけておけば、将来、運動音痴や体力不足になることはないだろう。前世では、運動が苦手だった悪い思い出を塗り替えたい。


 この世界でのことを考えるなら、きちんと戦闘技術も身につけたいところだ。

 もちろん、オレにはルーン魔術があるが、いざというときのためにできることを多く持っておくことは重要だと思うほどだ。

 前世の記憶の中には、格闘技の知識などもあるが、自分が習っていたわけでもなく。あくまでスポーツの観戦をしていただけだ。実際に自分が同じように動けるわけでもない。

 例えば、パンチにしても、ボクシングのイメージはあるが、どうやるのが正しいパンチなのか、どうすれば正しいパンチを打てるかは分からない。


 それに、この世界では剣や槍など、武器による戦闘技術が、一般的なものだろう。

 それを是非とも学びたい。剣術は男の子のロマンのひとつだよね。

 問題は、この世界では、婦女子が、剣術など野蛮な行為に興味を持つことが許されるかどうか。

 中世的な世界の雰囲気としては、「家長が絶対で、娘は政略の駒」みたいな価値観がまかり通っている可能性もある。


 …………娘に駄々アマな父親には感謝の気持ちが絶えない。


 旅に必要な知識と技術を覚えること。

 オレはバックパックをひとつ背負って旅に出ることに憧れがあった。そのために、前世ではその手の情報コンテンツを読んでいたし、少しずつ貯金もしていた。まだまだ目標金額には届かなかったし、叶える前に事故にあってしまったわけだが。


 ルーン魔術があれば、旅をするのにも助かるし、楽ができそうだ。

 だから、それ以外の必要な知識を得て、野外で困らないように訓練をしていきたい。

 ただ、これについては優先度は低くて、後回しだな。

 旅をするにしても、オレはまだまだ幼すぎる。

 早くても、成長してきちんと両親の許可がもらえる目処が立ってからだろう。


 入浴を普及させること。そのためのお風呂を造ること。

 お風呂は日本人の心です。


 できる女の子の修行として、料理や裁縫などの家事を学ぶこと。

 前世は、ひとり暮らしだったので、最低限の知識と腕前はある。

 料理については、前世の料理を作ってみたい。前世で好きだったトンカツやピザにも挑戦しよう。

 今の食生活に強い不満などはないのだが、こう、魂に刻まれた懐かしい味というのがある。

 まあ、味噌や醤油については、ほぼ諦めているが……



 大雑把にまとめると、こんな感じか?

 将来的には、世界を旅して回ったりしたいと思っているが、これは両親が許してくれるかが問題だ。

 女の一人旅、しかも良家の第一子となれば、箱入りのご令嬢コースまっしぐらでもおかしくない。

 比較的自由にさせてくれそうな両親とはいえ、十五歳の成人になるまでは親元にいるのが普通のようだし。


 まぁ、新しい人生は始まったばかり、ゆっくりと頑張ろうか。

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[気になる点] ルーン魔術で風呂を作りそうだね
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