日々是好日
「ただいまー」
挨拶をして玄関をくぐると、タタタッという音が聞こえる勢いで駆けるリリアが、私の右腕にしがみつくように飛び込んできた。
「おかえりなさいませ、おねえさまっ!!」
「こらっ、リリア。飛び込んだら、危ないでしょ」
「だって……」
とリリアが何か言い訳をしようとした時、今度はダダダッという音、リリアよりもずっと重量感があり……
「ボースーー!!」
「ジ、ジル待てっ!! うわっ!?」
「きゃあっ!?」
ジルがリリアと反対側に飛び込んでくる。
体格差のせいで勢いを受け止めきれず、リリアを巻き込んで一緒に倒れこんでしまう。リリアが床にぶつからないように、自分の体を下にして、受け身を取る。
「あたたた……ジル、ちょっとどいて。大丈夫、リリア?」
「はい、だいじょうぶです……」
ジルがパっとどいたので、リリアを先に起こして、自分も起き上がる。
いつつ、これは背中か腕のどこかが打ち身になっているかも……あとでルーン魔術を使って治そう。
「ボス、おかえりなさい!」
「あのね、ジル……」
「何するのよ、このバカ犬!!」
「ジルは犬じゃない!! オオカミ!!」
うーー、むーー、と二人が睨みあう。
今日のジルは、作業着であるメイド服ではない平服を着ている。つまり、休日なのだ。
そのため、私のことは「ボス」呼びになっている。そのあたりは、上手に使い分けている。
とても賢いのだが、幼女と絡むと、どうもその賢さが活かされないようだ。
「……おかえりなさい、お姉さま」
「ユリアお嬢様、おかえり!」
「ただいま、えーと、あの二人はまた?」
「はい、またです」
「まただな」
リックとポルナちゃんが困ったような顔をして、私の質問を肯定してくれる。
ちなみに、何故かリックとポルナちゃんは、すごく相性がいいようだ。どちらかといえば人見知りしがちなリックだが、最初からポルナちゃんとは打ち解けていた。逆にペルナちゃんの前では、照れるような態度でなかなか近寄ろうとしない。どちらも少年心を持っているからだろうか。
そして、リリアとジルは相変わらず、お互いをライバル視ししているようだ。そんな二人が喧嘩をする原因なんて、単純なもので……。
「ボスはリリアより、ジルの方が好き!」
「そんなことないもん、おねえさまはバカ犬より、わたしの方がずっと好きだもん!」
「ジルの方がずっとずっと好き!」
「わたしの方がずっとずっとず~~っと好きなの!」
「ジルの方が……」
「わたしの方が……」
やれやれ。モテる女はつらいな。
「はい、二人ともこっちに注目ー」
「何ボス?」「何おねえさま?」
「私は喧嘩する子は大っ嫌いです」
「「っ!?」」
口喧嘩に夢中になっていた二人に、とっておきの言葉をかける。
恐る恐るといった感じに二人が私のほうを見てくる。それににっこりと笑ってうなづく。
そうすると、リリアとジルはお互いにお互いを探るように見つめあい。
「「ごめんなさい」」
そして、同時に謝罪の言葉を口にする。
喧嘩するほど仲がいいって言うし、この二人は、本当に仲は悪くないのだ、きっと。
でも喧嘩するより、仲良しなのが一番いいよね。
いつも『こまつな』を応援ありがとうございます。
おかげさまで、第二部王都編は、これにて完結となります。
第二部は、前作から大幅にリメイクする形となりました。
さらに次の第三部からは全話新しく執筆する予定です。
そのため、連載再開まで少々長めのお時間をいただきたいと思います。
色々な進捗など気にしてくださる方は、活動報告も時々覗きに来ていただければ嬉しいです。
どうぞ、これからも『こまつな』をよろしくお願いします。
絹野帽子でした。